48.いざ、潜入!
(僕の夢の中はどうなってるんだろ…)
海斗は目が覚めたあとでも、そのことを考えていた。黄泉の国に行く前は神怪、朱雨が夢の中に一度も出ていない。
(そういえば…死んでからいろいろと変わってるな…)
布団から起き上がり、片付けながらそう思っていた。起きていた時には、紅葉はもう寝室にはいない。
「あ!僕だけだ」
海斗はかなり寝坊していた。急いで私服に着替えて一階へと向かっていく。
(急げ急げ〜)
足音を立てながら一階へと着いた。襖をバタンと開けるとそこに青蘭、紅葉、藍が既にいた。
「おはよう、鳥山くん。3人とも朝ご飯は食べ終わっちゃったけど、さっき目の前の食卓に置いてあるから覚めないうちに食べて」
話しかけてきたのは紅葉だった。
「ありがとう。紅葉」
海斗は、穏やかな笑みをしながら返した。すると、藍が海斗の髪が寝癖になっていることに気付く。
「鳥山くん、右側に寝癖がついてる」
「え!?」
藍が教えてくれたことで海斗は、自分の髪を試しに触った。
(ん?何か…つんとしてる部分が…)
海斗は右側の髪を触り続けた。すると、つんとしたような感触をしていたのだ。鏡を持ってない。なので分からないが、多分寝癖だ。
(…あ!ホントだ…待って待って…自分の家の前だったらいいけど、今回は女子もいる…最悪だ…)
そのことで海斗は顔を真っ赤にしてた。
「すぐ直してきま〜す!」
海斗はすぐに洗面所へと走って向かった。
戻ってくると襖を静かに開けた。それでも、海斗の寝癖は直らない。
「海斗って寝癖がなかなか直らない髪をしてるんだね」
海斗の直らない寝癖に気付いた青蘭は、この事を口に出してしまった。それを聞いた2人は目を丸くして驚く。
(青蘭…記憶を失っても寝癖が直らないことを口に出すのはあまりにも失礼だよね…)
失礼なことに気付いた藍は、さすがに強く言おうと思っていた。だが、青蘭は記憶損失者。過度なストレスを与えても忘れるだけ。
(さすがに鳥山くんには失礼だけど、どうすればいいかわからないな…)
紅葉は少し考えたが、全く思い付かない。
「大丈夫だよ、2人とも…僕の寝癖はいつものことだよ。黄泉の国に来る前もこういうことはあったから」
海斗は作り笑いをして返した。2人をそれ以上巻き込まないようにするためだ。2人は海斗のことを慰めようとしているように見えた。
「え?あ〜全然違うから…」
「そうそう鳥山くん。慰めようとしているけど、青蘭くんのことも考えているっという感じかな…」
すると、青蘭はそのことに気付いた。不快にさせてしまったことを。
(紅葉ちゃん…そんなことを青蘭と鳥山くんの前では…)
藍は口に出したい。だが、口を滑るわけには行かなかったのだ。すると、青蘭が何か言おうとしていた。
「ごめん。海斗、不快感にさせて悪かった。でも俺は悪気があるわけではないから。ただ、海斗がそんな風に傷付くと思わなかっただけだ」
青蘭が海斗に心から反省をしながら謝っていた。藍はそれを見て、珍しいと思っている。記憶を失う前の青蘭は素直に謝ることは一度もなかった。
(まるで人間に生まれ変わっているね。昔は「ごめん」と短い一言しか言ってなかったのに…)
藍は内心では驚いていた。
(青蘭くんってそう言うところもあるんだね)
紅葉は微笑みを浮かべながら感じている。すると、海斗は目を瞑っていた。すぐに開くと、青蘭に言おうとする。
「いいや、僕は全然許してないよ。だって、前に僕の欠点を誰かにいい広めたし」
すると、青蘭はそのことを思い出した。海斗が朝、起きる時間が遅かった日のことを。藍と紅葉もこの事に対して、驚いてしまった。
(やっぱりそっか…俺って人の気持ちを考えることが出来ないのか…)
青蘭がそのことを深く思い込んでしまった。すると、海斗の表情は満面の笑みに変わっていたのだ。
