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雅姫(みやびひめ)

 国王陛下と会食した数日後、同じ晩餐室で弟陛下ご夫妻との会食が開かれた。

  

 先に入室して陛下ご夫妻をお待ちしていると、お二人が長女のみやび姫を伴って厳かに入室してきた。雅姫は俺より五歳年上の26歳、大人の女性の雰囲気が漂う、かなりの美人だ。

 

 直立して深々と腰を折る俺に、弟陛下からお声がけがあった。

「そう固くならずに、座って。どうです、新しい生活にはなれましたか」


「いえ、全く慣れておりません。戸惑っているばかりです」


「はは、それはそうだ。まだ引っ越してきたばかりだものね。ところで、昨夜の国王陛下との食事はいかがでしたか」


「は、めちゃめちゃ、いえ、大変に緊張いたしました。もちろん今も緊張しております」


「はは、今日は楽にしてください。それでどんな印象を持たれましたか」

 ああ、弟陛下もストレートに核心をぐいぐい突いてくる。


「私が何を言おうと関係なしに、最初から決まっていたように話が進んでいくというか…」


「兄王はいつもそうだ。なにせ生まれながらに国王が約束されていた人だから、自分の思い通りにならないことなどないと思っている」

 おや、俺の返事に、穏やかだった弟陛下の声のトーンが少し変化したぞ。


「兄がなかなか結婚しないから私が先に結婚した。兄のところが一人娘で、次の子が生まれる気配が一向にないので、私たちは次々と子を作った。いつも私は兄のスペアでした」


「はあ」


「そんなこんなで、うちは姫が四人ですわ。わはは」


 王室ご一家のプライベートに関するデリケートな会話に、俺は相槌を打っていいのかもわからず、あいまいに頷くことしかできなかった。


「ご存じの通り、王位継承者は男系の男子に限られる。この雅姫を筆頭に、私にも四人の娘がいる。姫たちの将来が親として心配でね」

 

 俺が小さく頷くと、陛下はちらと雅姫に視線を送りながらことばを続けた。


「王室から降嫁し、一般人として急に世間の波にさらされで幸せになれるのか。といって独身のまま王族というのも不憫だしね」

 

「ところで、兄王陛下のところの葵姫は、いかがでしたか」

 妃殿下から、直球ど真ん中のご下問が来た。


「いかがと言われましても、その、まだ何もわからないというか、していないというか」

 昨夜のことを思い出しながが、しどろもどろに答える俺に、陛下が追い打ちをかける。


「うちの姫たちには、幼い頃から王族としての教育をしている。国王の伴侶として十分その能力があると思います。それぞれ個性があって、翔太くん、君、可愛い娘たちをよりどりみどりだぞ、この幸せ者め!」


 ご夫妻が姫を残して退出すると、それまで取り澄まして一言も発しなかった長女が急にフランクに話し始めた。

「ねえ、それで、葵姫とは、もうしちゃったの?」


「あ、いえ、そういうことはまだ、全然」

 キスされたことは伏せておくことにした。


「私、あの娘、気に入らないのよね。年下のくせして、今回の件も、私を差し置いて自分優先なのが当然みたいな顔して」


 ああ、話がどんどん危ない方向へ進んでいく。


「言っとくけど、私、葵姫みたいな世間知らずじゃないわよ。それなりに男性経験もあるから、葵姫のような気づかいは無用よ」


「…」


「どう、あんなお人形さんみたいのより、私があなたを楽しませてあげれるわ。どうせ年上貰うんなら、私の方が良いわよ」


 このままではまずいと、俺はかろうじて口を挟んだ。

「姫様にそう言っていただけるのは誠に光栄なのですが…」


「ですがって、何よ」


「姫様には恋人がおられると、以前、週刊誌で読んだことあるのですけど…」


 姫様が一瞬言葉に詰まった。

「なによ、傷物って言いたいの?」


「いえ、決してそういうことではなくて、その彼とのことはもうよろしいのかなと思っただけで…」


「ふん、あんな煮え切らない奴、もうどうでもいいわよ」

 そう言うと、姫様は横を向いてしまった。

 

 しまった。どうやら地雷を踏んでしまったようだ。

 気まずい雰囲気のまま、この日の会食はお開きとなった。

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