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第70話 【はいしん】勇気ある者の魔法



(寝言と言えば、夢の中に出てきた少女の肌と髪の色って、肖像画に描かれていた勇者と同じだったような…。)


 未だに視聴者からのコメントと戦っているルーシーを傍目に、先ほどの夢について考えていると…。



 〈〈〈ぐ~〉〉〉



 俺達3人のお腹の音が同時に鳴った。


 「お腹が減ってきたな…。」 


 『私も…。』


 「そういえば、まだ食べていませんでしたね。」


 「そうだったな…。首無しを倒した直後に、そのまま寝てしまったんだっけ?」


 『そうよ、そうよ!魔力の使い過ぎでお腹が減っちゃったわ!早く何か食べましょう!』


 なんだか、ルーシーの声が普段と比べて大きい気がする。


 恐らく、自分の寝言の話から視聴者達の気を逸らしたいのだろう。



 :転移トラップに引っかかってから、ちゃんとした食事してなかったっけ?

 :うん。

 :首無しがリスポーンするまで時間あるから、今のうちに食べておこうぜ!

 :腹が減っては戦は出来ぬ!



 『やっぱり、コメントの皆もそう思うわよね!』


 「それじゃあ、まだ疲れは完全に取れていないから、簡単に作れるおにぎりでも良いか?」


 「おにぎりですか!いいですね!」


 『私もおにぎりに賛成よ!』


 「よし!2人とも賛成という事で、それじゃあさっそくご飯を炊いていくぞ!それと、今回ちょうど使ってみたいものがあったんだ!」


 『了解よ!』


 「はい!あ、もしかして、あれですかね?」




 

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------




 『早く炊けないかな…。』


 ルーシーが、難しい顔をしながら炊飯器を眺めている。


 そう。


 さっき言った、使ってみたいものというのは、炊飯器と…。



 :なるほど。ポータブル電源があれば、ダンジョンでも使えるよな。

 :ダンジョンのことあまり知らないんだけど、他の探索者の人もポータブル電源持ってるもんなの?

 :↑そうやな。セーフエリアで炊飯器使ったり、オフラインのゲームやってる人も居てるで。

 :あっ、そういえば、前のダンジョン配信の時にドライヤー使ってる女の子映ってたわ!



 コメントで言われているように、今回はポータブル電源という物を持ってきた。


 この前、広島にお好み焼きを食べに行った際に、電気屋さんでモンスター狩人3rdZのソフトだけでなく、実はポータブル電源を買っておいたのだ。(第48話参照)


 「震災やダンジョン探索のお供に!」という触れ込みで販売されていたのだが、俺が地上にいた頃の日本にはポータブル電源など存在していなかったので、どういった物なのかをカエデちゃんに説明してもらった。


 説明によると、事前に充電しておくことで様々な家電を外出先で使う事ができるようになるという事だったので、「それなら炊飯器用に」と考えて1台購入しておいたのだ。


 「おーい、ルーシー。そんなに眺めていても、ご飯は直ぐに炊けないぞ~。」


 「そうですね。高速炊飯モードで30分くらいって書いてありましたから、しばらく暇ですね。」


 『え~。そんなに掛かるの~。』


 「そうだぞ。自動で炊きあがるんだから、こっちで話でもしながらのんびり待とうじゃないか。それに、いくつか話したいこともある。」


 『分かったわ。』


 そう言うと、ルーシーは俺の隣に置いてあった折り畳み椅子に座りこんだ。



 『それで、話したいことって何かしら?もしかして…。』


 「さっき戦った首無しについてだ。たしか、俺がお前と初めて会ったときは、体に今ルーシーが持っている剣が突き刺さったまま水晶に閉じ込められていたよな。そして、その剣はとあるモンスターによって突き刺された物だとも言っていた…。俺は、そのモンスターというのは首無しだと思っているんだが、詳しい話を聞かせてくれないか?」


 『分かったわ…。大和の言う通り、この剣の持ち主は首無しでほぼ間違いないと思うわ…。』


 ルーシーは、そう言いながら剣を取り出した。


 『私が元の世界にいた当時、色々あってソロでダンジョン探索をしていたんだけど、ある日アイツと遭遇したの。当然、私は魔法主体の戦闘スタイルだったから、攻撃は通じず…。特殊スキルの【はいしん】も使い方が分からなかったから、文字通り手も足も出ずに負けたわ。』



 :え、なんの話だ?

 :ルーシーちゃんの過去編?

 :元の世界?

 :っていう設定だっけ?

 :ソロで首無しと戦闘はキツ過ぎるだろ…。



 『そして、首無しに追い詰められた私は、この剣で体を貫かれて…。って言うのが最後の記憶よ。そこから目が覚めたら目の前にヤマトがいて、私の体が小さくなっていたの。』


 「なるほど…。そんなことがあったんですね。あれ?でも、ちょっと待ってください!ヤマトさんがルーシーちゃんを発見したときは、水晶に包まれていたんですよね?それは、ルーシーちゃんの魔法で作った物なんですか?」


 『う~ん…。そんなことをした記憶は無いんだけど…、確かに目覚めた直後に周辺には水晶が散らばっていたわね…。あっ!でも、そういえば私が気を失う直前に、突然目の前で何かが光り出した気がするわ!』


 「何かが光ったですか…。う~ん…。それだけだと原因が分かりませんね…。」


 『それはそうよね…。』



 :水晶を生み出す魔法か…。誰か知ってる?

