60.藤楽邸
翌日の正午の頃になり、藍は『藤楽邸』という屋敷へ帰る時間になった。その屋敷は藍が住んでいる家でもある。
「お疲れ様です!」
藍は他の従業員に挨拶をした。4人は店の玄関へ行く。3人の子供妖怪に見送られ、『黄鈴屋』を出た。
「藍さん、いつも明るいし美意識が高いですね」
「そう?ありがとう〜!何かね〜この街の周りの人たちから美意識高いとか美少女だねとか言われるんだよね〜」
紅葉は藍の服装を見て、憧れを抱くようになった。紅葉は曙色の着物に白い牡丹柄。藍は藤色の着物に蝶と複数の花柄を着ている。
(あ…まずい…紅葉ちゃんに自慢したかも)
藍は自慢をしてしまう癖がたまにあるのだった。社交的な性格でもあるためいつも喋っている。そのため、たまに調子に乗るときがあるのだ。
「羨ましいです」
そのことに紅葉は藍が自慢しているのにも気付いていない。
(よかった…)
藍は安堵した。自慢をしていると気付かれたら嫌な顔をされるか心配だった。
「青蘭って、女子高生でもバレないんだね。さすがイケメン、いや美女は一般人とかに気付かれないんだな」
青蘭の姿は妖狐ではなく、人間の女子高生。芸能界にスカウトされそうな顔立ちをしている。
「別にこの顔になりたいわけではない。本当は普通に妖狐として過ごしたいだけなんだ。でも仕方ないからこの格好なの」
海斗にそう言われてしまった。だが、青蘭は淡々と返した。
「そうだった…ごめんごめん…」
その場を立ち去るような言い方で謝った。すると、2人の人間の死者が駕籠をかついでいたのを海斗が気付いた。駕籠が4丁。1丁でかついでいる死者が2人だ。
「来た来た!」
海斗が駕籠を担いでいる2人の死者たちのところへ走って行った。
「今日、ここへ乗せていただく鳥山海斗です。よろしくお願いします」
お辞儀をしながら言った。
「そんなにいいよいいよ。俺たちは仕事としてやってるからな」
なんと、駕籠を担いでいる死者たちは仕事でやっているようだった。
「そうなんですか?じゃあ、給料とかはどうしてるんですか?」
「給料?」
駕籠をかついでいる死者たちは給料のことは全く知らないようだ。その死者たちはどこの時代で生きていたのだろう。海斗はそう思っている。
「そんなもんはないよ。ここは黄泉の国なんだからな。妖怪たちと契約してるもんだからよ。いつからなのは知らんけど」
「契約…」
海斗は思わず呟いた。守護国は妖怪が住んでいる国でもある。まさか、妖怪と契約をしているとは全く知らなかった。
「あ、なるほど…です…」
何かしら返そうと相槌を打ちながら理解したのだ。しかし、海斗の返答は曖昧だった。
(まずい…僕がいまいちな反応をしたせいで気まずい…)
その場が気まずかった。神楽坂は夜に開店することが多い。そのため、まだ妖怪や死者たちが出歩いている姿はほとんどいない。店も閉まっている。
(早く去りたい…)
海斗は既にその場を去りたいくらい無言になってしまった。すると、背中をバンと叩かれたのだ。後ろを振り向くと、そこにいたのは女子高生に化けている青蘭だ。後ろに紅葉と藍もいる。
「どこ見てるの?まさか、俺の着物姿か?」
青蘭の口調が少しぶっきらぼうになっていた。相変わらず、椿柄の青い着物姿だ。女子高生に化けていても一人称が変わっていない。
「別に見てない。しかも君の着物姿なんて慣れてるし。似合ってるよ!その着物すがた」
そのことに海斗も少し怒り口調で言い返した。
「はいはい。そうですか」
青蘭はこれ以上言い返すことができなくなった。そのため、「ありがとう」とは言わずに貫き通す。
女子高生に化けている青蘭にとっては恥ずかしい。無理だ、変装したくないと心の中で思っている。
「あの…そろそろこの中に乗らないと遅れてしまいますんで。『藤楽邸』では遅刻が厳禁と噂で聞いたので乗ってくださいな」
駕籠をかついでいる死者の一人が言っていた。
「あ、すみません〜!」
「ごごご、ごめんなさ〜い」
海斗と紅葉は慌てながら駕籠の中へ乗る。紅葉も藍と喋るのに夢中になってしまったようだ。
