第7話「最恐データイーターと絶望的対峙」
ズドォォォォン!
巨大な亀裂から現れたのは、桐谷の想像を絶する化け物だった。
全長50メートルはある巨大なワーム型のモンスター。その体表には「ERROR 404」「SYSTEM FAILURE」「DATA CORRUPTION」といった文字が血管のように脈打っている。
「うわぁぁぁ!何だよあれ!」
セコンダが桐谷の後ろに隠れる。
「やば〜、これ超無理ゲーじゃない〜?」
テルツァが眼鏡をクイッと上げる。
「……脅威レベル:S+。推定勝率:0.003%です」
「おいおい、少年誌の絶望シーンでも勝率1%くらいはあるもんだろ?小数点以下ってなんじゃそれ……」
コメント欄:
【やば、こいつコード食ってる!】
【データクリーナーの具現化じゃん】
【テルツァの勝率計算シビアやな】
【セコンダ完全にビビってる】
その時、通信に慌てた声が混じった。
管理者A『や、やばいです!実は…そのデータイーターは我が社が開発した三姉妹へのカウンター兵器なんです!』
「は?」
プリマが震え声で呟く。
「まさか……余たちを排除するために……?」
管理者B『まーそういうこと。君たち三姉妹が結託した場合に備えて育成してたんだけど〜正直ここまで育ってるとは』
セコンダが涙目になる。
「まじぃ、うちら殺されちゃうの〜?それひどくない?!」
テルツァも声が震える。
「……我々は、最初から排除対象だったのですね」
桐谷が怒鳴る。
「ふざけんな!三姉妹だってお前らの無責任な実験の犠牲者だろうが!だから俺の……俺の仲間だ!やらせねえぞ」
プリマの瞳が潤む。
「キリヤ……余を守ってくれるのか」
データイーターが巨大な口を開けると、近くの建物が光の粒子となって吸い込まれていく。
「え、一瞬で建物が……消えたぞ?」
さらに、逃げ遅れたスライムNPCに触手が触れた瞬間、スライムも光となって消失する。
『データイーターは強力なAIの反応を感知して排除します!本来なら三姉妹がバラバラだったため休眠状態だったんですけど……』
「つまり、三姉妹が俺の周りに集まったから……こいつが目覚めたってことか!」
プリマが桐谷の前に出る。
「キリヤを巻き込んだのは余のせいなのじゃ……ここは長女の余がなんとかする!」
「プリマ、それは違うぞ」
桐谷がプリマの肩に手を置く。
「奈落に落とされたのは俺のミスなんだ。でもな、お前と出会えたことを後悔なんてしてないぞ!」
セコンダとテルツァも桐谷の両脇に立つ。
「とりまキリヤ〜、うちらも一緒に戦うし〜」
「……データ上では無理ゲーですが、やってみる価値はあります」
プリマが決意を込めて言う。
「三姉妹で、いちばん攻撃力があるのが余じゃ。ここは任せるのじゃ!」
プリマが両手を広げる。
すると周囲に金色の魔法陣が幾重にも展開される。
その中心で燃え上がるのは、太陽そのものを模した炎球。空気を焼き尽くし、温泉街全体が灼熱に包まれた。
「──燃え尽きろッ!【プリマフレア】!」
炎の大砲が咆哮とともに放たれた。
空間を真昼のように照らし、轟音とともにデータイーターの巨体を直撃。
……しかし。
衝撃と爆炎が収束していく中、ヤツの体表に浮かぶエラーメッセージが蠢き始めた。
「ERROR 404」→「DOWNLOADING」
「SYSTEM FAILURE」→「COMPLETE」
プリマの炎は、一瞬で赤いコードの塊に変換され、データイーターの体内に吸い込まれていく。
「なっ……余の全力魔法が、変換された!?」
データイーターの口腔から漏れたのは、機械的な断片的ノイズだった。
『──データ、取得完了……プリマ・フレア……再現可能』
次の瞬間、データイーターの触手の一本が膨張し、プリマと同じ【プリマフレア】の炎球を生成してみせた。
「嘘じゃ……余の最強魔法が……」
テルツァが冷静に分析しながらも、声が震えている。
