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第1話 ログインしたら、世界がにゃんだか大変なことに!?

 カーテンの隙間から差し込む気だるい午後の光が、ホコリの粒子をキラキラと照らし出している。万年床と化したベッドの上、俺――神代カケル(カミシロ カケル)は、エナジードリンクの空き缶と食べかけのスナック菓子の袋に囲まれながら、モニターの光を浴びていた。今日も今日とて、ネトゲのイベント周回。それが俺の日常であり、世界の全てだった。


「ふぁ……ねむ……」


 欠伸を噛み殺したその時、ピコン、と控えめな着信音が鳴った。どうせまたスパムメールだろう。無視しようとしたが、ふと目に入った件名に、俺のゲーマー魂が微かに反応した。


『【超大型】神ゲーβテスター最終募集! あなたも世界の創造主になりませんか?』


 ……うさんくせぇ。あまりにも、うさんくせぇ。でも、「神ゲー」「創造主」なんて単語には、どうしたって惹かれるものがある。どうせ暇だ。罠だったら即ブラウザバックすればいい。俺は警戒心よりも好奇心を優先させ、震える指でメール本文中のリンクをクリックした。


 瞬間。


「うおっ!?」


 モニターが閃光を発し、部屋中が真っ白な光に包まれた。あまりの眩しさに目を閉じ、腕で顔を覆う。光が収まった時、目の前には見慣れたデスクトップではなく、半透明の、やたらと凝ったデザインのウィンドウが表示されていた。


『世界の神コンソール [World God Console v0.1 -β-] へようこそ』


「……は? 神コンソール?」


 βって書いてあるし、やっぱりさっきのメールのゲームか。ずいぶん気合の入った演出だな。ウィンドウは複数表示されており、地球儀のような立体的なワールドマップ、複雑怪奇なパラメータが並ぶリスト、意味不明なグラフなんかがグリグリ動いている。


「なんだこれ……グラフィックだけは凄いな……」


 とりあえず、テキトーにクリックしてみる。ワールドマップは拡大縮小、回転が自由自在。街や森、そこに住む小さな人々の姿まで見える。まるで本物の神様にでもなった気分だ。


「へぇ……面白いじゃん」


 調子に乗って、色々なメニューを開いてみる。「天候管理」「地形編集」「種族設定」……どれもこれも中二心をくすぐる項目ばかりだが、ほとんどに『未実装』か『権限不足』の表示が出ていて、実際にはいじれないようだ。


「なんだよ、まだ全然作れてねーじゃん、このクソゲ……ん?」


 その中で、一つだけアクティブになっている項目を見つけた。


『装飾オプション:ケモミミ付与率』


「……けもみみふよりつ?」


 思わず声に出して読んでしまった。なんだそりゃ。キャラクターに動物の耳でも付けるアバター要素か? スライダー式のバーが表示されており、デフォルトでは0%になっている。


「まあ、どうせβテストだし? 見た目が変わるくらいなら、影響ないだろ」


 俺は悪戯心で、そのスライダーを一気に100%まで動かし、軽い気持ちで『適用』ボタンをクリックした。ゲーマーのさがである。押せるボタンは、押してみるものだ。


 その直後だった。


 ワールドマップに表示されていた小さな人々の頭上に、次々と変化が現れた。ぴょこん、ぴょこん、と。猫の耳、犬の耳、ウサギの耳……様々な種類の動物の耳が、老若男女問わず、全ての人間の頭に生えていく!


 コンソールに自動表示された『リアルタイム・ワールドニュース』的な小窓には、広場で人々が自分の頭に生えた耳を触っては、パニックになっている様子が大写しになっていた。


「え……?」


 血の気が引く、という感覚を、俺は生まれて初めて味わったかもしれない。これは、ゲームのグラフィックが変わった、とかそういうレベルの話じゃない。明らかに、俺が今いる現実とは違う、けれど確かに存在する『世界』に、俺はとんでもないことをしてしまったのではないか?


「う、うそだろ……? おい、これ、ゲームじゃないのかよ!? まじかよ!?」


 慌てて「ケモミミ付与率」を0%に戻そうとするが、『設定変更はクールタイム(24h)が必要です』という無慈悲なメッセージが表示されるだけ。終わった。俺は異世界たぶんの全住民に、強制的にケモミミを生やすというとんでもない奇行をやらかしてしまったのだ。


「ど、どうすんだよこれ……っ!」


 頭を抱えて混乱していると、モニターのすぐ手前、何もない空間から、ポンッ!と可愛らしい効果音と共に、小さな光の粒が現れた。光はくるくると回転しながら集まり、手のひらサイズの、ふんわりとしたドレスを着た妖精のような女の子の姿になった。見た目は非常にかわいらしい。キラキラした金髪に、ぱっちりとした碧眼。だが、どこか焦点が合っておらず、頭の上には常に『?』マークが浮かんでいるように見える。


「しすてむ~が~まてぃがえましたぁ~☆」


 開口一番、その妖精は気の抜けるような声でそう言った。いや、お前のせいじゃなくて俺のせいなんだが。


「わたくし、当ワールドの臨時管理AI、コードネーム『バグ』ですぅ。しすてむのよきせぬえらー……つまりバグによって、わたくし誕生しましたぁ! マスター、ようこそ『テラ・グリッチア』へ! ここは、えーっと、そのー……まあ、いろいろバグってる世界ですぅ!」


「……は?」


 妖精『バグ』は、にぱーっと効果音がつきそうな満面の笑みで、くるくると俺の周りを飛び回っている。臨時管理AI? バグで生まれた? テラ・グリッチア? 情報量が多すぎて、俺の貧弱な脳のキャパシティは完全にオーバーフローを起こしていた。


「えっと……つまり、俺がさっきやらかしたせいで、君が生まれて、この世界はおかしくなった、ってこと?」


「ぴんぽーん! ご名答ですぅ、マスター! さすがマスターですねぇ☆ これから、わたくし『バグ』が、マスターの異世界らいふを、誠心誠意さぽーと……できるといいなぁ~って感じで、がんばりますぅ!」


 ポンコツ感しかしないサポート宣言に、俺は遠い目をするしかなかった。

 モニターには、ケモミミが生えた人々が右往左往する様子と、その手前で「えへへ~☆」と無邪気に笑うバグ妖精。


「俺の引きこもり生活……終わった……?」


 これからどうなるのか、まったく見当もつかない。けれど、目の前の光景は、あまりにも非現実的で、そして……なんだかちょっと、アホらしくて可愛いような気も、ほんの少しだけ、してしまったのだった。


(第一話 了)

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