第5話「キャバ嬢とプリマ様の試練」
翌日の夜。
桐谷は重い足取りで『エルフキャバクラ・ミスティア』の前に立っていた。
「……なんで俺がこんな所に」
店の外観は、まさにシンデ◯ラ城の出来損ないのような建物。しかし下層部分だけ異様にキラキラしたネオンが光っている。
入り口のドアを開けると──
「いらっしゃいませ〜♪」
エルフの美女が出迎えてくれた。が、その直後。
「いらっしゃいませ〜♪いらっしゃいませ〜♪いらっしゃいませ〜♪」
同じセリフを無限ループで繰り返している。
「おい……この子バグってるぞ」
『あー、それ担当デバッカーが失踪中で』
「この会社大丈夫かよ……」
店内を見回すと、もっとカオスな光景が広がっていた。
VIP席では巨大なドラゴンが、シャンパンタワーを注文している。
「もっと高いやつを持ってこい!金なら腐るほどある!」
その隣では、ゴブリンの集団が一気飲みゲームで次々と昇天している。
「うぐぁあああ!」「兄貴ぃ!」
さらに奥では、オークがエルフ嬢に酔って絡んでいる。
「オレと結婚しろ〜!種族の壁なんて関係ねぇ〜!」
コメント欄:
【何この無法地帯】
【モンスターがキャバクラとかw】
【ドラゴンの金遣い荒すぎる】
【ゴブリン全滅してるじゃん】
【これ場末の格安居酒屋だろ】
「俺が思ってたのとぜんぜん違うんだけど!」
そのとき、プリマが桐谷の隣に現れた。
「よく来たのじゃキリヤ。さあ、席に着くのじゃ」
「あの〜プリマ様、ここ本当にキャバクラなんですか?まだワ◯ミの方がマシじゃ……」
「黙って座れ。今夜はおまえの真価を見させてもらうのじゃ」
プリマに促され、桐谷は恐る恐る席に着く。すると、担当のエルフ嬢がやってきた。
「お疲れさまです〜。お飲み物は何になさいますか〜?」
「あ、とりあえずビールで……」
「承知いたしました〜。お会計は視聴者様のスパチャ連動となっております〜」
「は?」
画面右上に表示された。
【現在の支払い残高:0円】
【スパチャが入るまでお飲み物は提供できません】
コメント欄:
【課金しないと飲めないのかよ】
【斬新なシステムだな】
【誰か恵んでやれw】
『このシステム、プリマが勝手に作ったんですよ』
「リアル課金て鬼畜すぎるだろ!」
そのとき、視聴者からスパチャが入った。
【視聴者スパチャ:500円】
【メッセージ:オッサン頑張れ!ビール代だ!】
「あ、ありがとうございます……」
ようやくビールが運ばれてきたが、周囲のカオスは止まらない。
するとモデルみたいなスタイルをしたエルフ嬢が、困り果てた表情でやってきた。
「すみません、あちらのオーク様が暴れて……」
見ると、さっきの酔ったオークが大暴れしている。
「誰もわいの価値をわかってねぇ!上司は大バカでよ!部下も生意気でムカつくんじゃぁ〜!」
そう叫ぶと持っていたシャンパンを、隣でなだめる小柄な美少女エルフにぶっかけた。
「きゃあ!やめてくださいよぉ」
半泣きで叫ぶ小柄エルフを見て、桐谷は何かカチンときた。
「プリマ様、スタッフが困ってますけど」
「余は、接客には口を出さんことにしておる。ただ、客同士であれば、その限りじゃないがのぉ」
すると今度はオークが小柄エルフのスカートに手を突っ込んで明らかなセクハラ行為を始めた。驚いて泣きじゃくるエルフ。
「……おい、あいつ」
桐谷は席を立ち、オークの元へ向かった。
【スキル『部下のメンタルケア』が自動発動しました】
「お疲れさま。仕事、大変みたいだな」
桐谷の優しい声に、オークがピタリと止まった。
「え?あ、ああ……毎日残業で……って人間?」
「分かるよ。必死に頑張ってる部下を労うのも上司の仕事だよな。でも、君の努力、ちゃんと分かってるかもしれないよ」
「え?そうなのかな」
「そのマメだらけの手。毎日コツコツ努力してるんだって……見れば誰でも気づくよ」
オークの目に涙が浮かんだ。
「うぅ……分かってくれる人がいた……」
「だからさ……同じように頑張ってるこの子達にも、君の優しさを分けてあげたらどうかな?」
「うん、わかった」
コメント欄:
【オークを説得したw】
【部下のメンタルケア発動】
【オッサンの包容力やばい】
続いて、会計でトラブルが発生した。
「おっふ!シャンパン一本で50万円?!」
ドラゴンが激怒している。
【スキル『ローン計算』が自動発動しました】
「ちょっと待ってください」
桐谷が伝票を見ると、一瞬で計算し終えた。
「これ、消費税の計算間違ってますね。正確には463,000円です。さらに、このサービス料、二重計上されてます。本来なら398,000円が正しい金額ですよ」