「失礼しま〜す!」
藍は駕籠の中で座る前に一言言った。
「では、失礼します」
青蘭も淡々と一言言ったあと、ちょこんと駕籠の中で座る。女子高生の姿なので、男のときより体重が軽かった。
4人がそれぞれの駕籠の中に座ると、神楽坂から出発する。『藤楽邸』という屋敷が目的地だ。
海斗と紅葉はその屋敷へ行くのは初めて。一体どんなところだろうか。2人は楽しみと緊張が混じっている状態だ。
「それじゃ、行くぞ!お前らはちんたらすんじゃねえぞ!」
「おぉーーー!」
駕籠をかついでいる死者たちは大声で言っているのを聞こえた。正直、4人はその死者たちのことを近所迷惑だと思っている。すると、その死者たちが駕籠をかついでどこかへと進んでいく。
「わっせ!わっせ!わっせ!わっせ!わっせ!わっせ!」
駕籠をかつぐ死者たちの掛け声が聞こえた。
「何だ何だ〜?」
「え?何何?」
「これは何でしょうか?」
海斗、紅葉、藍は思わず口に出した。一体何なのかは全く分かっていない。それでも、その掛け声はまだ続いている。
「…」
青蘭の方はなんとも思っていないようだ。すると、青蘭はぐっすりと眠ってしまった。
4人は行く方向も全く分からず、駕籠の中に乗っているうちに『藤楽邸』へ着いた。駕籠から降りるとそこは屋敷の門の前だった。
「そんじゃ、また来ますよ」
すると、その死者たちは再び駕籠をかつぎ、どこかへと行ってしまった。
「行っちゃったね…」
紅葉は駕籠をかついでいる死者たちを見て、ひとりごとで呟いている。
「これ…どうするんだ…」
海斗は思わずノックを3回した。インターホーンもないからだ。すると、「合言葉を教えてください」と言われる声がした。
「合言葉…誰か知ってる?」
「もちろん私なら知ってるよ!」
藍は言う気満々だ。その屋敷に住んでいるからだ。
「きつねさん、お願いだから浮気しないで」
すると、自然に門が開いた。
「え~!?こここ、これが藍が言っていた言葉…」
海斗は吃驚した。きつねさんと聞くと、青蘭しかいないと思った。
「じ…」
「何?俺のこと?俺は全然浮気なんか…」
海斗に見られた青蘭は顔を赤くしながら言った。
門が開くと屋敷の前へと向かう。
「お待ちしておりました。海斗様、青蘭様、紅葉様。屋敷の中をご案内いたします」
『藤楽邸』の召使いが4人を屋敷の中へと案内していった。庭は藤の花が咲いている。藤色と白が混ざっていた。
中へ入るとそこは内装が木で建てられているのがほとんどだ。その屋敷の面積はかなり広かった。いくつかの部屋があり、召し使いや護衛もいるようだ。
「では、こちらの部屋へお入りください。珠璃様がお待ちしております」
召し使いがお辞儀しながら、襖を片方だけ開けた。4人がその部屋へ入ると、そこに珠璃がいた。藍と同じくらいの美人ママだ。シワや老け、シミがひとつもない。
「義母さん、ただいま~!」
「おかえりなさい。藍と…そのお連れ様は…」
「あ、この人たちはね、鳥山海斗君でしょ~青蘭でしょ~そして、紅葉ちゃん」
すると、珠璃は睨むような目付きで3人を見ている。
(なんか、怖い人だね…)
紅葉は心の中ではそう思っていた。すると、珠璃が睨むような目付きはしなくなった。
「久しぶりだね。元気か、青蘭」
なんと、女子高生に化けている青蘭に対して言うっていた。
「はい。体調は良好です。久しぶりです、珠璃さん。小さい時以来ですね」
青蘭の言葉遣いが海斗のときと全く違う。一人称は俺ではなく私。ですを使っている。
(始めて会ったけど、やっぱり珠璃さんの目付きが怖そうだ…)
珠璃に対して、最初は怖い人だと思っている。だが、藍は気さくに話していた。すると、藍が海斗と紅葉に話しかけた。
「鳥山くん、紅葉ちゃん、大丈夫。珠璃さんはいい人だから」
そのことを聞き、見た目で判断をしては行けない思った。実際、目付きが怖くても中身が優しいという場合が多い。
(そうだ。意外と珠璃さんは悪さをしなさそうだ)
海斗は、ヤンキーは苦手だ。見た目がヤンキーでも意外といい人だとは初めて知った。