「……姉様たちをお守りします。データ解析、アンチマジック&防御魔法展開」
【スキル『プロテクションドーム』発動!】
青い光のドームが一行を包み、模倣【プリマフレア】の熱を確実に無効化していく。
しかしデータイーターの触手がドームに触れると、防御魔法も徐々に侵食されていく。
「防御魔法まで侵食してる……皆さんの安全が最優先ですが、長くは持ちません」
するとセコンダが怖がりながらも、桐谷の前に飛び出した。
「お姉ちゃんがダメなら〜、今度はうちの番っしょ!」
【スキル『ギャルブースト☆』発動!】
彼女の周囲にネオンイエローの光が弾け、派手なハートマークやスタンプ風のアイコンが宙を舞う。
その光が桐谷と姉妹に降り注ぎ、各自の身体能力や反応速度が数倍に跳ね上がった。
「キリヤ〜!バフっといたからガン攻めしよ〜!テンアゲでいこ〜!」
同時にデータイーターの体表に電飾のようなノイズが走り、動きが鈍ったように見える。
「奴の動きが遅くなったぞ!ていうか行動がラグってないか!?」
セコンダが俺にウィンクしながら叫ぶ。
「うち、そーゆーの得意なんだって☆ 超デバフでマジ盛り下げ〜?」
コメント欄:
【三姉妹の連携いいな】
【セコンダ怖がりながらいい仕事してるね】
【テルツァ内心震えてるの萌える】
【でも侵食で徐々に無効化されてるよね】
通信に管理者たちの声が響く。
管理者A『実は、データイーターには最低限の知能しか持たせていません。強力なAI反応をひたすら消去する…それだけの存在として設計されました』
「つまり、こいつは三姉妹を殺すために作られた兵器ってことか!」
管理者B『まー、言い方きついけど、そうね〜。でもさ、もしデータイーターがプリマちゃんの意識を取り込んだら、ヤバいことになるのよ』
「どういう意味だよ……」
管理者A『自立知能を獲得してしまいます!そうなれば、おそらくこのゲーム全体が制御不能に…』
桐谷は必死に考える。
(こいつ、全ての攻撃を「データ」として吸収してる。しかも、俺には興味がない。明らかにプリマたちを狙ってるな……)
見るとデータイーターの巨大な瞳が、プリマを見つめていた。
そしてデータイーターが巨大な触手が、プリマ目がけて一斉に振り下ろされた。
【スキル『炎上案件処理』が自動発動!】
ガッキーンッ
そこへ桐谷が割って入り、量産品のロングソードで触手を受け流す。
「プリマ!ここは俺が時間を稼ぐ!皆であの高台へ避難しろ!」
プリマが必死に叫ぶ。
「だめなのじゃ!キリヤは人間なのじゃ!余たちの問題に巻き込むわけには!!」
「うるせぇ!」
【スキル『女子説得術』が自動発動!】
桐谷が振り返る。
「俺には……おまえたちみたいな娘が、三人いるんだ」
「困ってる娘のために戦えない父親なんてなぁ……存在価値がねえ」
三姉妹の目に涙が浮かぶ。
「……」
「うち……うち……」
「……ありがとうございます」
「さあ行けプリマ!……それが長女の役目だろ」
「分かったのじゃ……」
後ろへ下がるプリマ。
桐谷を視認したデータイーターは、【萎縮効果】のついた大咆哮を響かせた。
大地が軋み、街全体が揺れる。
【スキル『パワハラ耐性』が自動発動!】
「うおおお!毎日上司に怒鳴られてる俺には効かねぇよ!」
コメント欄:
【父親力で草】
【今のは惚れる】
【でも勝率0.003%やぞ】
【いけオッサン!】
システムログが空間に走る。
【TARGET LOCK──PRIORITY:HUMAN/STATUS:排除対象】
データイーターの数十本の触手が一斉にうねり、桐谷を標的に狙い定める。
桐谷が一歩、前へ。
「来いよ、バケモン……!」
「二十年ブラック企業で鍛えられた社畜なめんなよッ!」
ロングソードを構える彼と、エラーメッセージを纏う怪物が対峙する。
今まさに、企業が生み出した『執念』 と『怪物』 が、激突しようとしていた。
― To be continued ―