乙女決心
大和国国王である私の父は、黒島遥からの報告を受け、「ううむ」と唸った。
「すると、綾小路翔太は、既に弟宮の四姉妹に取り込まれてしまったというわけか」
黒島がちらりと私に視線を送りながら答えた。
「はい。四名が入れ代わり立ち代わり翔太さまの部屋に入り浸っており、次女の星姫様に至っては、度々彼の部屋から朝帰りしているご様子。また、長女の雅姫様も翔太様とすでに男女の関係にあることを確認しております」
「なんと、姉妹揃って、仲良くやっているということか。想像以上だったな、あの男。となると、」
「はい。このままですと、雅姫か星姫、いずれかが翔太様と結婚する可能性が高いかと思われます」
私は黒島の報告を聴いて唖然となった。この短期間に、あの姉妹たち、どうしたらそこまでになれるのだろうか?
「葵は国王である私の一人娘、王位継承者の妻には一番ふさわしいと思い、他の姫に先んじてあのような場を用意したのだが、どうやら私の勇み足だったようだ」
国王は私の方に向き直って、問いかけて来た。
「葵は翔太くんのことが気に入らなかったのかな」
私は即答した。
「いいえ」
「というと?」
「お慕いしております」
重ねて父王が私に問うてきた。
「ということは、翔太くんの方が葵に興味を示していないということかな?」
「いいえ、毎日連絡はあり、お会いして話がしたいとも言われているのですが、私が返事をしてなくて…」
黒島が口を挟んだ。
「姫様は、翔太様のメッセージを毎回秒で見てらっしゃいますよね。姫様は既読スルーという、翔太様に対して大変失礼なことをしてらっしゃいます。翔太様の方こそ、姫様に無視されている、嫌われていると思ってらしゃるかと」
「ひっ、そ、そんなつもりは…」
だって、なんと返事していいかわからないんだもの。
会いたいと言われても、会ったところで話もできない、きっと、翔太様をがっかりさせるにきまっている。
「彼を失望させるくらいなら会わない方が良いのではないか」「せめて心の準備ができるまで」と躊躇っているうちに、私はすっかり蚊帳の外に置かれてしまったようだ。
「とにかく、このままでは彼のお相手は弟のところの雅姫か星姫ということになる。葵はそれでいいのかい」
良いはずはない。絶対に良くない。私ははっきりと首を横に振った。
私のファーストキスのお相手で、初恋の人。私が彼のことを思わない日はない。
私は、毎日、妄想で彼とデートをし、それを日記に綴っている。夜寝る前には、あの添伏の一夜を思い出しながら、二度とあのような醜態をさらさないように、彼を受け入れるためのイメージトレーニングにも励んでいる。
私がこんなにも思っているのに、翔太さまは私の思いに全く気が付いてくれていない。
「翔太くんがどう思うかよりも、自分はどうしたいのか、なのではないかな」
父の言葉が胸に沁みた。
「今でこそ王家も一夫一婦制だが、ほんの100年前まで、国王に側室がいるのは当たり前だった。いや、もちろん、私は恋女房の妃殿下一筋だがな」
「雅姫や星姫が彼と男女の関係にあろうが、葵にその気がある限り、へーアン貴族風に言えば『中宮』は葵だ。私は葵を全面的に応援するよ」
何もしないまま土俵を負け犬になりたくない。このまま土俵を下りるのは嫌だ。
もう躊躇している場合ではない。父の言葉に背中を押され、私は覚悟を決めた。




