第67話 【はいしん】 突破口
《拡大》の効果によって、7m程の大きさに膨れ上がり、そのサイズ相応に重くなった片手剣。
そこに加えて、カエデちゃんの全体重を乗せた渾身の一撃。
普通のモンスターなら跡形もなく粉々になっているであろう、その攻撃を軽々と受け止められてしまった…。
:う、うそだろ…?
:パーティー内最高火力のカエデちゃんの攻撃が…。
:あの大きさの剣を軽々と…。しかも、盾じゃなくて剣で受け止められてる…。
:や、やばいいいいい。
:カエデちゃんの攻撃が効かないなら、どの探索者もダメージを与えられないだろ…。
:でも、何か違和感がなかったか?
『魔法が効かないだけじゃなくて、パワーも並外れているわね…。』
「そ、そんな…。私の攻撃が効かないなんて…。」
魔法も物理攻撃も効かない状況に、コメント欄だけでなくルーシーとカエデちゃんの2人とも驚愕の表情を浮かべていた。
そして、もちろん俺自身も驚いていたのだが、すぐに冷静になった。
その理由は…。
(なんだろう。何か変だ…。)
カエデちゃんの攻撃を受け止めた瞬間の衝撃の少なさ…。
その違和感の正体に思い悩んでいると、首無しに動きが見えた。
—カチャッ
カエデちゃんの攻撃を受け止めた首無しは、態勢を立て直して反撃しようとしていた。
:首無しがカエデちゃんに反撃しようとしてる…。
:カエデちゃんも気づいてるけど、表情に焦りが…。
:ガードするんや!
:なんか、心ここに在らずって感じだな…。
このままでは、カエデちゃんが反撃を受けてしまう可能性があると考えた俺は、咄嗟の判断で《ツボ可視化》で相手の重心を観察しながらバランスを崩させるように、首無しの真横から飛び蹴りを放った。
—ドン!
蹴りを喰らった首無しは、転倒するようなことは無かったが、バランスを崩してしまったことで、カエデちゃんへの攻撃を行う事は出来なかった。
:ふ~、危なかった~。
:良かった~。
:蹴りが効いた…!
:大和ちゃんナイス蹴り!
:大和ちゃんは、いつもながら冷静だな!
「カエデちゃん!一度距離を取って、冷静になろう。」
「は、はい!助かりました…。」
そう言った直後、首無しは俺に切りかかってきたので、それを避けながら反撃の隙を伺う。
(いくら首無しのヤツが怪力だったとしても、あの重量の剣を受け止めたにしては衝撃が少なすぎる…。それだけじゃない。カエデちゃんの攻撃がビクともしなかった相手が、俺の蹴りなんかでバランスを崩すだろうか…。)
相手の攻撃を避けながら、《ツボ可視化》を使って相手をじっくり観察する。
そうして全身隈なく観察していると、あることに気づいた。
(そういえば、アイツのロングソード…。弱点のツボどころか、重心のツボさえ見えない…。という事は、もしかして…!)
あることを確かめようと思った俺は、普段はやらない事を試してみることにした。
—スッ
刀を持つ両手の力を抜いて、リラックスして…。
「ふんっ!」
—ガキィィン!
一気に力を開放し、首無しの持っているロングソードに目掛けて、刀を思い切りぶつけるように切りかかった。
—グググ…
武器に向けて切りかかったので、もちろん俺の攻撃は受け止められて、そのまま鍔迫り合いになった。
:大和ちゃんが全力で切りかかった!
:凄い音…!
:これは切るというよりも、ぶつけるような感じだな…。
:激しい鍔迫り合い…!
:互角に押し合ってる…!!
:それよりも、珍しくないか?
:↑何が?
:いや、今まで大和ちゃんって、絶対に相手の体に切りかかってたじゃん。
:それどころか、鍔迫り合いなんて始めてじゃない?
:確かに!
:ていうか、怪力のハズの首無し相手に、なぜ互角に鍔迫り合い出来てるんだ?
:大和ちゃんの方が少し負けてるけど、スピードだけじゃなくて、こんなにパワーがあるとは…。
『す、凄い…!カエデの攻撃が効かなかったのに…!』
「や、大和さんがパワーで対抗してます…! で、でも、相手の方が少し押してます…。加勢しないと!」
『わ、私も!魔法が効かないなら、この剣で…。』
俺と首無しとの力比べを見て、ルーシーとカエデちゃんは、首無しとの戦闘に希望を見出したようだ。
「ルーシー!カエデちゃん!多分、カエデちゃんの攻撃を受け止められた理由が分かったぞ!」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。力比べをして分かったんだが、コイツのパワー自体は俺より少し上なだけだ。でも、コイツの持っているロングソードにだけ《ツボ可視化》のスキルが効かないことも考えると、魔法だけじゃなくてスキルの効果も無効化する効果があるんだと思う!」
『魔法とスキルの無効化…。厄介ね。』
「なるほど。だから私の攻撃を軽々と受け止められたんですね…。」
:やった!
