62.『黄鈴屋』のお姫様
「逃げろ〜!!」
「おい、戦が始まるぞ!しかも、強盗団と猫妖怪の!でもこれは俺たちも巻き込まれる…」
流華と6人組の強盗団。『黄鈴屋』の近くの店の前で勝負が始まる。その周辺にいた妖怪、死者たちは逃げていく。
流華は何も喋らずに、鋭い目付きで強盗団の目を見る。
(こいつらはあたしが使う毒の妖術を使ってもあっという間にコテンパンにできるな)
流華が使う妖術は主に毒を使って敵を倒すことができる。蛟竜毒蛇など。
(本当に大したことがない強盗団だな)
余裕で強盗団を倒せると思っている。そのため、妖術は使わず刃先が曲がっている巨大な矛を使って倒すことにした。
「何だ?どうしたんだ?俺様たちにビビってんのか?」
そのことを言われるも、流華は下を向いている。強盗団の質問を無視した。
沈黙の時間が数分続くと、強盗団らは少しずつ苛立ち始める。
「無視してんじゃねえよ!俺たちが言ったことが聞こえないのか?」
すると、強盗団の一人が「何とか言えっ!」と強く言いながら流華に殴ってくる。しかし、流華はそのことにもかかわらず、その矛を振り回した。圧倒的な速さだった。一度当たると、致命傷を与えるほどだ。
「うわ…あっぶね…」
その矛に当たりそうだったが、強盗団の一人は何とか回避ができた。
「おい、あたしから聞くけどさ。お前らはなぜあたしを狙いに来たんだ?」
「あ?何言ってんだ。俺たちはお前を頃しにきたんだぜ。だって、俺らは最強だも〜ん」
強盗団らは冷笑を浮かびながら最強だと述べていた。だが、流華は呆れた顔を浮かべる。頭の中で血がのぼると、流華は強盗団の一人がいっている間に右手で腹を殴ったのだ。
「ぐはっ!」
「なんだよ、これは…」
強盗団の一人は血吐しながら気絶。それを見た残りの5人は吃驚をした。あんなに強いとは思えない力だ。
左手で持っている矛を再び振り回した。
「おい、あたしがただ単に食い物を求める旅をしてるのに邪魔をするだけはやめてくれない?」
そのことに対し、残りの5人は「ごめんなさ〜い」と怯えながら一目散に逃げていった。
「ったく…強盗団のせいで他の死者たちが逃げていったじゃない。戻っていいよと言うの面倒だな…」
流華は溜め息を付きながら口に出した。下を向くと、まだ強盗団の一人がまだ血吐しながら気絶している。
「まっ、いっか。こいつはそのうちに地獄へと連れていかれるだろう」
そう思いながら『黄鈴屋』へと向かって行った。
黄泉の国や守護国で悪事を犯すと地獄へと強制的に連れて行かれる。気絶させられ、目が覚めたときには既に地獄へ着いている。そのため、地獄への行き方はその管理者しか分からないのだ。
流華が『黄鈴屋』という看板を目に付くとすぐにその店だと分かった。
「ここか。よし、入ってみるか」
その店の玄関ドアをそっと開けると、店の人は誰一人いなかった。外へ出ても強盗団がいたせいで逃げられてしまい、中に隠れているかもしれない。
「すみませ〜ん。店員さん、いませんか〜?」
流華は試しにその店の店員を大声で呼んだ。しかし、誰一人来ていない。
「それぞれの部屋に入ってみるか」
靴を脱ぎ、矛を持ちながら中へと入っていく。それぞれの部屋を一つずつ襖を開ける。だが、店員や客が誰一人いない。二階へと上がり、その部屋の襖を開けても同じだ。
何度開けても同じことだろうと思い、今襖を開けた部屋へと入る。その部屋はかなり広い。畳上だけだ。宴会などで使われそうだった。
「これってどうなってるんだ…神楽坂って夜に開店するところだよね」
もう一度確かめたが、外れているわけがない。そう思っていたときだ。後ろに誰かがいる気配がしたのだ。
「誰だ!」
そこにいたのは、『黄鈴屋』の店員らしい死者だった。
「あなた誰ですか?ここは今、立ち入り禁止の場所ですよ。この部屋の上からここの従業員たちが転落したという噂は聞いたことはないか?」
「いや、あたしはこの店にはあんまり行ったことがないので分かりません。そもそもあたしは食い物を求める旅をしてるだけなので」
どうやら二階にあったこの部屋の縁側で『黄鈴屋』の従業員たちが次々と転落したらしい。原因は不明。だから、二階の縁側は使えなくなっている。
「そう。じゃあ、あなたもさっさとここから出ていきな。危険だからね」
「は〜い。そろそろ出ていきますね」
流華はそう言い、出ていこうとする。だが、一つ言い忘れていたことに気付き後ろを振り向く。
