星姫(あかりひめ)
翌日の朝一番で黒島さんから連絡があった。
「本日は、弟宮の姫君たちにお会いしていただきます」
まずは次女の星姫から、お昼に王宮の庭の東屋でお待ちですとのこと。
指定された場所に伺うと、レモンイエローのワンピースをお召しになられた姫様がベンチにお座りになられていた。確か俺より一学年上の大学四年生、いかにもいいところのお嬢様という印象だ。
「お初にお目にかかります。綾小路翔太と申します」
俺が恭しく頭を下げると、全く予想外の返事が返って来た。
「やっほー、久しぶりね」
「え、どこかでお会いしましたっけ?」
「やだ、忘れたなんて言わせないわよ。あの夜はあんなに情熱的だったくせに。月くん♪」
「ええっ、まさか、もしかして、あなたは、あの、織姫さん!?」
一か月ほど前、友人から合コンに誘われた。お相手は良家の子女が通われることで有名な目白台大学の深窓のご令嬢たち三名。
ホテルのスイートルームを予約しているので、人目や時間を気にせず楽しく盛り上がりましょうとのことで、ホテル代その他もろもろはお嬢様方の奢りらしい。さすが、合コンも我々庶民とは感覚が違う。
友人と三人で緊張しながら指定された部屋のチャイムを鳴らすと、優雅にドレスを纏い、仮面をつけたお姿のお嬢様方がお出迎えだ。なるほど、今夜の趣向は仮面舞踏会、マスカレード・ナイトか。
まずは自己紹介タイム。
「織姫です」「小町です」「猫娘です」
なるほど、庶民の男どもに個人情報を曝す気はないということか。相手にあわせて自分も適当に「月」と名乗った。
「隣、よろしいかしら」
しばし歓談をしていると、織姫と名乗ったお嬢様が隣にすり寄って来た。ルームサービスのいかにも高そうな赤ワインのグラスをカチンとあわせる。
本名も名乗らないということは、今夜限りのお付き合いということですね。よし、そっちがその気なら、こっちも気兼ねなく、お手並み拝見といこうじゃないか。
「織姫様とは、静かなところでゆっくりお話がしたいな」と水を向けると、彼女は無言で腕を取り、俺を別室に誘った。
喧噪のパーティルームからベッドルームに移動すると、彼女は人が変わったように積極的になった。後ろ手でドアを閉めると、俺の首に手をまわしてきた。
いきなり唇を奪われてしまった!
俺たちは唇を合わせたまま、もつれこむようにベッドに倒れ込んだ。
ベッドの中の織姫様は申し分なく魅力的だった。織姫様はいかにも高価そうなドレスを脱ぎ捨てるとベッドの外に無造作に放った。服と一緒に一緒に慎みも脱ぎ捨てた織姫さまの欲望は留まることを知らず、二人の愛の交歓は夜が白むまで続いたのだった。
すべてを出し切って泥のように眠った俺が目を覚ますと、彼女の姿は忽然と消えていたのだった。
「あの日は、俺、…私が何者かを知った上でのお誘いだったのですか」
「まあ、そういうことになるのかしらね」
確かに、こんなにうまくいっていいのかとは思った。なるほど瓜生さんと黒島さんの前にも、俺は既にはめられていたのか。
「せっかくこうしてお近づきになれたことだし、これからはたくさんエッチしましょうね」
「いやいやいや、無理です、無理です」
「何でよ、あの日は、今夜は寝かせないとか言って、朝まで三回もしたくせに」
う、それを言われると返す言葉がない。
「それとも、葵姫や雅姉さまともうそういう中になって、操でもたてているのかしら?」
「まさか、し、してませんよ、そんなこと、もちろん」
「いっそ、『翔太様とはもう男女の関係です』って、お父様に話ちゃおうかな。案外トントン拍子に婚約までいっちゃうかもね」
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ」
「冗談よ、私はね、王妃になりたいとか、そういう気持ちはないわ。まだまだたくさん楽しみたい、それだけよ」
どうやらそれが彼女の本心らしい。俺は安堵のため息をついた。
「幸い王宮の中は世間の目もないし、まずはセフレから、よろしくお願いします」
おどけて頭を下げる星姫の、その右手を思わず取って、言ってしまった。
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
「交渉成立ね。早速、ここでしちゃわない?」
言うが早いか、彼女はワンピをたくし上げ、するするとパンティを脱いでしまった。
「いやいや、ダメですって。まだ明るいし、それもこんなところで、絶対にダメです!」
「ふーん、ということは、夜、お部屋でならいいですってことよね」
完全に彼女のペースだ。俺は彼女の手のひらの上で転がされている。
「今夜、あなたの部屋に行くから、鍵は必ず空けておいてね」
脱ぎたてのパンティを俺に押し付けると、姫様は颯爽と去っていった。




