54.過ぎ去る時間
一方、青蘭は控え室で布団の中で眠っていた。かなりの睡眠不足だったみたい。
「眠れたら復帰しないと…」
だが、力が入らないせいで起き上がることさえできない。すると、青蘭は眠気に負けてしまい、少しずつ目を瞑りながら眠ってしまった。
「ここは…」
そこに着いたのはただ雲のない青空の下に草原が広がっているところだ。女子高生に化けていたのが妖狐の姿に戻っていた。洋装の格好をしていたのだ。
「何だかあたたかいな。小さいころに行ったことあったっけ?」
気温はあたたかい。だが、草原が広がっているところ以外は何もない。青蘭は前へ進むことにした。
「何もない…」
歩き出しても草原だけが広がっている。周りに花が咲いていない。海もない。
「夢の中何だよね。なんで、ここに俺が連れてこられた」
この景色に問い詰めているような言い方で呟いた。
(妖術は使えるのか)
青蘭は試しに氷の妖術を出すことにした。覚えているところまで。
(雪魄氷姿・舞雪)
すると、雪の中で消えそうな美しい少女の姿を出した。
その少女は目を瞑っている。透明な白い肌。フリル付きのリボンブラウス。紺藍のジャンパースカートの付いたワンピースの姿だ。少し水色のかかる白髪に編み下ろしている。
(ここでは出せるんだ)
この景色では出せると確信した。すると、青蘭が出した舞雪がゆっくりと目を開ける。その目は灰色の瞳で大きく、ぱっちりとしていた。
「久しぶりに会ったね。青蘭…」
「久しぶり」
舞雪は吐息をしながら青蘭に話しかけた。それに対して、青蘭は淡々と返す。
「日傘持ってないけど、暑くないのか」
そう聞かれても「暑くないわ」と舞雪は返した。2人は目的地が分からないまま再び歩き出す。
「舞雪、ここがどこなのか知ってるか」
それに対して、「いいえ、知らない…」と舞雪は首を振り、吐息をしながら返す。
「そっか。俺もここがどこなのかよく分からない。一応、夢の中だ。今、記憶を取り戻す旅をしてるからそのうちにこの真相を見つけるさ」
「それはいいことだね。青蘭は、なぜ記憶を取り戻す旅をするの?」
青蘭は理由を話すことはなかった。話したくないからではない。伝えたいことを言葉にすることができないからだった。
「すまない。このことは答えられない」
「大丈夫。焦らないでいいよ。ゆっくり待つから…ね」
舞雪は青蘭が答えるまで首を長くして待つことにした。すると、冷たい風が吹いた。その強さは大きい。
「何だ。これは」
その風は一瞬だけ吹いてくる。青蘭は一瞬だけ目を瞑った。風が収まると、舞雪は既にこの草原からいなくなっていた。
「もう時間か切れたか」
すると、どこからか分からないが「起きろ」という男性の声が聞こえた。目を覚ますと、そこは控え室。布団から起き上がり立とうとする。だが、なかなか立ち上がることが出来ない。
「夢か…」
夢だと確信した。青蘭はすぐに女子高生に化けていることも分かった。
(起きろと言ってたのは誰?)
すると、後ろに誰かがいる気配を感じた。声を出すことさえ出せない。後ろをそっと向くとそこにいたのは魅緑だ。
「おはよーさん。やっと起きたか」
「魅緑さん…おはようございます」
魅緑は関西弁。女子高生に化けている青蘭は標準語として言った。
「ねえ、さっきお前の寝言聞こえてもーたわ」
青蘭は内心では恥ずかしいと思った。そのせいか顔を真っ赤にしながら沈黙をしていた。
「あの…悪いけどここを出てって貰えますか…今から着替えたりしたいので」
そのことに対して、「しゃあないな」と仕方がなさそうな顔をして出ていこうとした。襖を開けたとたん、魅緑は後ろを素早く振り向く。
「ちなみに舞雪って誰なん?」
眠っていたときの寝言が聞こえてしまったようだ。もし、彼女だと勘違いされたら困る。
(出てけ…それに俺がこの店の店員だと気付いてなさそうだし)
青蘭は魅緑が出ていくことを願っていた。顔を真っ赤にしながら無言にしている。
「聞いとるのか?」
魅緑が出ていかないことで既に頭に血がのぼっていた。すると突然、青蘭が布団から立ち上がる。
「いいから…早く出てけーー!!」
ついに頭に来た青蘭は魅緑のところまで行く。
「ちょっと、あかんあかん。押したあかんで」
「な~にがあかんだよ!それを言うなら押さんといでやん!」
追い出すように青蘭は魅緑を強く押し込んだ。魅緑が襖から完全に出たあとすぐに襖を閉めた。
「ハァ…」
何だかんだで青蘭は疲労が溜まる。そのせいかため息を吐いた。
―早く出てけーー!!―
魅緑。一応、客に対して、言っては行けないことを口に出してしまった。その声は近所迷惑になるくらいだ。『風森屋』の評判を悪くしそうだ。
「この店を早く辞めたい…」
青蘭はかなり落ち込んだ。今、辞めるか迷っている。
一方、海斗たちの方は気張らしとして双六で遊んでいる。
「負けた~君たちは運がいいんだね」
海斗はお花、心路、早知の3人の子供妖怪に負けていた。それだけでなく、マスごとの内容が悪い方向だ。
「まあまあ、双六ってただの遊びだから」
「そうそう!気軽に遊べばいいから」
紅葉と藍は既に1番か2番にゴールにたどり着いた。
「そうだね。まっ、楽しかったからいいや!」
海斗は遊んだだけだ満足していた。
(今頃、青蘭は手掛かりを探しているのかな…。そういえば、蓮と元緋は今頃何してるんだろう)
青蘭のことを気にしていると、蓮と元緋のことを思っていた。呪いの国では陰陽師を中には入れない。その理由で、朝国。人間の死者が住んでいる場所にいる。
(あの2人、たまに喧嘩になりやすいからな…)
蓮と元緋のことを思い出すと、喧嘩していないか心配になった。すると、紅葉に声をかけられてしまった。
「どうしたの?」
「あ~!ごめんごめん。つい考え事をしちゃって、でもこれは何でもないことだから」
海斗は紅葉には言わないよう、少し嘘を付いてしまった。
(紅葉にはごめんね…今は藍と3人の子供もいるからここでは言えないんだ…)
紅葉に心の中で謝った。
「ねえ、私多分もう休憩がそろそろ終わりだから行くね」
「僕たちはまだだと思うから」
藍はおもちゃのある部屋から出ていくため襖を開ける。その後、後ろを振り向き、「じゃあね」と言いながら手を振った。
「遊んだ時間があっという間だな…」
藍がおもちゃのある部屋を去ったあと、海斗は独りで呟いた。
(鳥山くんは、ちょっとずつ大人になってきてるね)
紅葉は海斗が前より変わっていると感じた。