:敵のカラクリを見破った!
:俺らが絶望してる間に、大和ちゃんは冷静に判断してて凄い!
:なるほど!
:今ロングソードだけ配信越しに鑑定したんだけど、未発見の魔法鉱石で作られているって出てきたんだけど…。
:未発見って言う事は、ダンジョンでドロップする可能性があるってことか!
:魔法とスキルを無効化って…。
:首無し騎兵君、チートやんけ…。
:理由が分かったところで、余計に絶望的な状況な気がするんだが…。
:スキルが効かないって…。
:どうやって勝つんだよ…。
「だが、さっき俺の蹴りが本体に対して有効だったように、スキルが効かないのはロングソードだけだ!」
『そうか!アイツのロングソードに触れなければ魔法も効くかもしれないってことね…!』
「私の攻撃も、本体に当てれば!」
:そうか!
:という事は、首無しの死角から攻撃すればいいってことね!
:こっちは3人いるから、囲んで戦えばいける!
:突破口が見えてきたぞ!
「そうだ!俺は正面から戦う!カエデちゃんは死角から攻撃してくれ!」
「分かりました!」
俺の指示を受けたカエデちゃんは、ミスリルの片手剣を取り出し火属性の魔力を付与する。
そして、魔力を纏った剣で、背中側から首無しに切りかかろうとした。
—シュン
その瞬間、首無しのもう一方の手に突然、闇属性の魔力を纏った片手剣が出現して…。
—ガキィン!
そして、首無しの死角から切りかかったハズなのに、背中に目でもついてるかのように、後ろを見ずしてガードされてしまった。
「どこから剣を…!?それに、闇属性の魔力を付与しているという事は、私と同じミスリルの剣…!?」
:二刀流!?
:首無しのヤツ、後ろからの攻撃を防ぎやがったぞ…。
:ていうか、もう1本の剣どこから取り出したんだよ!?
:しかも、ミスリル製っぽくないか?
:本当だ…。
:ミスリルの剣では、カエデちゃんの魔力を無効化できてないみたいやな!
:やっぱり、大和ちゃんの考えは合ってそうだな!
:でも、カエデちゃんの攻撃って完全に死角からだったよな…。
:↑武器頼りじゃなくて、技術もあるってことかね…。
:でも、カエデちゃんも剣で押し合ってるぞ!
:いけー!カエデちゃん!
「なかなか手強いですけど、大和さんの言う通り、魔法とスキルを無効化できるのはロングソードだけの様ですね…!」
—ガキィン
しばらくの間、俺達は首無しの隙を狙おうとして攻撃し続けるが、なかなか本体に当てることが出来ない。
「武器だけじゃなくて、剣の腕前も中々ですね…。それだけじゃなく、アイツと戦っていると、さっきから胸がざわつく様な気分になります…。」
「そうだな…。恐らく、ヤツの全身から発している闇属性の魔力のせいだと思うんだが…。」
:2人で攻撃し続けても、中々隙を見せてくれないな…。
:中層ボスにしては、強すぎる…。
:同エリア内の雑魚敵と比べて異常に強いな…。
:パワーは普通だけど、技量が…。
中々状況が前に進まない中、自分も仲間の役に立ちたいと考えたルーシーは、
『私も戦うわ!ソロの頃は、剣も使っていたんだから!』
そう言って、 ルーシーが結晶に包まれていた頃に体を貫いていた剣を持ちだし、走り出した。
(たしか、ルーシーの話によると、あの剣は首無しが持っていた物のはずだ。)
(参戦してくれるのは助かるが、今のルーシーの体には剣が大きすぎる…。)
:ルーシーちゃんも接近戦!?
:剣も扱えるのか!
:でも、剣のサイズが体に合ってないよ…。
(ルーシーを止めるべきか…。)
「ルーシー!こっちに来…」
俺が声を掛けようとすると、ルーシーは被せるようにこう言った。
『引き留められても、私も一緒に戦うんだから!大事な人達が戦ってるのに、遠くから見てるだけじゃ嫌よ!』
ルーシーの発言を受けて、俺は少し驚いた。
今までルーシーは、そんなことを口にしたことが無かったからだ。
(そういう風に思っていてくれたんだな。でも、今のままだとルーシーは実力を発揮できない…。一体どうすれば…。)
最適解を導こうと悩んでいると、直ぐに良い案を思いついた。
(そうか!カエデちゃんの能力を使えば…!それにしても、最近の俺は異常に冴えてるな…。)
「お前の意思が固いことは分かった!それなら、剣の大きさをカエデちゃんに調整してもらうんだ!」
:カエデちゃんに調整してもらう?
:そうか!
:《縮小》で剣を小さくしてもらうんか!
