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妖の追凶〜time of hell〜  作者: 羽波紫希
華の道しるべ編
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49.風森屋の営業成績

青蘭は今、『風森屋(かざもりや)』の玄関の中に入ったところだ。


(ふ〜ん。玄関の中は凄く衛生的にされてるんだ)


何の表情もなく心の中で呟いていた。『風森屋』では床など丁寧に掃除されている。青蘭はそのように見えた。


「ねえ、君の名前は何と言うんだ?」


いつの間にか女将に名前を聞かれた。青蘭はそのことにはっとした。玄関の中を見ているばかりだったからだ。


「えっと、名前は…雪乃(ゆきの)といいます」


青蘭は偽るための名前を考えていた。そのせいか戸惑ってしまう。けれど、冬の名前を連想したおかげで出てきたのだ。そのことを女将に怪しまれなかった。


「それじゃあ、こっちに着いてきて」


女将が優しそうな顔をしながら青蘭の目を見てきた。案内をされ、ある部屋へと連れていかれる。着くと、そこは控え室。


(うわ〜随分と広いんだな…確か…藍が働いてる店も従業員が100人以上はいたからか)


控え室の中は広い。床は畳で覆われている。机はない。だが、真っ赤な座布団が左右に一つずつ置いてある。襖も目立つ金色に赤や白の牡丹の花柄で描かれていた。


(流石だ…『風森屋』もすごいね。まっでも、俺は長くは働きたくないし)


女子高生に化けている青蘭にとっては、最初からあまり向いてないと感じていた。まだ控え室は青蘭1人。他の従業員は誰1人来ていない。すると、誰かが襖を開けた。そこにいたのは女将。


「雪乃ちゃん、今からここの店の営業成績1位の妖怪をここに連れてくるからちょっと待ってて」


女将がそう言った後、襖を閉めた。その後が何もすることがないから暇。


(なんで俺は"雪乃"という名前を偽ったんだ…もし青蘭と名乗ったら大変だったな…)


青蘭は一時的に冷や汗をかいた。"雪乃"という名前を偽ったのが気付かれそうになるところだった。そうすると、この店には二度と来られない。真犯人を探すのにも苦労する。


(そしたらもっと面倒なことになる…今は女の姿で過ごすとするか…)


しばらく女子高生に化けた姿で過ごすことにする。飾り気のない性格として。


数分が立つと、ノックをする音が聞こえた。多分、誰か来るだろう。


(もしかして、藍に対して嫌がらせをしてきた女妖怪か)


青蘭は冷静になった。それでも、飾り気のない感じにする。襖を開ける音が聞こえ、右を向いた。そこにいたのは、純粋な瞳をもつ少女だ。


「こんばんは。初めまして、志野(しの)と申します。名前は…雪乃ちゃんで合ってる?」


そう聞かれ、志野に気付かれたかと思った。青蘭は「はい」と返した。


(志野さんって…)


志野はかなり勘が鋭い。男だと見抜かれたら終わりだ。その緊張で冷や汗が止まらなかった。すると、志野は青蘭のことを疑わなくなった。


「ごめんね、疑っちゃって。最近、ここも誰かが次々と失踪する事件が起きているからどうしてもつい犯人を疑う癖が出てくるんだよね」


そのことに青蘭は、頷きながらすぐに思い出した。藍が働いている『黄鈴屋(おうりんや)』でも100人程度中75人くらいは何処かへと失踪したことを。


「志野さん、すみません。ちょっとお聞きしいてもいいですか?」

「ん?何?」


青蘭は志野に質問をいくつか投げることにする。


「いつ頃、失踪する事件が起こったのですか?」

「えっと…確か、うちの店では多分、数ヵ月前の寒い時期からその従業員が1人、2人、3人と…だったような気がします」


すぐに着物の懐から手帳を出した。志野が言っていたことを手帳に記録をした。そこには「風森屋…数ヵ月前(冬)従業員1、2、3人と次々」と書いてある。字は行書で書かれている。


「では、もう一つお聞きします。その店の他に失踪した人数は何人くらいか覚えていますか?大体でいいですよ」


そのことに対して、志野は他の店の名前を思い出している。時間がかかっても、青蘭は待ち続けた。


数分が立ち、ようやく志野は答えがまとまった。


「そうだね…確か、『橙宮(とうのみや)』『百々瀬屋(ももせや)』『|黄鈴屋』とかは失踪した従業員はもう何人かは言ってると思います」


青蘭は『風森屋』のときと同じような書き方で記録していった。


(なるほど…俺はそんなに行ってなかったからわからない。でも何でそれでも店を開こうとしたんだ…?)


疑問に思っていたことをすぐには質問できない。そのようなことは呪いの国の長でもある珠璃(じゅり)に聞くことにした。


「忙しい中協力させていただき、ありがとうございました。では、営業成績表をこちらに持ってきて貰えませんか?」


そのことに志野は「わかりました…」と言い、すぐに持ってきた。青蘭の真剣な表情に少々驚いたのだろう。


数分が立つと、志野が営業成績表を持ちながら戻ってきた。


「これがうちの店の営業成績表よ」


志野が青蘭に渡した。それを見て、ほとんどの従業員は女妖怪だ。その中に志野もいる。確かに営業成績が一番上だ。


(ん?)


すると、藍に嫌がらせもしてきた杏子(あんず)もいた。営業成績のほうは12番目になっている。最下位ではなかった。


「ちなみに、この店で前に藍さんは働いていましたか?」


藍が前に『風森屋』で働いていたことを志野に聞いた。すると、志野の表情が変わった。


「そうよ。昔、一緒に働いたことがあるよ。この店で藍は一番を取ったことがある。だからそれくらい人気者だった」


そう聞くと、輝かしい過去を持っていたと青蘭は思っていたのだ。


「けれど、女の世界になると嫉妬、陰湿な嫌がらせなど。そう言うことがあると、すぐ他人の評価を下げようとするのよ」


志野が話しているのを聞いていると、女の世界が難しいと感じた。


(俺は男で生きていたけど、女って何だか面倒だな…)


青蘭は女として生きることの辛さを少しは同感できた。話声などを何度も聞こえていたからだ。すると、青蘭は座布団の上から立ち上がった。


「そうだね。確かにあなたの言う通りかもしれない。これはあくまで私の予測。男と女って意外と難しいものだよ」

「ん…?」


志野は何となく理解しながら話を聞いていた。


「多分結局、男は可愛い女に逆らえない人が多い生き物。けれど、女は嫉妬深く、時には影でこそこそと何かと言う人が多い生き物。あくまで予測だからこうかもしれないって感じです」

「お~何だか雪乃ちゃんってすごいね」


拍手をしながら青蘭のことを褒めた。


「え?そうですか?」

「そうだよ~!っていうか…質問1個だけするけどさ…雪乃ちゃんって、本当にうちの店で働きたいの?」


働きたいかを聞かれ、潜入したということに気付かれたのか。


(志野さんってやっぱり勘が鋭い…)


青蘭は答えが出てくるまでの時間がかかっている。正直に言うか今、迷っているところだ。

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