42.晩餐
次第に暗くなると、お客さんが来る人数が多くなる。そうすると、藍たちは店の開く準備をしなければならない。
「おっと、そろそろ支度か。ごめん。私、ちょっと準備をしてくる。だから3人はここで待ってて」
藍は化粧をするため、急いで部屋を去った。
「藍さん、何だか忙しそうだね」
そのことを聞いた青蘭もそう感じていた。本当に無理していないか。店のことを第一に考えているばかりに藍を心配した。
「それは俺もそう思っている。だけど、店だらけのこの街は人気を付けようといるんだよ」
海斗は「人気…?」と疑問に思いながら返した。
「人気というより競争率が激しい。だから、この神楽坂もどのくらい人気が高いかの店。それだけでなく、人の美しさもだ」
つまり、ここは弱肉強食の世界であり、完璧さを求められる。そのことを対して、紅葉は頷いた。すると、海斗は気落ちしていたのだ。
「僕、やっぱりここは向いてないかも…」
「え?いきなりどうした?」
青蘭が海斗に聞いた。
「自分、何だかここは完璧を求められるような気がするんだよ。だから、向いてないかも…」
「海斗、それは神楽坂で暮らしている妖怪だけだよ」
青蘭が海斗を慰めようとしている。だが、海斗は青蘭が無理しているように見えたのだ。すると、襖を開ける音がした。そこにいたのは藍。まだ薄紫の着物を来ていた。
「誰か一人来てくれる?ちょっと人手不足で」
「じゃあ、私が行ってもいいかな?」
紅葉が立ち上がり、開店の準備の手伝いへ行くことにした。
「さっきの続きの話にしよう」
「そうしようか」
そして、2人は神楽坂の話に戻った。
藍と紅葉が控え室で化粧をしていた。紅葉は化粧をするのが初めて。そのため、やり方を理解するのが曖昧だ。
「藍さん、本当にごめんなさい。普段、化粧はほとんどしないので」
「いいよいいよ。初めてだから仕方ない。今回は私がやってあげるよ」
藍が紅葉に化粧をするのを手伝った。
「だって、紅葉は逆に化粧をしたほうがいいもん」
笑顔で言う藍に対して、紅葉は照れ臭くなった、
「そ、そうかな…」
「そうだよ!もっと自信をもって!」
そう言ったあと、藍は紅葉の化粧の手伝いを続けた。肌を白粉で顔全体。桃色のアイシャドウを塗る。さらに、口紅も塗ることで紅葉がより美しくなってきた。
「これだったら行けるかもよ!」
藍がグッドサインをしながら言った。
一方、海斗は神楽坂について青蘭に聞いていたのだった。ここが競争率が高い理由を。そのことに対して、青蘭はすぐに答える。
「神楽坂では、それぞれの店で人気な妖怪をスカウトすると高額な金が貰える」
そのことを聞き、海斗は「お金!?」と話を遮ってしまった。
「まだまだ終わってないよ」
「あ、すみません」
無愛想に青蘭が言った。だが、海斗は黄泉の国に行く前の頃の癖で丁寧語が出てきてしまった。それに対して、「全然」と無愛想に返した。
「じゃ、続き話すね」
「はい、お願いします」
海斗がはっきりと返したのだった。
「そのお金が貰えるのはある妖怪の承認を貰えた妖怪だけ。名前は珠璃。呪いの国の長だ」
珠璃と聞いたとき、海斗は初めて知った。
「今は表には出てないが、豪華な屋敷で暮らしているらしい」
海斗は、首を振りながら頷いた。すると、青蘭の表情が少し変わっていた。普段、無愛想だったが少し苛立ちを見せていたのだ。
(俺の親父の名前を出すだけでイラつく…)
それでも、海斗に当たることはなかった。
「でも、その人は確か、ずっと前に俺の父とライバルだったんだよね」
海斗は「そうなの!?それはほんとなの?」と返した。
「そうだよ」
青蘭は海斗に違和感を与えない表情をしながら言った。穏やかな顔をしていたのだ。
「ありがとう!教えてくれて。また聞かせてよ!」
海斗は笑顔で言ったあと、目を細めた。そのことで、とりあえず海斗に疑われなくてよかったと感じた。
(今、嘘を付いて…しまった…)
本当はライバルなんかではなかった。それどころか犬猿の仲とは言えない。
―また聞かせてよ!―
あの言葉を思い出すと、ライバルではないと言いにくい。黄泉の国のことがまだ曖昧な海斗にそのことを言うと、こんがらがる。海斗は、良いライバルのほうだと思っているのだった。すると、襖が開く音がした。
「鳥山くん、青蘭くん」
そこにいたのは藍だった。薄紫色の花の模様が描かれた着物を着ていたのだ。美少女に笑顔で言っているのが完全に似合っている。
「これから、ここに東というイケメン美食家が来るから2人とも、晩御飯は一緒にその人と食べてくれる?」
なんと、海斗と青蘭は今回の晩御飯に誘われた。
(これはチャンスかもしれない。もし、その人が犯人なら)
このことに青蘭はチャンスだと感じた。東というイケメン美食家の怪しい行動や言動などが見られる。
「ちょっとこっち来て」
青蘭は手招きをしながら海斗に静かな声で話しかけた。
「海斗は東という人の怪しい行動とかを見てくれる?なるべくなら怪しまれずに」
「わかった。僕も何とか頑張るから」
海斗も成功できるかは分からない。だが、これはミッションだと思ってやろうとしていた。
「ん?何してるの?2人でこそこそ話をして」
それを見ていた藍は気になっていた。
「何でもないよ」
青蘭が言っていたことに対し、藍は目を細めながら青蘭のことをじっと見ていた。
「なんか怪しい。絶対なんか隠し事してそう」
藍は2人が何かこそこそ話しているのを見て、作戦などを考えているように見えた。
「それ、あとで聞かせて。絶対にね」
気持ちを切り替えた。仕事に戻ろうと藍は、その場を立ち去った。
そして、美食家の東という人と複数の男女が『黄鈴屋』に現れた。その人は玄関を上がり、食事を提供された部屋へと来ていたのだ。
その姿を見たとき、青蘭と同じくらいの美青年だ。2人は東が来たとき、怪しい言動や行動を見ていた。
(どういう行動をするんだ。この人は)
特に青蘭は警戒をしていた。すると、東と複数の男女はローテーブルの真ん中にある座布団に座ったのだ。
「東様。今からここのおすすめのメニューがあります」
東の隣にいた男性が喋り出したのだ。
「そうなの。じゃここでどういう味なのかを頂こうか」
「そろそろ来るそうです」
2人の会話を東の席から離れたところから青蘭は見ていた。だが、海斗はご馳走が来ないかを待っていたそのときだ。歩いている音が聞こえた。
(何だろう…)
青蘭がそう思っていると、ご馳走がこの部屋へと来たのだ。そのご馳走は、高級食材を使っているばかりだった。さすが神楽坂。ここまで華やかだ。
「これは、海老に蟹、刺身、寿司、そして和菓子まで!?僕が食べたことがないものばかりだ!」
海斗はご馳走のことで夢中になっていた。
(ま、いいや。俺は、あの人のことを…)
それでも、青蘭は東の怪しい行動を見張ることに集中した。
ようやく静かになった頃に、藍と紅葉がこの部屋に来たのだ。
「お待たせしました。東様、どれでもいいので召し上がってください」
箸を持ち、先に東はアワビの寿司を一口食べた。今は東以外、一人も食べていない。多分、先に美食家が優先だ。これが、神楽坂の晩御飯だった。




