23.過去の記憶 その肆
紅葉が貴族たちが住む屋敷の前で待っていると、鬼女の召し使いたちが紅葉のところまで来た。
「お待ちしておりました。これからここで私たちと暮らす紅葉様でよろしいですか」
「あ…はい」
そのことに驚き、なんとか返すことはできたのだ。紅葉は何か聞きたいことがあったのをも思い出した。
「あ、あの…ここはどこですか?雷千さん、行き場所を言うのを忘れたみたいなので」
「ここは、鬼の国の都『鬼京』です。今、あなたがいるのは『鬼霊殿』という屋敷。鬼の貴族たちが暮らしている場所です」
質問をしたあと、召し使いの一人が丁寧に分かりやすく説明をしてくれた。紅葉は聞きながら相づちを取った。
中へ入ると、迷路みたいな通路ばかりだ。鬼の貴族たちが正面から通るのを見る。左側には中庭が見えた。
数分着いていくうちに、召し使いが紅葉の目の前にある部屋の前で止まった。すると、後ろへと向いたのだ。
「それでは、こちらへお入り下さい」
召し使いにしたがって、中へ入った。すると、外から日光が直接当たり、解放感があったのだ。
「では、雷千様が来るまでこちらに着替えていきます」
「分かりました」
紅葉は目の前に置いてあった汗衫と細長、切り袴を召し使いに着せてもらった。
「紅葉様、ここの女性は髪を下ろすことが多いです。その髪型を外してください」
一つに結んでいたことに気付き、すぐに外した。すると、艶やかな髪をしていたのだ。
「では、雷千様が来るまでお待ちください。今日は宴会がありますので広間で食べます」
紅葉は「分かりました」と返した。召し使いたちが去ると紅葉はその場で考え事をしてしまった。
前までは集団盗賊の雑用係として暮らしていたが、鬼霊殿で暮らすことになると紅葉は正直思わなかった。雑用係よりはいいと感じたのだ。
数時間が立つと、ようやく雷千が紅葉のところまで帰ってきたのだ。その姿は直衣を着ていた。初めて出会ったときは水干の姿なのにまるで別人だ。
「どうしたんですか!?」
「この姿か?俺はこういうのは正直似合わないと思ったけど…どうか?」
紅葉は思わず「とても似合ってます」と素直に返したのだ。すると、「ありがとう」と満面な笑顔で言った。
夜になり、2人は宴会のために広間へ向かった。着くとそこは、鬼の貴族たちがたくさんいた。縦長に食事も並べていたのだ。2人も空いていた席に座った。
(雷千さん、もうとっくに喋ってる。私も話さないと)
気がつくと雷千も他の貴族たちと喋っていたのだ。紅葉も馴染もうと自分から輪の中へ入ろうと試みたが、駄目だった。それは、人見知りのせいだ。紅葉は宴会が始まるまで正座のままで待った。
(やっぱり始まらない。自分から行ったほうがいいかな…)
話しかけた方がいいか迷っていた。その時だった。突然、静かな雰囲気になったのだ。
(なんだろう…?この静かは)
すると、誰かが来たのだ。国王らしい鬼が貴族たちの前に座った。
「貴族の皆様、この宴会に来てくださり誠にありがとうございます。今回は儀式とかは行わないから自由に過ごしてください」
その鬼が言ったあと、貴族たちはすぐに酒を飲んだり、豪華な食事をしていた。その他にも琵琶や琴などの演奏や和歌を読み合うこともある。
紅葉は暇になり、並べていた食事の中にある唐菓子を口にした。
(口の中が歯ごたえする)
そのあとも、魚介や鳥料理などを食べたのだ。すると、となりに座っていた雷千に誰かが話しかけられたのを見た。
「雷千、散楽をするか」
「多々羅か。いや、今日はする気分じゃない。歌合わせならいいけど」
雷千は食べながら冷たく返した。となりに座っている紅葉から見ると疲れているように見えたのだ。すると、多々羅と紅葉の目があってしまった。それに対し、紅葉は気まずくなった。
「おい、雷千。お前、いつの間に恋人できたのか?珍しいな〜年の差恋愛なんて」
「恋人って…違うよ。この子は恋人じゃなくてここで一緒に暮らす子だよ」
多々羅は雷千が答えているのを無視して、すぐに紅葉のところまで行ったのだ。
「そこの可愛い君。名は何というのか」
「紅葉です。今日初めてここに来ました」
すると、多々羅は興奮をした。
「そうか〜!明日、俺がここの中を案内してあげるよ」
多々羅がナルシストのような話し方で言うと、雷千が多々羅を雷の妖術で気絶させたのだ。
雷千は紅葉を連れて急いで縁側へと移動をした。そこに着くと雷千は誰もいないと見てほっとした。
「ごめんな。多々羅があんな感じで。あいつ、女子好きだから」
「いいえ、私は意外と社交的な人だと思いますよ」
すると、雷千は「そうか」と疑心暗鬼のように言った。
「そうですよ。私も前は雑用として会話もなかったし食べる量も少ない生活を送ってきた。だから、こういうのは初めて」
紅葉が返したあと、「そっか。ならよかった」と雷千が言った。すると、また雷千が続きを言うつもりだ。
「あのさ、紅葉。もし、ここにいて辛いと思ったら我慢せずに言え。俺がいるから」
この言葉を言われ、紅葉は涙がこぼれそうになった。そのせいで、視界がにじんだ。すると、紅葉は思わず「ここに…」と言ってしまった。
「貴族じゃない私が…ここにいてもいいんですか…?」
それに対し、雷千は「何言ってるの」と優しさを込めながら言った。
「お前はここにいていいに決まってる。じゃなきゃ紅葉はここにいなかった。だから、いいんだよ」
その優しさに我慢が出来なくなり、涕泣してしまった。
(素直になりな。紅葉)
雷千は、心の中で優しく告げた。




