46.幽夢戦闘 その壱
「つ〜かこれ、落ちるんだけど!僕、高いところが苦手だから行きなり突き飛ばすのはあんまりだよ〜」
海斗は喚きながら落下している。雲の中を通過すると、視界が見えなくなった。
「神怪〜!絶対に許さないぞ!」
常に激怒していた。すると、落ちていく度にまるで血のような赤色に染まっている世界に着いていた。
(何これ…空、湖も赤い…)
そこは、空や湖が赤く染まり、遠くから見える山は黒く見える。ここは、海斗と神怪以外誰もいなかった。神怪は塔の上にいる。その塔は神怪の霊廟でもあった。
(ていうか…何で僕があの塔にいたんだろう…意味が分かんないよ…)
海斗は疑問に思っていた。だが、今はそれどころではなかった。下を見ると、余計怖くなる。
「落ちる〜!!」
喚きながら落ちて怪我をすることを覚悟した。
(大丈夫だ…大丈夫だよね…血のような湖に落ちたって僕は死者だから痛みも感じないから)
少々心配もした。海斗が死者だと思うには大丈夫だろう。けれど、落ちていく度に怖くなり、叫びそうになった。
「やっぱり怖い!無理!じいちゃんでも青蘭でもいい。誰か助けて〜!」
海斗は高所恐怖症でもある。そのせいか泣き喚いてしまった。
「ああ〜〜!!」
落下する速度は速いし止まらない。それでも、海斗は怪我をする覚悟をした。雲の中も通り過ぎ、間もなく地面に着く頃だ。
(どうか神様…仏様…雷様…)
海斗は関係ない複数の神様に祈り続けていた。すると、祈っているうちに背中が地面に着いてしまったのだ。
「あ痛っ〜!」
あまりにもその痛さに耐えきれずに口に出てしまった。
「神怪っ!あとで覚えてろよ!」
海斗は神怪のことをまた恨み始めた。上を見上げると、塔の上が赤く染まっていた雲に覆われている。そのせいか神怪が住んでいる霊廟が見えない。
(何だか今日は、アンラッキーだな…)
運が付いてない海斗にとって、気が重い。それでも、この境界線を抜けるために脱出を試みることにした。
(よし!じゃあ、行こう)
早速立ち上がり、歩こうとした。けれど、海斗は背中と腰に激痛が走る感覚がした。
「痛ってぇ〜!」
背中に地面が着いたせいで、まだ背中と腰の激痛が治っていなかった。死者だからと言っても痛みは変わらないのだ。
塔の上の霊廟の中に閉じ込められ、今も外からは出られない。それが約1000年。神怪はそれでも、脱出する方法を考えていた。
(俺はこれからどうすれば…)
脱出する方法が思い付かないか少し焦り始めた。
(ここを脱出をしないと俺の自由がなくなるしあの狐妖怪を殺すことができなくなる)
神怪は思い出した。ツンとした白髪。自由奔放で金遣いは汚い。爽やかな青少年の見た目をしながらも、複数の女性と付き合うあの狐妖怪のことを。
「絶対にあの狐妖怪だけは始末しないとな…」
既に神怪は腹が立っていた。すると、あることに気がつく。
「あっ。あの後継ぎ者に渡し忘れた物があったな」
思い出した時、渡し忘れたものを取りに行った。
戻ってくると、神怪が持っていたのは妖幻刀という刀だ。透き通った刃。柄の部分が白い。
「あったあった。これ、すぐに切れちゃうと思うんだよね。炎、水、草、雪、雷の五大元素が使えるし、この刀を後継ぎ者に渡すか」
すると、神怪は刀を持ちながら何かを唱え始めた。
「刀よ。此自信を鳥山海斗様のところまで送り届けよ」
唱え終わると、刀で刺すような感じに投げた。けれど、その後だった。神怪の左手が焦げるように焼き付いていたのだ。
「…はっ!熱い!これはまずい!」
すると、神怪は水の元素を使った妖術を出した。
(水滴石穿・雨露)
右手で、その妖術を出すと塔の中で小雨が降り始めた。黒い雲もないのが不思議だ。
「大丈夫だろ。後継ぎ者に刀も送り届けるようにしといたから」