「青蘭、ごめん。それは、冗談だよ。そのことはもう許してるし忘れてるよ!ただ青蘭に嘘をついてみたかっただけ」
海斗が冗談を付いてよかったと思っていた。青蘭は、許さないとは言えない。
「これでおあいこだね!」
海斗は、笑顔で青蘭にそう言った。そのことに対して、青蘭は「そうだな」と返した。
「ちなみに、この冗談はここに来る前に僕のじいちゃんの嘘を真似してみたんだ」
3人の前で堂々と言った。すると、藍はあることを思い出した。海斗は目の前の食卓の座布団に座り、朝食を済ます。
「あ、ごめん。鳥山くん、実は3人に言わないと行けないことがあるんだ…」
3人は藍の方に注目をした。
「実は、今日の夜『風森屋』のほうで人手不足になって、私は今日休みじゃないから誰か1人行ってくれないかな…」
藍は「ごめん」と言いながら、両手を合わせた。
これはどうしようもない。そう思っていた3人。
「あの店、女子しかいないから女子に変装できる人、もしくは紅葉ちゃん」
すると、紅葉は言いずらそうな顔をしていたのだ。
「実は私もここの手伝いをしないと行けないのでちょっと無理かも…」
紅葉も手伝いに行くのは無理だった。こうなると、残りは海斗と青蘭。この2人だけになる。すると、青蘭が突然「俺が行く」と言ったのだ。
「え!?青蘭が?」
「そうだけど、誰か行く人いる?」
「いやいや、誰もいないからお願いしてるの」
突然、青蘭が行くと言っていた。そのことに藍は嬉しながらも驚きも隠せなかった。そして、青蘭が『風森屋』へ手伝いに行く事になったのだ。
「藍、青蘭なら大丈夫だ」
海斗が藍にこっそりと伝えた。
「青蘭は、女子高生に化けることもできるからね」
「え!?そうなの?初耳!」
すると、海斗は藍に静かにするようにした。青蘭に聞こえないようにするためだ。海斗は朝食を既に済ましていた。
何もしないでいた青蘭は、2人が話しているのを耳にしていた。聞こえてないと思えば、既にお見通しだ。
(何だろう…俺に何かこそこそ話しているような…)
青蘭は2人が何かこそこそと話しているように思ったのだ。
そして今夜になり、青蘭は『風森屋』へ手伝いに行く事になった。そのため、女子高生に化ける。
「これ…似合ってる?」
女子高生に化けた青蘭にとっては既に恥ずかしい。編み込みをしてまとめていた。さらに、黒いフリル付きのリボンを飾った。黒髪になっていたので、椿柄の青い着物に黒い草履を履いていた姿だ。
「人間の姿になっても似合ってますよ」
紅葉は思っていたことを失礼なく言っていた。
玄関まで見送ると、青蘭は『黄鈴屋』を出た。3人が手を振ったあと、扉を閉めた。
「青蘭なら大丈夫だよね〜」
海斗が穏やかに言った。すると、藍の表情が変わったのだ。
「今からあたしの店も開店の準備でもするかっ」
藍はまるで、悪役になったかのような態度を取っていた。
「はいっ!藍様!」
「仰せのままに〜」
思わず海斗と紅葉は使用人になったかのように同意をした。
一方、女子高生に化けた青蘭は既に『風森屋』へ着いていた。そこは、『黄鈴屋』と同じの一階と二階建てだ。見た目も華やか。その中に杏子という妖怪がいる。
(ここか。俺としては潜入捜査の感覚で行こう)
何か事件との関連になるよう行くと言って正解だ。青蘭は玄関を3回ノックをした。すると、「は〜い」という女性の声が聞こえた。玄関が開く音が聞こえる。
「あ、いらっしゃ〜い。確か、お手伝いに来た?」
その人は、優しそうな女将さんだった。
「はい、そうです。しばらく、ここでお手伝いをさせていただきますのでよろしくお願いします」
青蘭は笑顔を絶やさないようにした。演技をした。満面の笑みではない。
「それじゃあ、中に入ろっか」
女将さんに言われ、青蘭は早速中に入った。




