ざまぁ返しされた偽聖女は追放されました
勢いだけで書いたご都合主義の話です。中盤の展開をやりたかっただけ。
あたしはホーリー! 平民だけど癒しの魔法が使える聖女!
乙女ゲーム『ホーリーラブ学園物語』の世界に転生したヒロインよ!
イケメンたちに囲まれるウハウハ逆ハーレムをエンジョイしてたのに、
悪役令嬢の様子がおかしかったのよね。
ゲームと違って全然意地悪もしてこないから、ゲームの進行が
上手くいかなくなりそうで困っちゃったわ。
でも、賢いあたしはいい感じの自作自演で悪役令嬢を断罪したの!
これで王子と結婚して、一生贅沢をして暮らせるわ!
……と思っていたのが三日前。
今あたしは謁見の間で、逆ハーレム要員に囲まれて、
悪役令嬢と向かい合っている。彼女の隣には凄いイケメンがいた。
「その娘は聖女ではないと神の啓示があった!真の聖女はこのカトリーヌだ!」
聞いてないわよ! 隠しキャラである若く麗しい教皇様が
かつて悪役令嬢に命を救われていただなんて!
というか悪役令嬢も癒しの魔法が使えるなんてゲームの設定になかったわ!
「ありえない! こんなのバグよ! リセットボタンはどこ?!」
きぃきぃと喚く私の傍から、いつの間にかハーレム要員たちは離れている。
「っ、あんた、転生者ね?! ずるしてたんでしょ!!」
よくわからないわ、と悪役令嬢のカトリーヌが首を傾げた。
「リセット、というのは何のことかしら?」
「やり直しよ! はじめっから! 今度は真っ先にあんたを潰すわ!」
あたしが声を荒らげても、カトリーヌはびくりともしない。
真っ黒で艶やかな髪に真っ青な瞳に白い肌。凛と立つその美しさに、腹が立つ。
あたしのピンクでふわふわな髪も、金色の瞳も、霞んでしまう。
「……では、祈ったらどうです? あなたは聖女なのでしょう?」
「っ、言われなくたって!」
売り言葉に買い言葉。あたしは指を組んで思い切り叫んだ。
「『精霊様』! あたしに、やり直させてください!!」
途端、水を打ったようにその場が静まり返る。
え、と随分間抜けな声が悪役令嬢の方から漏れた。
「あなた……あなた、聖女を騙ったはずよ?! 何故精霊に祈りを?!」
何故って、急におかしなことを言うなぁ悪役令嬢は。
「聖女って、癒しの力が使える若い娘でしょ? 祈る先関係ある?」
また周囲がざわつく。あたしは何か変なことを言っただろうか?
「あるに決まっているだろう! 聖女は神の認める娘だ!」
教皇が言う。あれ? そうだっけ? 恋愛に関するイベントの選択肢以外
全然覚えてなかったのよね。そんな設定なの忘れてたわ。
『あはは、君ってばおっかしいんだから』
ふ、っとあたしのすぐ傍で誰かが笑った。
イケメンの気配に勢い良く隣を見る。でも、何も見えなかった。
キラキラした光の粒が宙に浮かんでいるだけだ。
多分、精霊様だ。ちぇっ絶対イケメンだと思ったのにがっかり。
『いいよ。君にやり直しの機会を上げる』
「やった!」
『でもね、君の望み通りではない。神様にお願いされたからね』
「へ?」
足元が光る。あたしは光の中に落ちていく。
どこまでも、どこまでも、どこかに……
*****
『というわけで、聖女を騙っていた娘は追放したよ』
光の粒がそう話してるのが見える。これは夢なのかな?
「ですが、あの娘は、『精霊の愛し子』、だったのでは?」
教皇は顔を青ざめさせている。神様と精霊様ってそういえば
どっちのほうが偉いんだろ? 授業では習わなかったな。
常識だったのかも。多分、学園に入る前に聞いてるような。
あたしは、平民のホーリーは教会の孤児院じゃなくて
商会が経営してる孤児院で育ったから聞いてなかったのかな。
『いいや。彼女は愛し子ではなかったよ』
あ、精霊の愛し子の話は聞いたことがあるかも。
なんかいるだけで国が豊かになってガッポガッポとかって、
お髭のカイチョー先生が言ってたっけ。
『彼女に子が生まれれば、そうなるはずだっただけさ』
その場の一同の顔が大なり小なりぐにゃっとなったのが面白い。
すました顔のカトリーヌだって眉毛がひくついてたわ。
『父親は誰であってもいいと本能で理解していたから、
見目麗しい相手を侍らせていたのだろうね』
精霊様、あたしそこまでは考えてなかったわ。
でも周りはいい感じに納得したらしい。みんな眉間に皺だらけ。
貴族は感情を表に出さないものですって悪役令嬢に叱られたけど、
本当にびっくりしたら表情なんて隠せないわよね。
「精霊様。では、彼女がいなくなったこの国は……」
『あ、大丈夫。いなくなったからって災いは起きないよ。
精霊の愛し子が生まれないから、豊穣はそこそこだけど』
「そこそこ」
ぷーっ! カトリーヌったらぽかんとしちゃっておっかしいの!
