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第1話 いつもの探索/異変

 ダンジョンが地球に出現して45年。


「魔石を次世代のエネルギーに!これからは探索者の時代だ!」なんて都合のいい世界はやってこなかった。


 いつまでも魔石の研究は進まず、ダンジョンで金になるアイテムは、結構奥に進まないと手に入らない。


 もちろん、ダンジョンには電波なんて届かないから配信は出来ない。


 それに、探索者達全員が持つとある基本スキルのおかげで、探索者が原因の犯罪なども起きず、ダンジョンが出来る前と変わらぬ平和な世界のままだった。


 だから多くの人が、ダンジョンへの関心を失ってしまった。


 だが、今も1部の才能ある者や、ロマンを求めてダンジョンに潜り続ける者、あるいはダンジョンに住み続けていたり。


 そんな物好きな人達が、今も探索を続けているのであった。


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 俺の名前は吉村 大和(よしむら やまと)


 ダンジョン探索者だ。


 今日も探索をしている。


 もう20年以上はダンジョンに潜り続けていると思う。


 そう考えると、年齢は、もう30代後半になっているんじゃないかな?


 ダンジョンに潜り始めた頃は学生だったが、もうおっさんだな。


 しかし、ダンジョンの効果なのか分からないが、肉体的にはあまり年を取っていないような気がする。


 見た目は20代前半でも通るんじゃないだろうか?


 噂では、ダンジョン内と地上との時間の流れが違うのではないかとか、魔力に老化を防ぐ効果があるのではないかと色々言われているが、まだ良く分かっていないらしい。


 ま、年齢の話は置いといて、地上に戻らずダンジョンに潜り続けている理由だが…。


 俺は両親を事故で亡くしたことをきっかけに、ダンジョンに潜り始めたんだ。


 あの頃は、現実逃避をしたくて自棄になっていたんだと思う。


 嫌なことを全部忘れて、何かに没頭したかったんだ。


 だが、現実逃避だけが理由であれば、何年もダンジョンに潜り続けることなく、地上に戻っていただろう。


 10年以上前には、ある程度気持ちに折り合いはついてるしな。


 しかし、どうやら俺は、ダンジョンに魅了されてしまったらしい。


 今では、未知のエリアや美味しいモンスター、植物など、地上では味わえないスリルを味わうためにダンジョンに潜り続けている。


 「そろそろ、食事にするか!」


 ダンジョンの61階層で、大和は、さっき倒したモンスターの解体を始める。


 ダンジョンのモンスターは、魔力のおかげで地上のモンスターとは違った旨みがあり、これを食べることが、ダンジョン生活の楽しみの一つでもあった。


 「しかし、いくらモンスターが旨いといっても、そろそろ地上の調味料が恋しくなってきたな~。」


 ダンジョン内の植物から、香辛料の代わりになる物を手に入れていたが、味やバリエーションの面で地上の調味料には適わない状態であった。


 そして、モンスターの解体が終わり、血抜きを始めようとした。


 そのとき。


 —ゴゴゴゴゴゴ…


 (なんだ・・・?地震か・・・?)


 地震大国日本では、よくあることだが、今までダンジョンの中での地震は経験したことはなかった。


 「っ!? 地形が変化している!?」


 この階層は、暗い草原エリアだったが、一部分だけ別の地形と混ざったような形に変化した。


 また、周りの地形だけでなく気温も下がったように感じる。


 (何が起こったんだ?さっきまでと比べて、かなり雰囲気が変わったな・・・。)


 (トラップを踏んだという訳じゃないと思うんだが・・・。)


 そう考えながら、周辺を見回していると、突然声が聞こえ始めた。


 『——————。』


 突然ダンジョンの奥から、少女の声が念話のように頭の中に響いてきた。


 「こんな階層で、女の子の声? 最近は人にもなかなか会わないくらい、奥に潜っていると思ってたんだけどなあ?」


 今のところ、長い探索年数のアドバンテージで、このダンジョンではかなり攻略を進められている方だと自負していただけに、少し驚いていた。


 (しかし、日本語じゃないのは間違いないとして、英語でもないような気がする。いったいどこの国の言葉なんだ?)


 そう思いながら、何か新しい発見ができるのではないかとワクワクしていた大和は、とりあえず奥の方に歩を進めることにした。


 『——————————。』


 (また声が聞こえた・・・。あっちの方向か。)


 再び女の子の声が聞こえた、そのときだった。


 -グワアアア!


 (ぐ…。しまった!気配に気づけなかった。)


 油断していた俺は、後ろから迫ってきているモンスターの気配を察知することが出来ず、ガードが遅れて負傷してしまった。


 —ズシャッ


 (くそ!左腕を切断されたか・・・。かなり鋭い攻撃だな。)


 大和の左腕は切断されていて、見るからに酷い状況だった。


 (ヒールポーションは残り3瓶か。)


 (Lv3ポーションだが、やむを得ない…。)


 大和は、アイテムボックスからヒールポーションを取り出し、傷口にかけた。


 すると、傷口から腕が再生していき、すぐに元通りになった。


 (しかし、今までに見たことのない系統のモンスターだな)


 (それに、ただのユニークモンスターって訳でもなさそうだ。妖怪って言われた方がしっくりくるな。)


 このダンジョンでは、ゴブリンやスライム、ドラゴンなどの系統のモンスターには遭遇したことはあった。


 しかし、目の前にいるモンスターは今までのものとは異質の存在だった。


 頭はサル、体はタヌキ、手足はトラ、尻尾はヘビのような形をしている、大型のモンスターだ。


 そのモンスターは、日本で伝承されている妖怪のぬえのような見た目をしていた。


 (腕の動きは大丈夫そうだ・・・。)


 生え変わった腕の動きを確認して、目の前のモンスターと向き合った。


 (よし!いくぞ!)


 そして、大和とユニークモンスターとの戦闘が始まった。


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