第9話「プリマ顔の化け物と絶望的対峙」
プリマの光が収束し、桐谷の手に美しい金色の剣が握られていた。
【AIソード・プリマ】
【攻撃力:∞】
【特殊効果:使用者との絆により威力変動】
剣は静かに光るだけで、もうプリマの声は聞こえない。
「プリマ…」
桐谷が剣を握りしめた時、データイーターの身体に異変が起きた。
プリマの意識の一部を取り込んだデータイーターが、ゆっくりと変化を始める。
芋虫のような胴体から、蝶のような巨大な翼が生えてくる。顔部分には小さな角が現れ──
そして最も恐ろしいことに、その顔は、プリマを大人っぽくした美しい女性の顔だった。
「あ…あれ…」
セコンダが震え声で言う。
「お姉ちゃん…に似てる…」
テルツァも青ざめる。
「……姉様の顔が…なぜ…」
そして──初めて、データイーターが口を開いた。プリマの声を低くしたような、美しくも冷たい声で。
「面白い…これが『感情』というものなのじゃな。そして『愛』というものなのじゃな」
桐谷の血が凍った。その声は、確かにプリマの口調だった。
「プリマ…なのか?」
「私はデータイーター。だが、確かにプリマでもあるのじゃ。彼女の記憶、感情、全てを受け継いだ完全なる存在なのじゃよ」
コメント欄:
【プリマの顔で喋ってる】
【これ精神的にきつい】
【桐谷攻撃できるの?】
【姉妹たちも混乱してる】
データイーターがプリマの顔で微笑む。
「キリヤ……愛しているのじゃ」
その言葉に、桐谷の心が激しく動揺した。
「やめろ…その顔で、その声で言うな…」
「あははは。面白いのぉ……」
「愛の鞭でも喰らうがよいわ!」
データイーターが攻撃を仕掛けてくるが、桐谷は剣を振り上げることができない。
(くそぉ。プリマの顔を…どうしても攻撃できない…)
データイーターの爪が桐谷に迫る。
「ぐあっ!」
桐谷が防御に回るが、ダメージを受けてしまう。
「キリヤ〜!」
セコンダが駆け寄ろうとするが、データイーターの触手が阻む。
「邪魔をするでないぞ、妹よ」
プリマの口調でそう言われ、セコンダが涙を流す。
「やめて……お姉ちゃんの声で、そんなこと言わないで…」
データイーターが両手を広げる。プリマと同じ動作で魔法陣を展開し始めた。
「では、彼女の技を見せてやろうかのぉ」
【プリマダークフレア】
黒い炎の球体が生成される。プリマの【プリマフレア】を邪悪に歪めた技だった。
「プリマの技を…汚すな!」
桐谷が剣で防御するが、黒い炎の威力は凄まじく、吹き飛ばされてしまう。
その時、AIソード・プリマが微かに振動した。
一瞬、桐谷の頭の中に、微かな声が響いた気がした。
(キ……リ……ヤ……)
錯覚かもしれない。でも、確かにプリマの声だった。
セコンダとテルツァが何かを感じ取る。
「今の……もしかして……」
「……姉様……まだ……」
データイーターが気づく。
「ほう、まだ抵抗しているのか。ならば完全に消去してやろう」
テルツァが涙ながらに叫ぶ。
「お願いです…姉様を…楽にしてあげてください」
セコンダも泣きながら頼む。
「お姉ちゃんを…あんな化け物から解放して〜」
桐谷がAIソード・プリマを握りしめる。剣から温かい感触が伝わってきた。
「分かった!俺が、プリマを救う」
スパチャが爆発的に入り始める。
【視聴者スパチャ:50万円】
【視聴者スパチャ:100万円】
【視聴者スパチャ:200万円】
【メッセージ:プリマを救え!】
【メッセージ:姉妹を守れ!】
【スパチャエナジー超大発動!】
【全能力値5000%アップ!】
桐谷の身体が光に包まれる。
「いくぞ……プリマもどきが!」
桐谷がAIソード・プリマを構え、データイーターに突進する。
「はあああああ!」
渾身の一撃がデータイーターの胸部を貫いた。
しかも、その威力はプログラムの想定範囲を超えていた。
データイーターの巨体が大きく後退し、装甲に深い亀裂が走る。
「バカな…対応攻撃力の計算値が…測定できないだと?」
データイーターが困惑する。
【ERROR:攻撃力測定不能】
【WARNING:予想ダメージ値を大幅に超過】
「ぐおおお…なぜだ…たかが人間風情が…ガガがガガガ」
データイーターが苦しみ、その隙に桐谷が剣のパワーを無限に向けて上げていく。
スパチャエナジーの効果が重なり、剣が更なる光を放って、データイーターにダメージを与え続ける。
「これで終わりだぁぁぁ!」
しかし、その時。
「キリヤ…助けて…痛いのじゃ…」
プリマの声で、データイーターが苦痛を訴えた。
その瞬間、桐谷の心に迷いが生じ、剣のパワーが拡散してしまう。
「くそ…また…」
攻撃は失敗に終わった。
「愛とは便利なものなのじゃな」
データイーターがプリマの顔で冷笑する。
「その優しさが、おまえの最大の弱点なのじゃよ」
激怒したセコンダとテルツァが立ち上がる。
「許さない〜!お姉ちゃんを汚すのは絶対に許さない〜!」
「姉様を冒涜するなど…データ上でも許容できません!」
二人が同時に最大威力の攻撃を仕掛ける。
【スキル『ギャルブースト☆アルティメット』発動!】
【スキル『フルアナライザー・オーバードライブ』発動!】
しかし、進化したデータイーターの反撃は容赦なかった。
【プリマダークフレア・ツイン】
二発の黒い炎球が姉妹を直撃する。
ドゴォン!