神怪は扉を右手で閉めた。その後、扉を閉め終わると、扉が燃えるように消えていった。
(中に小雨を降らせて、左手がまだ燃えているからその火を消そっか)
体が外から少しでも出ると燃えてしまうのは、仕方のないことだった。そのためか神怪がいる霊廟からは出られない。多分、一生だ。
「外に出たいのに辛い…」
左手が燃えている火が消えるまでの待つ時間が暇だ。それでも、待つしかないと霊廟の中を何周か歩き回ることにした。
「暇だからこの霊廟の名前を付けよっと。じゃあ、名前を…空が紅く染まっているから…紅闇廟にするか。まっ、これ自分で名付けたからな」
この霊廟の持ち主がいないため、『紅闇廟』と名付けることにした。もし、海斗が帰って来たらこの名前を伝えるつもりだ。
一方、海斗の方は背中と腰の痛みに耐えながら一歩ずつ歩いていた。
「痛いよ…」
その痛みにもかかわらず、あまりにも激痛。杖がないと歩けないくらいだ。すると、海斗の後ろで刺すような音が聞こえた。
(何だ。一体…)
海斗が後ろを向くと、そこにあったのは新品のような綺麗な刀。刃の色が透き通るような鉄色。柄の部分が捻巻で白い。
(これ…チャンスだ!)
海斗はその刀を取りに行った。背中と腰の痛みにも耐えた。
(よし!掴むことができた!)
その痛みに耐えながら、掴んだことで少し満足していた。そのためかガッツポーズをしたのだ。早速、歩き出そうとするが痛みは治まらない。
(痛いし辛いし泣きそう…)
それでも海斗は刀を杖代わりにしながら一歩ずつ歩き出した。
「それにしても周りが誰もいないのがちょっと怖いし、景色も何だか全体が赤と黒が混じった色だな…」
海斗は思ったことを口に出してしまった。だが、誰もいないから聞こえていない。さらに歩き続けると、塔から少しずつ離れていった。
数分が立つと、森の奥へ行く道へと辿り着いた。
「僕も神怪以外誰もいないよね…」
海斗は不安のせいか体が震えていたのだ。それでも、勇気を出そうと右足を一歩踏み出した。刀を杖代わりしながら森の奧へと入っていく。
「神怪とか青蘭がいたらな…安心するのに。僕、幽霊とか駄目だからな。幽霊とかには強そうに見えるし」
海斗のそばに来ないにもかかわらず、口に出した。だが、海斗が持っていた刀が何なのかよく分からない。すると、右から何か音が聞こえたいたのだ。
(え…何…?誰?)
右を向くと、そこには誰もいない。気のせいと思い、奧へと歩き出した。
歩いて数分が立つと、今度は左の方から木を揺らしている音が聞こえた。海斗はそっと左の方へと向かった。すると、その時だ。背後から幽霊のような存在の死者が襲いかかってきた。
(…はっ!まずい!)
そのことに気付いた海斗は、素早く避けた。けれど、その死者は海斗にまた襲いかかろうとしていたのだ。一人、二人、三人と次第には沢山だった。
「何なんだよ〜!僕と神怪以外に誰かいたのかよ〜!ふざけるな〜」
海斗は逃げることしか頭になかった。
「本当に何なんだ〜!あの死者も神怪の仕業か〜」
神怪のことを思い出した。今は冷静に考えている暇もなく、ただ喚き散らすしかない。
「今日の僕の運勢は最下位だよ~!」
すると、海斗は刀をぶん回しながら、その死者から逃げていた。だが、それもつかの間足の速い男の死者が海斗に辿り着きそうだ。
(はっ…これはどうすれば…)
もうしようもないと思っていた。だが、海斗はあることを思い出す。
(僕は、今まで現実の世界にいた。だから戦闘に出たこともない。けれど今は、とりあえずやってみるしかない!変わるんだ!自分で変えないとっ!)
海斗は本気を出しながら刀で斬り倒していった。
(よし!でも、この刀は不思議に切れる!なんと言うんだろう…)
この戦は、あくまで海斗の夢の中。それでも、海斗は次々と死者を斬り倒していくことにした。




