運命の転校生 前世は俺の妻だったそうです!part2
授業が進むにつれ、教室の空気は少しずつ落ち着いていった。しかし、俺の心は依然として混乱したままだった。隣に座る月城美月の存在が、異様なまでに気になって仕方がない。
チラリと横目で見ると、月城さんは真剣な表情で授業に集中している。その横顔があまりにも整っていて、思わずため息が出そうになる。栗毛色の髪が、わずかな動きにも反応して揺れ、陽の光を受けて輝いている。
「岩瀬くん」
突然、先生に名前を呼ばれ、俺は飛び上がりそうになった。
「はい!」
「この問題の解き方を説明してくれますか?」
黒板に書かれた数式を見て、俺は頭の中が真っ白になるのを感じた。全く授業に集中できていなかったのだ。
「えっと...その...」
俺が言葉に詰まっていると、隣から小さな声が聞こえた。
「x²の項に注目して...」
月城さんだった。彼女は小声でヒントをくれている。その声に導かれるように、俺は何とか問題の説明をこなした。
「はい、そうですね。よく理解できています」
先生は満足そうに頷いた。ホッとして席に座ると、月城さんが微笑んでいた。
「ありがとう...」
俺は小さく呟いた。月城さんはただ微笑むだけで、何も言わなかった。
休み時間になると、教室は一気に騒がしくなった。多くのクラスメイトが月城さんの周りに集まってきた。
「東京のどこら辺に住んでいたの!」
「その髪の色、すごくきれいだね。生まれつきなの?」
質問の嵐に、月城さんは穏やかに対応していた。その様子を見ていると、彼女が人を引き付ける不思議な魅力を持っていることがよくわかる。
「なぁなぁ、暁」
後ろから亮が声をかけてきた。
「お前、さっきはどうしたんだよ。まるで幽霊でも見たみたいな顔してたぞ」
「ああ...なんていうか、ちょっと気分が悪くなっただけだ」
「へえ。まあ、あんな美人が隣に座ったら、俺だって動揺するかもな」
亮はニヤリと笑った。その横で美咲が軽く亮の腕をつねっている。
「でも、なんか不思議な子よね。まるで...」
美咲は言葉を探すように少し考え込んだ。
「まるで、ここにいるのが当たり前みたいな。転校生なのに」
その言葉に、俺は思わずハッとした。確かに、月城さんの態度には不自然なほどの自然さがある。まるで最初からここにいたかのように...
チャイムが鳴り、次の授業が始まった。月城さんは再び真剣な表情で前を向いている。
俺は彼女の横顔を見つめながら考えた。この転校生は一体何者なんだ?なぜ俺はこんなにも彼女に引き付けられるのか?そして、あの既視感は何なのか?
答えは見つからないまま、授業は進んでいく。しかし、俺の中で確かに何か大きな違和感だけが残り続きている。
気が付けば、最後のチャイムが鳴り、その音が俺の思考を現実に引き戻した。教室内が一気に騒がしくなる。帰宅の準備を始める生徒たち、部活に向かう者たち。いつもの光景なのに、今日に限ってはどこか違和感がある。
「お疲れ、暁」
亮が声をかけてきた。
「野球部の練習あるから、先に行くわ。調子悪そうだけど大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとな」
亮は心配そうな顔で頷くと、美咲と一緒に教室を出て行った。
俺は少しゆっくりと荷物をまとめ始めた。というのも、隣の美月の様子が気になって仕方がなかったからだ。一日中、彼女の存在に翻弄され続けた俺の心は、まだ落ち着きを取り戻せていない。
「あの、岩瀬くん」
突然、月城さんが俺に声をかけてきた。
「うん?どうした ?」
「よかったら、一緒に帰らない?」
その言葉に、俺は思わず目を見開いた。周りにいた数人のクラスメイトも、驚いた顔で俺たちを見ている。
「え、えっと...」
言葉に詰まる俺に、美月は少し困ったような表情を浮かべた。
「実は、引っ越してきたばかりで、この辺りの地理がよくわからなくて...」
そう言いながら、月城さんは申し訳なさそうに微笑んだ。その笑顔に、俺の心臓が大きく跳ねた。
(引っ越したばっかりだとしても、な、なんで俺なんだ?クラスの女子に聞けばいいのに...)
そんな思いが頭をよぎったが、こんな美少女に誘われてしまえば、断るなんてできない。
「あ、ああ...わかった。一緒に帰ろう」
俺の返事に、月城さんは嬉しそうに返答をした。
「ありがとう!!」
二人で教室を出ると、廊下にいた生徒たちの視線が一斉に集まった。転校生の美月と俺が一緒に帰るという光景が、みんなの興味を引いたのだろう。
(なんでこんなことに...)
戸惑いを感じながらも、俺は月城さんと並んで歩き始めた。
校門を出て、夕暮れの街を歩き始める。美月との距離感が掴めず、少し離れて歩いていると、彼女が自然に距離を縮めてきた。
「岩瀬くんは、この学校に入学してからずっとここなの?」
「ああ、そうだよ。特に転校とかはしてない」
「いいね。ずっと同じ友達と一緒にいられて羨ましい」
その言葉に、少し寂しさが混じっているように感じた。
「月城さんは、転校が多いの?」
「そうね。でも...」
月城さんは言葉を途切れさせ、空を見上げた。夕焼けに染まる空が、彼女の瞳に映り込んでいる。
「でも、今回は違う気がします。なんだか、ここにいるべきって感じがします」
その言葉に、俺の胸が高鳴った。まるで、その言葉に深い意味があるかのように。
しばらく沈黙が続いた。住宅街の静かな通りを歩きながら、俺は何か会話のネタがないかを考えていたが、突然、月城さんが立ち止まった。人気のない小さな公園の前だった。
「あの、岩瀬くん。実は...大事なお話があって」
月城さんの表情が急に真剣になった。急な展開に、俺は理解が追い付かず、返す言葉がわからなかった。
「な、なんだ?」
「信じてもらえないかもしれないですが。でも、聞いてほしいの」
月城さんは深呼吸をし、俺の目をまっすぐ見つめた。
「私、前世の記憶があるのです」
俺は思わず眉をひそめた。何を言い出すんだ、この子は。あんな真剣な表情をしていたのに、予想と反する謎の告白に。
「前世の記憶?」
俺は呆れながら、力が抜けている声音を発した。しかし、月城さんは俺の反応に動じることなく、真剣な表情で続けた。
「そうです、前世の記憶です。そして...その前世で、私はあなたの妻だったのです!」