第8話「父の意地と娘の愛」
【スキル『深夜残業耐性』が自動発動!】
持久戦に特化した桐谷は、データイーターの触手攻撃を巧みに回避し続ける。
「こんなもん、深夜3時まで続く会議に比べりゃ楽勝だ!」
桐谷の動きに無駄がない。長年の激務で鍛えられた集中力と持久力が、今ここで花開いていた。
その姿に、コメント欄が震えた。
【泣いた】
【俺も娘いるから分かる】
【オッサン、あんた本物の父親だ】
【こんなの応援するしかないだろ!】
そして、怒涛のスパチャが画面を覆い尽くす。
【視聴者スパチャ:10万円】
【視聴者スパチャ:50万円】
【視聴者スパチャ:100万円】
【メッセージ:俺も父親だからな!最後まで戦え!】
【メッセージ:娘守る親父に全ツッパ】
【メッセージ:あんたは社畜パパの希望だ!】
【スパチャエナジーMAXチャージ!】
【全能力値2000%アップ!】
「うおおおおおお!!」
身体が光り輝き、迫り来る触手を片手で受け止めて跳ね返す。
全身から力が溢れ、まるで英雄のように見えた。
「いいか開発者ども!……創る側にも責任と意地ってもんがあるだろ!」
『うん……桐谷さん……頑張って!』
開発者A『……はい』
開発者B『なんか……目から汗が』
「負けるかぁぁぁぁ!」
桐谷のロングソードが次々と触手を切り落としていく。
コメント欄:
【オッサン最強!】
【親父の背中かっけぇ】
【これ少年マンガの主人公ムーブやん!】
【スパチャパワー半端ない】
高台では、三姉妹が避難を誘導していた。
「みんなー、こっちだよぉ〜!」
セコンダが住民たちを手招きしながら、時折桐谷の方を心配そうに見る。
「……避難経路の安全確認完了。住民の90%が高台に到達しました」
テルツァが冷静に状況を報告しつつも、手が震えていた。
「キリヤ……一人で大丈夫だろうか……」
プリマが戦場を見つめ、唇を噛む。
その時、データイーターが大咆哮を上げた。
ズガァァァン!
咆哮の衝撃波が温泉街の建物を薙ぎ払い、瓦礫が桐谷に襲いかかる。
「うわっ!」
桐谷が回避に専念する隙を突いて、データイーターの触手が襲いかかった。
即座に剣を構えて攻撃を受け止める。
しかし、その直後。
ガシャン!
桐谷の手にあった量産品のロングソードが、無残にも真っ二つに折れた。
「なっ……うそだろ……!」
コメント欄:
【ここで武器逝ったああああ!】
【せっかく盛り上がったのに!?】
【量産品の限界かよ】
【これやばくない?】
剣を失った桐谷は丸腰となり、再び触手が迫る。
「しまった……剣が……武器がねぇ……これじゃあ……」
桐谷が絶望的な表情で折れた剣を見つめる。
高台では、プリマもその折れた剣をじっと見つめていた。
「キリヤ!?……そうか……剣か……」
プリマが小声で呟く。
桐谷の剣は砕け散り、もはやただの鉄くずと化していた。
「まだだ!……俺は諦めねぇぞ!」
桐谷は拳を握りしめ、決意を固める。
「こうなったら素手で殴ってやる!スパチャエナジーがあれば何とかなる!」
【スパチャエナジー残量:120%】
【攻撃力強化:持続中】
プリマが震え声で言う。
「だめなのじゃ…キリヤ、素手で奴に触れるのは危険すぎるのじゃ…」
セコンダが涙目になる。
「キリヤ〜、無茶しちゃダメ〜!死んじゃったらどうすんの〜!」
テルツァも不安そうに呟く。
「……素手での勝率0.001%です。統計的に無謀すぎます」
その時、プリマの表情が変わった。内心で激しく葛藤していた。
「なあ、姉妹よ。余たちは……このゲームの産業廃棄物として奈落に捨てられたていた……」
プリマの金色の瞳に、涙が浮かぶ。
「じゃが……キリヤ違う。余らを娘だと言って、命がけで守ってくれている!」
そう言うと、プリマが高台から飛び出し、戦場へと駆けていく。
セコンダが叫ぶ。
「お姉ちゃん〜!危ないよ〜!」
テルツァも慌てる。
「姉様!避難指示に従ってください!」
しかし、プリマは振り返らずに走り続ける。
「余は……余は逃げないのじゃ!」
プリマの心の中で、決意が固まっていく。
(キリヤを絶対に生きて帰すのじゃ…それが、余に芽生えた新しい使命じゃ!)
