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妖の追凶〜time of hell〜  作者: 羽波紫希
華の道しるべ編
57/61

56.忠告と救済

青蘭は(りん)を横抱きにした後、店の屋根から飛び降り地面に着地した。周辺の人たちは既に逃げていった。


(煙臭い。やっぱり行灯や提灯の中に火があるからか)


『風森屋』の周辺では猛火に覆われている。残っているのは青蘭と鈴。2人きりだけだ。


「どうして…負けたのに…助けてくれるの…?」

「何でしょうね」


鈴が戸惑いながら青蘭に質問する。だが、そのことに対してはなかなか教えてくれなかった。


(教えてくれない…昔からそうなんだよね…)


鈴は内心、そう思っていた。


(小さい頃は少しくらいは笑ってたのに。やっぱりあのせいかな…)


青蘭が記憶を失ったことを思い出す。けれど、鈴は青蘭の小さい頃の記憶はしっかりと覚えている。


「ねえ…せいっ!」

「悪い。鈴の口の中に入れてるのは睡眠薬。今は少しだけ眠ってて」


鈴が青蘭に話題を振ろうとした瞬間だった。青蘭は鈴を横抱きにしたまま鈴の口を白い布で抑えた。その中には睡眠薬が入っていた。


(ごめん、鈴。今はこれで行くしかないんだ)


神楽坂の街並みは鈴が空気銃で撃ったことによって一部破壊。それでも仕方がなく後にするしかない。


鈴を横抱きにしながら数分歩いた。だが、青蘭も寝不足のせいか既に疲労が溜まっている。


「ゴホッ。ゴホッ。ゴホゴホッ…」


布など口を抑えるものがない。青蘭は火の煙を吸ったせいで苦しい咳が出た。それでも歩くことはしなかった。


「炎に覆われてる街を歩くのは苦手だ…」


すると、青蘭はある記憶を少しだけ思い出す。


「あの日、確か…窓ガラスの破片の上を歩きゴホッ…周りには高層ビルがたくさんあっゴホッ…」


思い出したことを昏睡状態の鈴に言った。だが、煙を吸っているか苦しい咳が出る。


(雪の国出身の俺は火を見ると苦手。いや、長時間近くにいることができない)


それでも歩かずに『黄鈴屋』へ向かう。体中が血だらけだ。鈴が使っていた空気銃に撃たれたせいか椿柄の青い着物は既に血だらけだった。けれど、種族は妖怪なので怪我はない。


「あと…そのビルが火事になったのか既に俺は気付いたときには炎に覆われていたんだ」


すると、青蘭は再びむせるような苦しい咳が出る。そのせいか前へ進むことさえできなくなる。そして、地面に正座で座り込んでしまった。


「ゴホゴホッ。ゴホゴホッ。ゴホゴホゴホッ…」


その苦しい咳が何度も続いていた。


(もう少し歩けば…炎に覆われている街から脱出できるのに…そしたら『黄鈴屋』へ付くはずだ)


そのことを思っていても前へ進むことができない。すると、正面から彼岸花の模様の着物を着ている男性が見えた。


(あれは…誰だ…?)


まだ距離が遠い。段々と近くなるとどこかで会ったような人だと感じた。


(取りあえず助けを求めないとっ!)


青蘭はその人に助けを求めることしか頭に入っていなかった。


「助けてください!」


必死に声をあげながらその人に助けを求めた。すると、その瞬間だった。


(はっ!『風森屋』に来た客だ…)


その客を見たとき、魅緑だと気付いたのだ。段々と近づいてくると魅緑の姿が見えてくる。


「魅緑か…」


青蘭は少し意気消沈してしまう。魅緑だと分かったときには逃げようとした。けれど、正座で座り込んでしまったせいかなかなか立つことができない。


(もう逃げることができないか…)


魅緑の姿が段々と見えてきた。青蘭のところに着いた魅緑は立ち止まる。


(何が言いたいんだ…こいつは…)


青蘭は魅緑のことを警戒した。すると、魅緑は含み笑いをしたのだ。


「どこかで会ったようなおねえさんだと思ったら、まさかのほんまに男だったとは」


魅緑はまだ含み笑いをしながら言った。


「男ですみませんでした。俺は女に似たような顔立ちしてるから余計、周りの妖怪や死者たちはたまに俺を女だと勘違いするんだ」


青蘭はぶっきらぼうに言い返した。


「へえ~」

「へえ~とは何ですか。俺を助けに来たのですか」

「いや…別に男の妖狐を助けるつもりなんてさらさらあらへんで」


すると、青蘭はかっとなった。


「それって俺と昏睡状態の鈴を助けないということですね?」

「せやねん。この猫ちゃんだけもらってくで~」


魅緑が鈴を奪い、横抱きにする。


「あ、言い忘れたことがあるんやった」

「何ですゴホッ。ゴホッ」


何ですかと言おうとしたら再びむせるような苦しい咳が出てしまった。その咳が続き、青蘭は辛くなった。


(もう…だめか…)


長時間も一部猛火に覆われた街の中にいたせいか既に限界を迎える。


(俺の氷の妖術を使う…か…)


猛火に覆われている街を冷たくした方が少しでも増しになる。そのためにも氷の妖術を使い、火を消せばいい。ただそれだけだ。


「これだけは忠告するわっ…」


魅緑が青蘭に何か伝えようとしたとたん、青蘭は氷の妖術を使って猛火を消した。


「ありゃ…何だこりゃ…炎に包まれたのが今度は氷の塊になってるやん…」


氷の妖術を使って火を消した青蘭に対して、魅緑は言葉を失った。何て言えばいいのかよく分からない状態だ。


「んで、忠告とは何ですか?」


既に青蘭は魅緑に忠告の内容を求めた。


「そうそう、忠告のことめっちゃ忘れとったやん」

「そうですか」


青蘭は既に魅緑からの忠告の内容が気になっている。


「実はな、俺…失踪事件の犯人…知ってるんやで」


そのことを聞き、青蘭は驚いた。


「じゃあ、犯人は誰?」

「そこまでは知らんが今もその事件の犯人はここにいる。表と裏の顔を見分けた方がいいで。中には性格の悪い妖怪がいるからよ」


魅緑はそれだけを伝える。


「そうか。表と裏の顔か…」

「あと、犯人の特徴を知っといた方がいいで。服装や顔の方じゃなくて」

「なるほど…」


青蘭は魅緑からヒントをもらったと思っている。正直、魅緑は訳の分からない妖怪だ。だが、本当はいい人だと判断した。



『風森屋』周辺の街を脱出するために今のうちに2人は逃げることにした。鈴はまだ目が覚めていない。それでも魅緑が鈴を横抱きにする。


「俺は大丈夫です。少しずつですが歩けるようにしますので」

「そう?あんまり無理せんといてな。それじゃ、逃げるぞ」


そのことに対して、「分かってますよ」と青蘭は少し無邪気な顔をしながら言い返したのだ。


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