35.旅の始まりはここから
3人は決着が終え、体力が既に落ちていたのだ。大嶽丸に逃げられてしまい、小通連と騒速の2つの刀を手に入れることができなかった。そのため、海斗は悔しい表情を浮かべていたのだ。
(やっぱり…悔しい…紅葉、本当に申し訳なかった)
海斗は心の中で謝罪をした。けれど、逃してしまったことには仕方ない。すると、隣にいた青蘭が「ねえ」と言った。
「あのさ、やっぱり悔しいって思うのは同じ気持ちなんじゃないか。でも、そこからが始まりだと思うんだ」
「なんでそう思ったの?」と海斗は返した。
「それは…」
青蘭は何かを思い出せないのか言葉が詰まってしまったのだ。
「あ、ごめん。ちょっと考えてしまって…」
詰まってしまったことを海斗に知られないようにするためにだった。そのためか誤魔化すように言った。
「あ、そうだ。始まりって言ったことに戻るんだけどさ、多分逃してしまったところから長い旅が始まるんじゃないかな」
青蘭が思ったことを述べると、海斗は「そっか...」と頷く。
(確かにそうだ。僕たちは多分、負けてのかもしれない。けれど、ここから長い時間をかけて旅をすることになる)
海斗は、初めて黄泉の国へ来てから大嶽丸の三明の剣を奪う時間までの自分を見つめ直す。そうなると、海斗の成長はまだだと感じた。妖の力しか持っていない。それだけでなく、黄泉の国の一部しか見ていない。
(ここで負けて挫けても仕方ない。生前、じいちゃんから渡された時計の真実もそうだけど、自分で探るしかない。だから、長い時間、いや、年月をかけて探そう)
海斗は心の中で誓った。すると、2人の後ろから言い合いしている声が聞こえたのだ。後ろを振り向くと蓮と元緋が何か言い合っている。それを止めようと紅葉が落ち着かせようとする様子が見えた。
「やっぱりナルシストの蓮より俺のほうが紅葉ちゃんを任せられるんだよね~」
「いや、俺の方が紅葉さんのことを任せられる」
なんと、どちらの方が紅葉を任せられるかを言い合っていた。
(やれやれ~困ったな…)
青蘭はため息を吐いた。それを見た2人はどうでもいいと感じたのだった。
崖から降りて逃げていた大嶽丸はかなり焦っていた。不老不死でもあったので、ぼろぼろな体は元通りになっている。
「何なんだ…あの3人は何だか強い。でも、俺は絶対に負けてはないよな…だってまだ小通連と騒速があるからな」
3人の妖術が強すぎた。そのせいで、大嶽丸の体力がいつもの強さより衰えたのだ。そろそろ潮時かと思いきや、まだ違う。
(まだ絶対に負けてない…負けてない俺は…)
そう思っていると、背後から殺気を感じた。
(…はっ!まさか、後ろに誰かが!?だとしたら)
後ろを振り替えると、そこにいたのは銀髪で翠眼の女性がいた。その目付きは鋭かった。
「てめえは…何者だよ…俺に殺されに来たのか」
「別に何もんでもないっすよ」
その女性は、無愛想にと返した。それに対し、大嶽丸は苛立ちを見せる。
「おい、誰に対しての口調だよ。俺は強いんだ。自慢ではない。本当に強い!だから…」
大嶽丸が強いと自分からアピールをしている。そのアピールが数分、数十分続いた。すると、その女性は大嶽丸の首を一瞬にしてバサッと切ったのだ。けれど、大嶽丸は完全に死んでない。
「お前、どういうつもりだ…何も刀を持ってないのに」
確かにその女性は刀もなにも持っていない。妖術を使ったのか。すると、その女性は少し苛立ちの表情を浮かべていた。
「本当に首を切った以外、何もやってないっす。ただ、あんたが強い話を何回も聞いて飽きたから。それだけっす」
その女性が返したあと、「じゃあ、あんたは魂になって地獄でも行きな」と言ってその場を去った。
すると、大嶽丸は散となって消えていった。その後はどうなったのかは分からない。