:そういえば、そんなことも出来るんだったな!
『分かったわ!カエデ、お願い!』
「了解です!少し戦線を離脱しますが、よろしくお願いします大和さん!」
「任せておけ!」
首無しの足を止める目的で、俺は再び切り掛かった。
―ガキィン
俺が切りかかる度に、ロングソードと刀のぶつかり合う音が響く。
(刀の強度を考えると、あまりこんなことを続けたくは無いんだが、中々隙を見せてくれないな…。まるで、俺の太刀筋を読まれているようだ…。)
:がんばれ大和ちゃん…!
:あともう少しでルーシーちゃんとカエデちゃんが戻ってくるよ!
:もうサイズ調整は済んだみたいや!
ルーシーの視点を見ると、確かに準備が完了したようだ。
「お待たせしました!」
『ヤマト!今行くわよ!』
カエデちゃんは、再びミスリルの剣に火属性の魔力を纏い。
ルーシーは、雷属性を剣に纏わせながら、こちらに近づいてくる。
「よし!3方向から囲むぞ!俺は引き続き正面から戦う!2人は背中側に左右に分かれてくれ!」
『分かったわ!』
「任せてください!」
そのまま、3対1での戦闘に突入した。
俺が正面から切り込んだ隙に、ルーシーが背中側に切りかかる。
『やあ!』
—バチバチバチィ
雷属性で、切れ味を上げた剣で切りかかるが、首無しのミスリル剣でガードされる。
:ルーシーちゃんから切りかかった!
:意外と剣の扱いに慣れてるな…!
:いいぞ!ルーシーちゃん!
:あ、反撃が来る…。
:ガードするんや!
「ルーシー!反撃が来るぞ!」
『分かってる!』
首無しの反撃に対し、ルーシーは剣に水属性の魔力を纏ってガードする。
—グニュ
首無しが繰り出した攻撃は、ルーシーの剣を覆う水によって衝撃を受け止められた。
:ルーシーちゃんが剣で受け止めた!
:属性の切り替えが速い!
:なるほど、水で剣のスピードを緩めたのか!
:水魔法ってそんな風に使えるのか…。
『接近戦でも、中々やるでしょ!』
首無しは、ルーシーに受け止められた剣に力を込めようとする。
それを察知したルーシーは、今の体では流石にパワー負けすると考えて、相手の剣を流すように逸らし、バックステップで後ろに下がる。
—スタッ
首無しの剣は、背の低いルーシーに対して振るわれた物だった為、上から下に振りぬかれ、そのままルーシーが居たはずの地面に突き刺さった。
—ドカン
首無しは、かなり力んでいたようで、ミスリルの剣は地面から直ぐには抜けないようだった。
その隙をついて、カエデちゃんが攻撃を仕掛ける。
「おりゃあああああ!」
しかし、首無しはミスリルの剣を手放すと、手には別の武器が出現し、カエデちゃんの攻撃をガードした。
:どっから剣出してんねん!
:さっきから突然武器が現れて…。
:なんか、アイテムボックスから出してるような感じに見えるんだが…。
:モンスターがアイテムボックスを使う?
:そんなの聞いたことないんだがw
首無しがカエデちゃんに気を取られている内に、俺は死角から攻撃する。
しかし、またガードされてしまった。
—ガキン
しばらくの間、3人で攻撃を続ける。
しかし、死角からの攻撃が通じず、体に攻撃を当てられても、急所である胸の正面からは外されてしまい、中々決めきれない。
「何度も死角から攻撃してるのに、どうして!」
『頭が無いから、360度全体が見えてるのかしら…。』
それに、さっきから思っているんだが…。
ルーシーやカエデちゃんの攻撃は、反応速度を活かして、見てからガードされているようだ。
しかし、2人と違って、俺の太刀筋だけは、完全に読まれているような感覚がする…。
いや、違うな。
まるで、俺の攻撃パターンを知っているような…。
:3人で攻撃しても、隙を見せないか…。
:なんで死角からの攻撃を防げるんだよ!
:このままじゃあ、埒が明かないな…。
:だれか、イイ作戦思いつかないか?
:そんなの思い浮かばねえよ!
:どうすれば…。
視聴者達が、ああだこうだと言い合っている中、ある1つのコメントが流れてきた。
:あの…。俺【魔眼】持ちなんですけど、死角からの攻撃が防がれる理由が分かったかもしれません。
:マジか!
:【魔眼】?魔力の流れが見えるって言う特殊スキルだっけ?
:【魔眼】といえば、最近どこかで聞いたような?
:誰か知ってる?
:もしかして、この前掲示板に居たヤツじゃね? (第25話、32話参照)
:あ、思い出した!北海道ニキじゃね!
:ああ!ダンジョンスレに居たヤツか!
:なんで北海道?
:↑そんなこと、どうでもいいから早く教えてくれ!
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