 :知らんな…。

 :それか、何かのスキルとか?

 :スキルって誰が何のために?

 :さあ…。

 :そもそも、首無しのヤツがそんなスキルを使ってる場面なかったけどな。

 :確かに…。

 :そんなことより、もっと気になることがあるんだけど。首無しが使ってた探知魔法ってやつ。

 :↑それな。そんな難しそうな魔法使ってる人見たことないし、ましてやモンスターが人間以上の技術を持ってるって恐ろしいわ…。

 :ルーシーちゃんが言うには、勇者様って人も同じ魔法を使ってたんだっけ?

 :勇者と同じ魔法?

 :もしかして、首無しの正体って…。



 「そういえば、戦闘中にそんなことを言っていたな。その辺も詳しく教えてくれないか?」


 『わ、分かったわ…。首無しも使っていた闇の探知魔法なんだけど、私の国では闇属性魔法は勇者様を象徴する魔法だったの。』


 「勇者を象徴する魔法が闇属性ですか?たしかに、闇属性魔法を使える人は少ないという点では選ばれし者感がありますけど、そこまで希少って訳でもないと思うんですけど…。」



 :確かにな。俺も闇属性に適性あるし、珍しいもんじゃないと思う。 

 :でも、勇者と言えば光属性とか火属性じゃないか?

 :↑それな。でも、闇の勇者とかも中二心くすぐられてカッコよくねw

 :俺も使えるぜ!でも、「引き寄せる」っていう特性上モンスターに狙われてしまうから、使い勝手悪いけど…。

 


 『確かに、適性のある人は何人も居たわ。まあ、私は使えなかったんだけど…。でも、コメントでも言ってるように、闇属性の魔法には色んなものを引き寄せる力、〈引力〉があるのは知ってるわよね。』


 「もちろんですよ!他にも火属性は〈浄化〉。光属性は〈反射〉で…。」


 『そうね。魔法には色んな特性があるわ。でも、闇属性の〈引力〉は、モンスターの注目を集めてしまうでしょ。それに、モンスターだけならまだいいけど、魔族に何て見つかってしまったら大変なことになるの。だから、闇属性魔法は、敵に見つかっても対処できる力と勇気を持った者を表す証として、私の国では語り継がれていたわ。』


 「なるほど~。勇気ある者の証ですか!確かに、大和さんがオリハルコンの刀を使った時も、一斉にモンスターたちが狙ってきましたもんね。」



 :確かに騎兵が狙ってきたな。

 :配信越しの俺も大和ちゃんのオリハルコンの刀に目が引き寄せられたわ。

 :ワイはペットの犬が画面に向かって吠え出してビックリしたわw


 

 『そうね。だから、使い方に気を付けないといけない魔法なの。ヤマトは心配しなくても大丈夫だと思うけど、配信を見てくれてる人は気を付けて頂戴ね!』



 :ルーシーちゃんが俺の心配してくれてる…!

 :ルーシーちゃんの笑顔かわええ。

 :これで明日から頑張れるわ…。

 :ロリエルフのエナジーが体中に…!

 :染み渡る…!

 :なんか変態が多くなってきたな…。



 「変な人がいっぱい沸いてますね…。まあ、ルーシーちゃんの可愛さの前ではしょうがないかもしれませんけどね…っと!」


 そう言うと、カエデちゃんはルーシーを抱きしめ、「栄養補給です~」などと訳の分からない事を言い始めた。


 『も、もうカエデったら…。そんなにくっつかないでよ~。』



 :ズルいぞカエデちゃん!

 :俺も直接エナジー補給したい…。

 :カエデちゃんと入れ替わりたい…。

 :でも、これはこれで良いよな…。

 :確かに。

 :それじゃ、俺は2人の間に挟まらせてもらおうかなっ。

 :↑んん?貴様、百合の間に挟まろうとしておるな?

 :それは許せん!

 :皆の衆、こやつをひっ捕らえろ!

 :おお~!

 :マジ許せん!



 「な、なんだかコメント欄が変な方向に向かってるな…。」


 そう俺がつぶやくと。


 —ピロリロリ~ン♪

 

 炊飯器の音が鳴ったようだ。


 『あら、お米が炊けたみたいよ!早くおにぎりを作りましょ!』


 「ああ、そんな時間ですか。」


 「それじゃ、話の続きはおにぎりを作ってからにしようか。それと、スペシャルな具材も用意してるから、楽しみにしていろよ!」


 『ほんと!?今まで食べたことのあるおにぎりでさえ美味しかったのに、それ以上があるなんて!』


 「楽しみですね!ルーシーちゃん!」


 


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