『聖女たる君がいる限り国が安寧を保つことは保証されるよ。
あの娘がまだいて、来年にでも子を産んでたら大豊作だったけど』
……あたしってもしかして結構すごかったのかも。
そう考えると惜しいことしたなー。喧嘩売らなきゃよかった。
逆ハーレムとか、悪役令嬢断罪とかやらかさなかったら、
イケメン侍らせてちやほやされながら贅沢ができてたのかも。
あーあー! 勿体無いことしちゃったなー。
やり直しなんて、願わなきゃよかった!
……そういえば、やり直しって、どこからだろ?
*****
どすん、と尻餅をついた。気が付いたらあたしは、
フリフリのドレスを着たまま、森の中に落っこちてた。
むわっとした草の匂いがする。じーじーと蝉が鳴いている。
一体、どんな山奥まで飛ばされたって言うの?
「誰かー! 誰かいないのー?!」
あたしの声は木のざわめきと蝉の声に掻き消される。
「……座ってたって、しょうがないか」
せめて道を探そう。ハイヒールでの山歩きは辛いけど、
今はこれしかないんだからどうしようもないわ。
よいしょ、と立ち上がり辺りを見回す。
「なんだ、思ったより麓っぽいじゃん」
あたしの腰までの高さだった藪に目隠しされて見えなかっただけで
砂利道はあるし向こうには電柱も見える。
「……電柱?」
どくん、とあたしの心臓が跳ねた。
あたしがさっきまでいたのは、ファンタジーの世界だ。
電柱なんて、あるはずがない。
駆け寄る。触って確かめる。コンクリート製の古びた電柱。
見覚えがある。草の生えた砂利道を、たまらず駆け出した。
そんなことってあるわけない。
あたしは転生して、ゲームの世界に行ったんだもの。
現に、顔の横で跳ね回る髪の毛はピンク色のままだし、
ドレスはフリフリで足にはハイヒールで走りにくくてたまらないし。
でも、『精霊様』に祈った。やり直しをさせてくださいって。
やり直し。追放。ぐるぐると頭の中で回る。
『精霊様に気に入られたら何でも願いが叶うそうだよ』
白髭のカイチョー先生はそう言ってたんだった。
『贅沢できるようになったらワシにもおこぼれをくれや』
あたしが、ホーリーが一番最初に治したカイチョー先生。
がめついけど、子供好きだった優しい人だった。
猫っかぶりの仕方を教えてくれた人だった。
学校に入ってからは挨拶にもいかなくなっちゃったっけ。
先生、あたしの願いって、贅沢じゃなかったのかも。
でなきゃ、今、あたし、こんなに走ってない。
見覚えがある。石の門と生垣に囲まれた日本家屋。
古びたガレージに軽トラック。
玄関がガラガラと開いて、中から女の人がひとり、俯いたまま出てくる。
記憶にあるよりも、小さくなった姿に、あたしの足が止まる。
その人はあたしの気配を察したんだろう。顔を上げた。
「……きよこ?」
聞こえなかったけど、そう言ったのがわかる。呆然として、それから
くしゃくしゃと顔を歪めて、突っ掛けで、ふらふらと寄ってくる。
「な、んで?」
あたしも、同じようにふらふらと、門の中に入る。
「きよこ、きよこ、聖子!!」
その人が伸ばしてきた腕の中に、あたしは飛び込んだ。
「おかあさん!!」
白髪も増えて、痩せてしまった体に、腕を回す。
「なんで、なんで、わかるの、あたし、こんなんだよ!」
日本人の、アラサーの、田舎暮らしに嫌気が差して、
たった一人の家族である母を置いて飛び出した、
冴えない会社員の聖子の、面影なんて、微塵もないのに。
「自分の娘がわからない親がいるもんか、バカ娘!