店員が青ざめた。
「え、あ、本当だ……申し訳ございません……」
ドラゴンが感動している。
「おお!この人間、信用できる!」
コメント欄:
【ローン計算スキルすげぇ】
【ぼったくり一瞬で見抜いた】
【ドラゴンから信頼獲得】
【これが鍛えられた社畜の力】
次々と問題を解決していく桐谷を、プリマが離れた席からキラキラした瞳でじっと見つめていた。
(なんじゃ……ただの人間ごときに余の胸がざわつくなど……)
そのとき、スパチャが連続で入り始めた。
【視聴者スパチャ:1,000円】
【視聴者スパチャ:2,000円】
【視聴者スパチャ:5,000円】
【メッセージ:オッサンカッコいい!】
【メッセージ:これぞ大人の魅力!】
【スパチャエナジー大発動!】
【全能力値300%アップ!】
桐谷の周りが光に包まれる。エルフ嬢たちも、モンスターたちも、みんな笑顔になっていく。
「すげぇ……この人がいると場が落ち着く」
「久しぶりに楽しい夜だわ」
気がつくと、桐谷は中央のソファに王様のように座っていた。
その周囲を目をハートにしたエルフ嬢たちが我先にと擦り寄り、色目を使っている。
「キリヤ様〜、ワタシにもお話してぇ♪」
「私がお酌します〜♪」
「ちょっと、ワタシが先よぉ!?」
ドラゴンがゴブリンたちに命じて、桐谷の前に巨大なシャンパンタワーを作らせている。
「この方には最高のもてなしを!急げ!」
「はい、ドラゴン様!」
そして、あの暴れていたオークが後ろから桐谷の肩を揉んでいる。
「キリヤさんみたいな上司なら良かったなぁ……」
そう、いつの間にか桐谷は、キャバクラの帝王になっていた。
コメント欄:
【色街帝王キリヤ爆誕www】
【オッサンもてもてやんけ】
【これぞ本当のハーレム状態】
【これが社畜の逆転劇か】
プリマの頬がほんのり赤くなった。
(オッサンのくせに、なんかカッコ良いではないか)
その時だった。
ガシャーン!
店の奥から、巨大な虎型のモンスターが現れた。全身がバグでチカチカ光っている。
「ガウぉぉぉぉン!」
客たちが一斉に逃げ出す中、エルフ嬢の一人が転んだ。
「きゃー!」
虎型モンスターが襲いかかろうとする瞬間──
「おい、そこまでだ!」
桐谷が颯爽と割って入った。
「みんな!俺に任せて避難してくれ!」
コメント欄が爆発する。
【オッサンが囮に!】
【また関節狙え!】
【今日は全部カッコよすぎ】
【俺たちのキリヤ!】
【ドラゴン使えねえな】
そのとき、視聴者からの大量スパチャが一気に流れ込んだ。
【視聴者スパチャ:10,000円】
【視聴者スパチャ:20,000円】
【視聴者スパチャ:50,000円】
【メッセージ:オッサン最高!】
【スパチャエナジー超大発動!】
【全能力値500%アップ!】
桐谷の体が眩い光に包まれた。
「うおおおお!でもこの剣もう折れそう……!」
コメント欄:
【はよ予備買えやww】
【武器ガチャ実装しろ】
【いっそ黒服の二刀流でヤレ】
しかし、500%アップした腕力で、量産品のロングソードが虎型モンスターを一刀両断する。
虎型モンスターは一撃で光の粒子となって消えていった。
静寂の後、店内に拍手が響いた。
「すげぇ!」
「人間なのにあんなに強いのか!」
すると、顔を赤らめたプリマがゆっくりと桐谷に近づいてくる。
「おまえを……評価してやる……のじゃ。でも忘れるでないぞ」
そして、誰にも聞こえない小声で呟いた。
「(……余が、おまえを見つけたのじゃ)」
明らかに照れ隠しをしているプリマを見て、桐谷は苦笑いした。
「ありがとうございます、プリマ様」
そのとき、プリマが一人呟いた。
「……あの二人の気配がするのじゃ」
「二人って誰だ?……まさか」
プリマは振り返ると、不安そうな表情を見せた。
その金色の瞳に、初めて怯えの色が宿っていた。
「……あの二人が手を組んだら、余の手にも余る」
そう言い残すと、プリマは湯けむりのように消えていった。
コメント欄:
【次女と三女くるー!?】
【姉妹喧嘩で修羅場の予感】
【プリマ様キリヤに惚れてるやろ】
【6話が楽しみすぎる】
桐谷は一人、夜のキャバクラで呟いた。
「……なんか、また面倒なことになりそうだな」
― To be continued ―
-------あとがき---------
作者「プロットここまでなんですけどぉ」
桐谷「そんな気はしてた」
『感想という名のアイデアをお願いします』
ていうか続けるのこれ?
どうすんのボク。