「あ、そうそう。ちなみに他の店員たちはどこにいるのですか?」
すると、その死者は本性を明らかにしたのだ。
「店員さんたちはね、あの人の供物にしたんだよ。あの人ってね女好きらしいから。確か、雪のような白い狐妖怪だったかしら」
あの人とはいったい誰なのだろうか。
「あの人とは誰なんですか。しかも供物って」
「あの人の名前は千暁さん。でも、殺したりなんかはしてない」
そのことを聞き、流華はなんとも言えなかった。
「え…じゃあ、みんなは千暁さんのところに行ってるのですか」
「そうそう。あの人はかっこいいから。ちなみに奥さんや息子さんもいますし」
「何だ…そういうことか」と流華は小声で口に出した。すると、千暁に家族がいることを知り、流華に家族がいることを打ち明ける。
「店員さん、実はあたしも息子と娘がいるんです。でも娘の方の名前が決まらないんですよ」
「あら、そうなの?どういう名前にするかは決まってるの?」
流華は真剣に悩んでいた。娘にはかわいい名前を付けたいと思っている。
(何か、この神楽坂にせっかく来たからこの街を連想とした名前を付けたいな)
そう悩んでいると、店員が「ねぇ、こんなのはどう?」と聞かれた。
「ここは『黄鈴屋』という店だから鈴という名前はどう?」
「鈴という名前か…」
確かにこの街と連想している。
「少し考えさせていただきます。ありがとうございます。あ、もうこんな時間か。あたしはじゃあ、そろそろ帰りますね」
流華は玄関から店を出ていった。刃先が曲がっている巨大な矛を振り回しながら、自宅へと帰っていく。
まだ真っ暗な夜だ。行灯が付いているおかげで昼のように明るいが出歩いている死者、妖怪は誰一人いない。
「鈴か…どうしようかな…」
正直、流華は娘に名前をどうするかまだ悩んでいる。でも、鈴だとしっくり来ない。鈴、鈴と何回も言い続けた。
「鈴か…鈴の音はリンリン…」
すると、あることを思い付いたのだ。
「そうだ!鈴にしよう!」
こうして、流華の娘の名前は鈴という名前に決まった。と思ったが、一文字だけだとしっくり来ない。
「鈴の姫様と連想して、鈴姫という名前にしよう」
流華は鈴姫という名前に決まって張り切っている。楽しそうにしながら自宅へ帰る。その自宅は、神楽坂から出て少し近い場所にあった。
数十分が経つと、ようやく流華の自宅へ着いた。その自宅は木材の匂いがする古民家だった。
「ただいま〜。あ、遅くなってごめんね」
「お帰りなさい。お母さん」
「そうだ、夕飯を作るから師闇は妹の面倒を見てくれる?」
流華の息子は師闇という名前だ。江戸紫の髪色をし、琥珀の瞳をしている。この時は3歳くらいだ。
夕飯が出来上がると、早速食べ始める。流華は現在、1人で2人の子供を育てている。仕事でお金を稼ぐのも人一倍苦労だ。
「ねえ、お母さん。僕の妹の名前は決まったの?僕も真剣に考えたんだけどね、なかなか思い付かない」
すると、流華は得意気な顔をしていたのだ。
「師闇、実は母さん、娘の名前を決めてきたの」
「お母さん、もう決まっちゃったの!?」
師闇は驚いた顔を見せる。名前は?と流華に聞いた。
「名前はね…あ、やっぱりご飯を食べてから教えてやろう」
「もう〜お母さん、ケチケチケチ!」
頬を膨らませながら怒っている。
「ごめんって。教えるから怒らないで」
流華が娘の名前を教えようとしたときだった。誰かが自宅に侵入してきたのだ。
「…はっ!誰?」
流華が目を大きく開けた。侵入してきた人は流華にとって始めてではなかったのだ。
「やぁ、こんばんは。流華、久しぶり。まさか、『傀儡師』を辞めて家族か…」
「それが何だって言うの!別にいいでしょ!あたしの人生なんだから」
すると、侵入してきた人は流華を殺そうと妖術を使う。それを見た流華も蛟竜毒蛇という妖術を使おうとする。
「師闇!眠っている妹を連れて逃げて!いいから早く!」
「あ、はい!」
師闇は鈴姫を連れて逃げようとしたが、3歳の師闇は鈴姫をおんぶするのにも苦労した。
「今すぐ、ここから逃げないと」
すぐに走って逃げていった。自宅に侵入してきた人数は一人。流華の方は既に侵入してきた男を殺そうと準備をしていたのだ。
(必ず、この男を殺して師闇と鈴姫と一緒に暮らさないと!)
師闇が鈴姫を連れて逃げていくのを見て、ごめんね。と流華は心の中で思った。
「お前を必ず殺す!」
流華はそのことを侵入した男に言った。