その時、桐谷は光をまとってデータイーターへと突進していた。
「俺にはなぁ。住宅ローンの残債と、守るべき娘たちがいるんだよぉぉぉぁぁぁ!」
待ち構えていたデータイーターの触手が桐谷に迫る。
「キリヤッ!」
そこへプリマが桐谷を庇うように飛び出し、データイーターの触手を受け止めた。
「プリマ!?なんで戻った?!どけぇぇ!」
触手がプリマの身体を絡め取り、宙へと吊り上げる。
彼女の体から光の粒子が漏れ出し、データイーターへと吸い込まれていく。
「やめろ!プリマを離せぇぇぇ!」
桐谷が必死に手を伸ばすが、届かない。
【スキル『部下のメンタルケア』が自動発動!】
「プリマしっかりしろ!お前を失ったら俺は……!」
しかしプリマは、メンタルケアのスキルを振り切るように小さく首を振った。
涙に濡れた顔で、桐谷を見つめる。
「……余は、キリヤと一緒に戦うと決めたのじゃ」
データイーターの瞳が不気味に輝き、彼女を取り込もうとしていた。
管理者A『まずい!プリマの意識を吸収されたら、奴が自立知能を獲得してしまう!』
管理者B『プリマちゃん、それだけは……!』
コメント欄:
【やめろぉぉ!】
【プリマ食われる!?】
【助けろオッサン!】
【これマジで死亡フラグじゃん】
それでもプリマは笑みを浮かべた。
「皆……余に考えがあるのじゃ」
金色の瞳が、覚悟の光を宿していた。
「やめろ、プリマ!無茶をするな!」
セコンダとテルツァも駆けつけてくる。
「お姉ちゃん消えるとかマジ無理〜!やだよ〜!」
「……姉様、お気持ちは分かりますが!」
プリマが二人を見つめ、優しく微笑む。
「キリヤ……余には……最後の手段があるのじゃ」
「そんなこと、しなくていい!」
「余の意識をアイテムに……武器に、コンバートするのじゃ」
プリマが震える声で続ける。
「おそらく……余はもう、キリヤと話せなくなるじゃろう」
「なに言ってんだよ、おまえは……」
そして、決意を込めて続ける。
「……でも余は、おまえと共に戦える。それで悔いはないのじゃ」
コメント欄:
【これ剣になるやつだ】
【死亡フラグ立ちすぎ】
【泣きそう】
【プリマ様の覚悟やばい】
データイーターの触手に絡め取られたプリマの身体から、さらに光の粒子がこぼれ落ちる。
だがその光は、ただ吸収されるだけではなかった。
プリマの胸部に、剣の形を象った輝きが浮かび上がっていく。
「……余の残った意識を……剣に変換せよ……」
金色の瞳が、覚悟の光で揺れる。
「キリヤ……さよならじゃ。あとは……任せた……」
桐谷の目が見開かれる。
「プリマ……まさか……!」
データイーターが獰猛に咆哮し、光の剣を丸ごと取り込もうと迫る。
その瞬間、プリマの全身が閃光となって爆ぜた。
「やめろぉぉぉ!!!」
桐谷の叫びが響き渡る中、視界を埋め尽くす白光。
そして次の瞬間──プリマの姿はもうなかった。
そして桐谷の手元には、淡く金色に輝く“未完成の剣”が残されていた。
― To be continued ―
なんであれ……
生み出したからには作り手の責任てもんがある!
ボクが彼らを導くんだ。
『急に目覚めたんですか?』
桐谷「頼むぜ相棒」