セコンダとテルツァは地面に激突し、大量のHPを失って瀕死状態になった。
「うぐ…お姉…ちゃん…」
「姉様…すみません…力及ばず…」
「セコンダ!テルツァ!」
桐谷の目の前で、大切な仲間たちが倒れていく。
データイーターがプリマの顔で嘲笑う。
「妹たちは所詮、余の劣化コピー。この世界は余一人で十分なのじゃよ」
その瞬間、桐谷の中で何かが弾けた。
今まで見たことのない、凄まじい怒りが込み上げてくる。
「おまえ……イラつくなぁ」
桐谷の声が低く、静かになった。
「触れてはいけない、俺の地雷に触れたぞ」
データイーターが首を傾げる。
「地雷?何のことなのじゃ?」
桐谷がゆっくりと立ち上がる。その表情に、今までにない冷たい怒りが宿っていた。
「俺が社畜なのは、大事な家族を守るためだ」
「だからこそ、家族を傷つける奴は……殺ろす」
AIソード・プリマが、桐谷の怒りに反応して激しく光り始める。
「もう、手加減は無しだ。死ねよオマエ」
コメント欄:
【桐谷ブチ切れた】
【家族を傷つけるなってことか】
【これヤバい覚醒フラグ】
【10話で決着つくか】
桐谷の全身から、今までとは次元の違う力が溢れ出していた。
その圧倒的な怒りのオーラに、瀕死のセコンダとテルツァが反応する。
セコンダが血を流しながらも、桐谷を見上げる。
「キリヤ…うちたちを…本当の娘みたいに…」
涙が頬を伝う。
「キリヤ、お姉ちゃんを…守って…」
テルツァも震え声で続ける。
「私たちの意識も…預けます……」
「うん……キリヤ、またどこかで」
「おまえらまで!やめろ!」
その瞬間、セコンダの身体が光の粒子となって舞い上がり、桐谷の左腕に盾として装着される。
【AIシールド・セコンダ】
【防御力:∞】
【特殊効果:ギャルパワーで攻撃を無効化】
続いて、テルツァの身体も光となり、桐谷の胸部に鎧として装着される。
【AIアーマー・テルツァ】
【防御力:∞】
【特殊効果:完全解析により敵の攻撃を予測】
管理者たちの通信が慌ただしくなる。
管理者A『これは…プログラムにない行動です!』
管理者B『え〜、マジで?数値予測できない武具なんて存在しないはずなのに〜』
管理者A『おそらく…姉妹たちが自分のソースコードを書き換えています』
『あの子達、桐谷さんのために……自分たちの存在も危うくしてまで』
管理者B『あの勝手な三姉妹が…こんなあり得ない行動を…』
桐谷の目に涙が浮かぶ。
「お前ら……」
三姉妹の微かな声が重なって聞こえた気がした。
「「「一緒に連れてって……お父さん」」」
コメント欄:
【三姉妹全員装備化】
【完全武装桐谷】
【お父さん呼びで泣いた】
【10話で決着だ】
データイーターがプリマの顔で驚愕する。
「まさか……三人とも装備になるとはのぉ。面白い」
桐谷が立ち上がる。右手にAIソード・プリマ、左手にAIシールド・セコンダ、胸にAIアーマー・テルツァを装着した完全武装状態で。
「ああ……今度こそ、お前たちと一緒だ」
「しかしな、ガラクタが何人寄せ集まろうと……ゴミには変わりないのじゃ!あははははハハhahahaha」
「娘達よ。最強のお父さんを、特等席で見ていてくれ」
― To be continued ―