本命登場
大和国国王である私の父から、黒島と打ち合わせをするので同席するようにとの呼び出しがあった。
「お父様、失礼します」
ノックをして父の執務室に入ると、父は難しい顔をして黒島の報告に聞き入っている所だった。
私を隣に座らせると、父は黒島の発言を促した。
「すると、綾小路翔太は、既に弟宮の三姉妹と既に、その、ねんごろな関係になっているということだな」
黒島がちらりと私に視線を送りながら答えた。
「はい。次女の星姫様は度々彼の部屋から朝帰りしているご様子。また、長女の雅姫様も翔太様とすでに男女の関係にあることを確認しております」
「なんと、それを互いに承知して、姉妹揃って彼と仲良くやっているということか。想像以上だったな、あの男」
「さらに三女の菫姫様に対しても、『自分好みの女性に育て上げる』などと嘯いておられます」
「なんと小学生までも守備範囲なのか。光源氏のような奴だな」
ううむと唸りながら、父はことばを続けた。
「まあ、さすがに、菫姫のことは置いておくとしてもだな」
「はい。このままですと、雅姫か星姫、いずれかが翔太様の御子を懐妊し、結婚となる可能性が十分にありうると思われます」
私は黒島の報告を聴いて愕然となった。この短期間に、あの姉妹たち、どうしたらそこまでになれるのだろうか?
「葵は国王である私の一人娘、彼の妻となり世継ぎを産むには一番ふさわしいと思い、他の姫に先んじてあのような場を用意したのだが、どうやら私の勇み足だったのかな」
お父様は私の方に向き直って、問いかけて来た。
「葵は翔太くんのことが気に入らなかったのだな。無理強いして申し訳なかった」
「いいえ」
私は即座に父の言葉を否定した。
「ん、というと?」
「お慕いしております」
重ねて父王が私に問うてきた。
「なんと! ということは、翔太くんの方が葵に興味を示していないということかな?」
「いいえ、毎日連絡はあり、お会いして話がしたいとも言われているのですが、私が返事をしてなくて…」
ここで黒島が口を挟んだ。
「姫様は、翔太様のメッセージを毎回秒で見てらっしゃいますよね。姫様は既読スルーという、翔太様に対して大変失礼なことをしてらっしゃいます。翔太様の方こそ、姫様に無視されている、嫌われていると思ってらしゃるかと」
「ひっ、そ、そんなつもりは…」
だって、なんと返事していいかわからないんだもの。
会いたいと言われても、会ったところで話もできない、きっと、翔太様をがっかりさせるにきまっている。
「彼を失望させるくらいなら会わない方が良いのではないか」「せめて心の準備ができるまで」と躊躇っているうちに、私はすっかり蚊帳の外に置かれてしまったようだ。
「とにかく、このままでは彼のお相手は弟のところの雅姫か星姫ということになる。葵はそれでいいのかい」
良いはずはない。絶対に良くない。私ははっきりと首を横に振った。
私のファーストキスのお相手で、初恋の人。私が彼のことを思わない日はない。
私は、毎日、妄想で彼とデートをし、それを日記に綴っている。夜寝る前には、あの添伏の一夜を思い出しながら、二度とあのような醜態をさらさないように、彼を受け入れるためのイメージトレーニングにも励んでいる。
私がこんなにも思っているのに、翔太さまは私の思いに全く気が付いてくれていない。
「翔太くんがどう思うかよりも、自分はどうしたいのか、なのではないかな」
父の言葉が胸に沁みた。
「今でこそ王家も一夫一婦制だが、ほんの100年前まで、国王に側室がいるのは当たり前だった。いや、もちろん、私は若い頃から恋女房の妃殿下一筋だがな」
「雅姫や星姫が彼と男女の関係にあろうが、葵にその気がある限り、へーアン貴族風に言えば『中宮』にふさわしいのは葵だ。私は葵を全面的に応援するよ」
何もしないまま負け犬になりたくない。このまま土俵を下りるのは嫌だ。
もう躊躇している時間はないことは十分に理解できた。父の言葉に背中を押され、いよいよ私は覚悟を決めた。




