43.才能のある妖たち
美食家である東は、アワビの寿司を一口食べていた。すると、東は一瞬だけ表情が変わったのだ。急に目付きが変わる。美味しいか判断しているのだろうか。
(美味しくないのか)
海斗はそう思っていた。
(どこか怪しい行動は…)
東の食べている姿を青蘭はじっと見ている。目を細めていても東には気付かれていない。
(食べたい!だが、この美食家が早く食べて結果を教えてくれたら…)
待ちきれない海斗は、東を見ながら食べるのを我慢した。すると、東の目付きが元通りになったのだ。
「う〜ん!実に素晴らしい味だ!これは行ける!」
その言い方は芝居をしているような感じだ。
「コリコリした食感と磯の独特な香りがして美味しいよ」
「こちらは水の国で取れたアワビをしようしています」
『黄鈴屋』の店長が答えていた。海斗は水の国と聞き、海を想像をする。アワビの寿司の他にも次々と東は食べていた。
「この海老も蟹の食感も行ける」
これでようやく食べることができる。そう思っていた海斗は舞い上がるような気持ちになった。
(初めて見たけど、この人なんだか独特だな…)
東の言い方を聞いていた青蘭は少し引いていた。
(結構食べることが好きなんですね…)
紅葉も本心は出さないが、心の中でそう思っていたのだった。
(マジであの人かっこいいかも!)
藍は東のことをかっこいいとしか判断していない。すると、襖が開ける音がしていた。
「失礼します。東様、次の店・『風森屋』へ参りましょう」
「ちょうどいいところだ。今食べ終わったよ」
東の執事だろうか。それとも護衛か。青蘭はそう思っていた。
店長、その従業員も東を玄関まで見送るためにこの部屋を出た。
「藍は見送りに行かなくてもいいのか」
青蘭は、『黄鈴屋』の従業員でもあった藍に聞いた。すると、「ううん」と首を振りながら返した。
「今回は行かなくていいや…」
藍がいつもの笑顔ではない表情を浮かべながら言っていた。どこかおかしい。東が来ていたときは浮かない顔を一つもしていなかった。だが、見送るときに沈んだ表情を。
(これは一体何だろう。東の怪しい行動はない。だとすると、東は今回の事件の犯人ではなさそう)
青蘭は神楽坂で次々といなくなる事件の犯人ではないと判断した。すると、黙っていた紅葉がある店のことが気になったのだ。
「藍さん、分からなかったらいいんですけど、『風森屋』という店はどんな店なんですか?」
そのことに対して、藍は目を大きく開けた。
「隠す理由もないわね…」
すると、藍は『風森屋』での出来事を全て打ち明けることにしたのだ。それは何も喋っていなかった海斗も気になっていたことだった。
「あの店、私が以前働いていたところよ。でも、私に対しての嫌がらせが酷くなってあそこを辞めた」
それはどういうことだろうと3人は思っていた。
(嫌がらせか。女子での関係は複雑だ)
海斗は、黄泉の国に行く前でもこのことはよく見かけた。女子同士の陰湿な嫌がらせが。それはあまりにも辛そうだ。
(もし僕が女子だったら関係について行けなかっただろう)
性格は内気な海斗にとっては、孤独な生活を送ることが多かった。学校でもそうだった。そのせいか自分から輪の中に入ることさえできない。だとすると、まるで幽霊のような存在だ。
(僕は独りでオンラインゲームしたりアニメを見る趣味を持ってたからな)
海斗が住んでいた渋谷。いや、今の世界ではインターネットがある。そのため、最新のゲームや流行りのグッズ。芸能人など、インターネットがあれば気軽に知ることができる。
だが、黄泉の国にはそんなものはない。そのせいで人と繋がる機会もあまりないのだろう。ここは歴史的な雰囲気のある街並み。言わば、江戸時代のような感じだ。
(また何か話そうとしてるな)
海斗は、真剣に聞こうとした。すると、また藍が続きを話そうとしている。
「嫌がらせ…嫌がらせをしてくる人は杏子という妖怪。人間の見た目してるけどあいつは男を魅了してくるやつだから」
最初、言葉が出てこないせいか戸惑ってしまった。だが、無事3人に伝わったようだ。
「杏子。俺は、一度も会ったことないな。今度顔を合わせて見るか」
「本当に一度だけあったことあるよ」
青蘭が顔を合わせるつもりが、藍にそのことを言われた。
「え?会ったことあった?」
「あるよ!確か…いつだっけ?あ!そうだ、小さい頃だった」
今の青蘭にとっては幼少期の頃のことをよく覚えていなかった。
(青蘭くんって覚えてないところもあるんだ…意外と天然っていうか…)
紅葉は本心を隠しながら苦笑をした。どんなときでも冷静だった青蘭が忘れるとは。海斗もそれを知り、密かに驚いた。
「小さい頃、私の好きだった人に取られたんだよ!でも私に対しての嫌がらせがまだ続いてる…それでもう思い出すだけで…」
藍は、次第に怒る口調で3人に打ち明けた。すると、その怒りのせいかテーブルを強く叩いたのだ。
「前に働いた店で私の位を杏子らによって下げられたし、担当された男にも取られた…本っ当に頭に来るよ…猫被りしてるくせに…」
これは完全に逆上している。そのことに対して、3人は何も言えない。
(あ、そうだ。確か、藍はキレるとこんな風になるんだっけ)
青蘭は藍の怒りを露にするときのことを思い出した。小さい頃に何度か会っていたからかこのことは知っていた。
(藍って見た目はこんな感じじゃないけど、怒るとかなり女優みたいになるんだね)
藍の怒り方が実力派女優のように感じた。声量が大きい。感情が3人に伝わる。演技に才能があるくらいだ。
「結局、私は杏子より才能がないんだわ…逆にお淑やかにしたいけど、怪力が出てしまうんだよ〜」
机で居眠りするような体制になりながら泣いていた。すると、その話を耳にしていた紅葉は勇気を出して打ち明けることにする。
「あの…実は私も怪力じゃないんですけど私の妖術で暴走したことがあるんです」
紅葉は同じような悩みを共感を持てるかどうかを試していた。
「私も実はこの赤い紐を取ると暴走してしまうんです。だから、外すことができません」
左手を3人に見せた。すると、その手首に赤い紐で結ばれているのを目にした。
(私と同じような感じだ)
藍も内心そう思っていた。
「私の妖術は火炎。だから、いつ暴走してしまうかも分からない。でも、加減をできるように頑張ります」
丁寧語で、お淑やか。だが、その中身に意外な才能を開花するのかもしれない。海斗はそう感じた。