まだ蓮と元緋の喧嘩はまだ収まっていなかった。
(どうしたらいいんだろう…)
紅葉はこの喧嘩に対して、どう対応すればいいのかが分からない。心の中では仲が悪いんだろうと感じた。すると、紅葉はあることを思い付いた。
(あ!そうだ。ここに何か植えれば目印になるかもしれない)
そう思った紅葉は、崖の上に木を植えることにした。蓮と元緋から少し離れた場所に行く。着くと、紅葉は空中で円を作った。すると、その線が出たのだ。そして、少量の火炎の妖術を使った。
(これでいけたかな)
そのあと、赤いスカートのポケットからある種を出した。
「何だろう…これ、雷千さんからもらったの。入れればいいのかな…」
これは、雷千が鈴嘉という崖の上で大嶽丸と戦ったときだ。大嶽丸の雷の妖術があまりにも強すぎるため、その妖術によって帰らぬ人となった。そのことを思い出したせいで、涙腺が緩む。
(何だか…この種を見ると…)
すると、紅葉は泣くことを我慢をするのが限界になった。そのせいか涙腺が崩壊したのだ。
「…何だか…この意味がわかりましたよ…これ…桜のタネ…ですよね。雷千さん…」
紅葉は涙腺崩壊が止まらない。すると、背後から「どうした?」という声が聞こえた。後ろを振り向くとそこにいたのは海斗と青蘭だった。
「雷千さ…」
海斗が雷千に見えたせいか、間違えてその名前を呼んでしまったのだ。
「え…雷千って誰?」
海斗にそう返され、紅葉は顔を真っ赤にした。
「人違いです~!そそそ、そんな人はここにいません!」
恥ずかしくなったせいか、頭の仲が混乱していた。そのせいで、紅葉は2人に誤魔化すしかないと思ったのだ。しようと思ったが、あまりにも下手だ。
「あ、そうなんだ…」
海斗もテンポが悪い返し方になってしまった。すると、蓮と元緋の喧嘩はもっと酷くなっていたのだ。2人はその喧嘩を止めに行こうと蓮と元緋のところへ行った。
(あ、この隙に種を…)
紅葉は海斗と青蘭が行った後の隙に素手で土を掘る。そのあと桜の種を入れ、また掘った土を入れた。
「これで、春の頃になったら桜の花が咲いてくれますように」
小声で口に出していた。紅葉は想像をした。もし、桜の花が咲いているときを。そのときに鶯が桜の枝の上に止まる姿。そして、桜の花びらが一枚一枚が蝶のようにひらひらと散る。
(ここなら、しばらくは雪も雨も降ることはない。だから、大丈夫と雷千さんが言っていましたね)
そのことを思い出し、安心した。すると、海斗たちの喧嘩を止めている様子を見た。
「おい、蓮、元緋。いい加減にしてくださいよ」
海斗の声が聞こえた。紅葉も放っておけないと感じですぐに向かう。その途中、蓮と元緋のところで青蘭はため息をしていたのだ。紅葉も急いで向かい、着くと本当に喧嘩が続いている。これは、犬猿の仲みたいだ。
「ほら、2人とも早く帰ったほうがいいですよ」
すると、蓮と元緋は海斗の指示にしたがった。青蘭が氷の妖術を使って4人たちを崖の上から降りた。
「すげえ、階段になってる」
そう言っていたのは元緋だ。
5人全員が降りていくと氷の妖術で作った階段は消えていった。海斗が気がつくと、蓮と元緋の喧嘩は収まっていたのだ。これは、青蘭のおかげだと思った。
「紅葉、あ…あのさ…」
海斗はタイミングを見て、紅葉に話しかけた。あまりにも緊張しすぎた。だが、紅葉は「何?」と首をかしげた。
「その…気になったことがあるんだけど…雷千って誰?」
「あ…あの…鳥山くん…実はその人…私が小さい頃に一緒に暮らしていた人なんだよね…」
すると、海斗はあまりにも驚きすぎて「え!?」と思わず出てしまった。
(海斗の声ってすごく響く…)
そう思っていた青蘭は口には出さず心の中で言った。
これで第1章は完結します。次は主な登場人物の紹介とプロフィールを投稿します。




