40.神楽坂
まだ青蘭は電車の席の中でぐっすりと寝ていた。呪いの国の駅までは着いてない。
(青蘭さん、本当にぐっすり寝ていますね)
紅葉は青蘭のことを見たあと、左側の景色を見た。その景色は、晴れた空とふわふわした白い雲。線路の上で見れるのが紅葉にとっては初めてだった。
(こうして見たことがないところへ行くのも初めて)
紅葉がそう思っていると、海斗がトイレから戻ってきた。海斗は今、ハンカチで手を拭いている。手を洗ったあとだろう。
「あ、鳥山くん。いいよ、席譲るから座って」
海斗に譲ろうと席を立つと、「いや、いいんだ」と言ったのだ。すると、紅葉はまた座った。
「本当にいいの?立って疲れてない?」
「僕は立ってもまだ疲れてないから」
そのことに対し、紅葉は心配そうな顔をしていた。何日もぐっすりと寝てない海斗を見ると、寝不足そうに見える。
(鳥山くんがそう言うならいいけど…)
紅葉は海斗が立つならと思い、座ることにしたのだ。電車の中は海斗以外の乗客は全員座っていた。すると、蓮と元緋の後ろの席が一つだけ空いていたのだ。
「鳥山くん、蓮さんと元緋さんが座っている席の後ろ。空いてるよ」
そのことに紅葉が最初に気付いた。静かな声で話すと海斗も同じことに気付く。
「ほんとだね」
海斗はそのあと、その席に座ることにした。青蘭はまだぐっすりと眠っている。
蓮と元緋は全く会話をしていない。それどころか眠そうな表情をしていた。そのせいか海斗にとって、電車の中は印象深いほど静かだ。
(何だか、ここは静かだ)
黄泉の国へ最初の頃に向かうときの電車はそうでもなかった。けれど、ここは何だか気まずい。
(早く呪いの国に着いて欲しい)
心の中で何回か願い続けていた。海斗の席は、左側に着物を着ていたウサギ妖怪。向かい側の正面にはサラリーマンの格好をしていた猫妖怪。その左側には、その妖怪と同じ種族の少女が座っていた。
(この雰囲気の早い解放を…)
海斗はずっと願い続けながら電車は走り出している。海斗が後ろを向くと、青蘭はまだ寝ていた。いびきはしていなかった。もし、海斗が寝ていたら、いびきをしていたかもしれない。
(僕はこれから電車の中では寝ない方がいいかもしれないな)
寝落ちしないように気を付けることにした。
数十分後、ようやくアナウンスの音がなった。
「まもなく~神楽坂~神楽坂へ着きます。お降りの方はお忘れものの無いようご確認をして下さい」
アナウンスの音が聞こえても青蘭の方は寝ていたのだ。そのことに気付いた紅葉は、肩を優しく叩いた。すると、青蘭は目が覚めた。
「おはようございます」
「う…あ!もう降りるのか?」
青蘭が普通の声で言ってしまった。けれど、なぜか気付かない。有名人だとしたら気付くはず。ここら辺ではなさそうだ。それとも、青蘭に対して興味がないのか。
(これはもしかしたら青蘭の存在が無くなった?そしたら僕が次は…)
海斗は悪巧みの表情を浮かべた。
「蓮、元緋。多分、朝国は次の次で降りるから覚えといて」
青蘭はそれを蓮と元緋に一言いい、3人は神楽坂駅で電車を降りた。すると、青蘭がその駅で人間の姿へと変装をした。
「あ、いつの間に!」
「まあね。ここら辺は多分、俺を知ってる人が多いし」
海斗は青蘭が既に変装していたことに驚いた。
「あの…変装はどうやってできたんですか…」
紅葉が緊張しながら青蘭に質問した。人間の姿の青蘭も結構イケメンだ。
(これがイケメンに惚れてるってやつ。僕とは大違いだ…)
海斗は黄泉の国へ行く前も女子からは全くもモテない。それだけではなく、2月のバレンタインデーのときもチョコを1つも貰われなかった。告白もされない。ラブレターだって来ない。そういう人生を送ってきたのだ。
(あ…これが陰キャあるある…)
そうだ。これが陰キャあるあるなのだ。すると、海斗はあることを思い付いた。
(そうだ。だったら僕はあとで木がある場所に行って藁人形にハンマーで釘を打てば…)
海斗は以前に丑の刻参りを知っていた。白い着物を着て、頭の上に鉄製の輪。その輪にろうそくを3本立てるものだ。
(これで完璧だ!)
すると、青蘭が何か言おうとしている。
「う~ん…そうだな…変装は普段使うときがあるからな。もう慣れちゃったんだよね」
「そうなんですか。やっぱり慣れですか…」
そのことに紅葉は慣れだと理解した。
3人は駅から離れ、数分歩くと神楽坂へと着いた。そこは、雰囲気がとても華やかな街並み。まるで江戸時代にいるみたいだ。周りの妖怪はほとんど美男美女。
「ここが…」
「ここが…」
海斗と紅葉は、初めて過ぎて頭がこんがらがった。
「呪いの国!?いや、全然見えないよ〜!」
海斗が思っていたイメージとは全く違かった。
「本当に呪いの国の神楽坂何ですよね…」
紅葉がすぐ青蘭に聞いた。そのことに対して青蘭は「そうだよ」と優しく返した。
「2人とも、ちょっと落ち着いて」
青蘭が2人に落ち着かせようと冷静に言ったのだ。
「ここは神楽坂。ここは夜になるとさらに人が来る。呪いは別の意味にある」
そのことに対し、2人は「え?」となった。別にあると聞き、何だかんだで分からなくなるのだった。
「あ、もう時間がない。そのことはあとで説明する。だから今は俺に着いてこい」
2人は青蘭に着いて行くために走った。複数の店があり、美男美女の妖怪がいる。そのせいで、目が回り疲れていた。すると、海斗の体力に限界が来たのだ。
「あ…もう疲れました…ハァ…ハァ…」
海斗は昔から運動神経は悪かった。そのせいで、長距離で走るのは苦手だ。
「え…。海斗、もうちょっと走れない?時間がないんだ。俺たち、遊びに来ているわけじゃないんだから」
「そうなの…わかった…走るよ…」
海斗がそう言い、再び走り続けることにした。紅葉と青蘭は妖怪。だから、体力も人間の倍にある。そのため、海斗より体力があるのだ。
(汗がかいてきた。走ったせいか暑い)
汗がかいた海斗に対して、2人は一つも汗をかいていない。依頼人の店まで急いで向かっていると、そこにいたのはなんと依頼主だ。青蘭にとっては知り合いだった。
(…はっ!もしかして…)
依頼主に気付いた青蘭はすぐにわかった。今、その依頼主とナイフを持っていたレベルの低い妖怪。その妖怪の姿は青年くらいの年だ。
「そこにいるのは…」
青蘭がそこにいた依頼主に話しかけると、その依頼主も気付いた。青蘭の方へと向いた。
「え…青蘭…?」
その依頼主は青蘭と同じ狐妖怪だ。金髪の美少女だった。