七年もどこほっつき歩いてたんだい!」
もう少しで葬式を出すとこだったよ、と怒鳴られるのが嬉しい。
「ごめんなさい、ごめんなさい、お母さん、あたし、あたし!」
酒に酔って川に落ちたところで記憶は途切れている。
その時に死んで、転生したのだと認識していた。
もう帰れないけど、ゲームの世界だから大丈夫と言い聞かせた。
「あぁ、いい、なんだっていい、おかえり、聖子」
「……ただいまぁ……!」
あたしもお母さんもおいおいと泣いて。
それから二人して家の中に入って抱き合ってまた泣いて。
そのまま寝落ちしてしまった夢の中。あたしは事の顛末を知った。
*****
『今回の件は僕と神様の両方の失態だったんだ』
綿毛のような雲の上にあたしは座り、輝く精霊様の声を聞いた。
曰く、カトリーヌは、本当ならゲームの中に出てきた通りの意地悪な女の子。
精霊の愛し子が生まれる時も近いのに、そんな子が王妃になっては
国に与えた豊穣がどんなことに使われるのかわからない。
そこで神様はカトリーヌの魂を弾き出して、地球の日本で死んだ
優しくて真面目な女の人の魂を入れ込んだらしい。
ところが、その人の魂を連れてくる際にうっかりあたしも引っ掛けてしまった。
慌てて振り落とした先が、精霊の愛し子の母になる運命の娘、
つまりホーリーの中だった……ということにカトリーヌの身を案じた
教皇の祈りを受けてようやく気が付いたらしい。
で、精霊の失態というのは中身があたしであることに気付かず
癒しの力だけ与えてそのままスルーしていたこと。失態で済ませていいのか?
更に曰く、神様は世界を運営はできるが、人間の願いを
直接的に叶える力はないらしい。一旦、何でもできる精霊を挟むのだとか。
神様と精霊は話し合って、カトリーヌを聖女にすることと
ホーリーをどうにか追放することまでは決めていたそうだ。
『君がやり直したいと願ったから、こっちに戻せたんだよ』
「かなり行き当たりばったりじゃない?」
『綿密に決めすぎるのもちょっと色々な法則とか規則のせいで難しくて』
神様も精霊も悩みは尽きないようだ。
「……向こうの皆さんに、謝ってたって伝えてくれます?」
そしてこっちに戻って泣き疲れて眠って思う。
いくらゲームと思い込んでいたからって、多大な迷惑をかけていた。
特に人間関係。婚約者がいたのは王子だけだったけど、
それ以外でもクラスメイト相手に自慢とか色々とやらかしてしまっている。
謝罪だけで許されるとは思わない。何ならあたしに都合がよすぎないか。
罪を与えられる前に場を離脱し、一番居たかった場所に帰ってこられた。
『それはそうかも……』
この精霊様に助けられた上で言わせてもらうが、この精霊様大丈夫か?
『ん~~やぁでも、これは僕らの失態だから、僕らで埋め合わせるよ』
大丈夫、問題ないっぽい……お言葉に甘えさせてもらおう。
『じゃあ君への罰は三年モテないことにしておくね』
そのくらいで済んでいいのだろうか? 本当に?
*****
『記憶喪失だった&気が付いたら顔が変わっていた&大袈裟にしたくない』
というなんかぐだぐだした言い訳が通ったのは、
精霊が何かしてくれたのだろうとまではわかった。
その後三年、外見は美少女だというのに全くモテる気配もなかったし、
何ならお隣のポチ(♂・2歳)にさえ、
ぎゃんぎゃんと吠えかけられてしまってちょっと泣いた。
まぁ外面美少女でも中身はアラサーだものね……戻ってきてからは
あの可愛こぶった部分も段々と記憶が薄れていったし。
「……カトリーヌ。人生って意外とやり直しがきくみたいよ」
草刈りを終えてひと段落。右手におにぎり左手に緑茶。
見上げた夏の空が彼女の瞳の色に似ていたものだから、
思わず口をついた言葉は、彼女に届くことはないのだろう。
その後、異世界側は『精霊の悪戯で人間関係が振り回された』みたいな感じに
記憶がわやわやになり、精霊のせいじゃしょうがないか、となんとなく思うようになり、
それなりに国家安寧で次代へと繋がっていきます。
悪役令嬢は教皇へ嫁ぎ、王子は新しい婚約者(顔が超好み)の尻に敷かれました。
また、真カトリーヌは部隊の国から遠くの国の船乗りの娘として生まれ、
わがままっぷりを昇華し世界を股にかける冒険家となりました。
真ホーリーは精霊の愛し子として生まれる予定ですがホーリーボディを
聖子に渡してしまったため、どこに生まれさせるか神様と精霊様が話し合い中です。
今はまだ天界で何も知らずにすやぴよしています。
と、いい感じでなんかグッドエンドになってるとお思いください。




