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運命の転校生 前世は俺の妻だったそうです!part1

「あか兄、起きてー!」

妹の甲高い声と共に、俺の平凡な一日が始まる。

目覚まし時計を見る。7時15分。いつもより5分遅い。


「わかったって。今起きるよ」

俺、岩瀬暁は目をこすりながらゆっくりと体を起こした。カーテンの隙間から差し込む光が、新しい朝の到来を告げている。名前の通り、夜明けとともに目覚める運命なのかもしれない。

ベッドから這い出すようにして立ち上がると、鏡に映る自分の寝癖がひどいことに気づく。高校2年生にもなって、まだこんな寝癖をつけるなんて。鏡に向かってため息をつく俺を、背後から再び妹の声が急かす。


「あか兄、朝ごはん冷めちゃうよー!」

「りん、わかったって。すぐ行くから」


妹の岩瀬りんは、俺より2つ年下の中学2年生。朝が早いのが取り柄で、毎朝こうして俺を起こすのが日課になっている。

制服に着替え、寝癖を何とかごまかしながら階段を降りると、食卓には既に朝食が並んでいた。トーストと目玉焼き。いつもの光景だ。


「おはよう」と両親に挨拶をして席に着く。

「暁、今日は放課後どうするの?」

母親が何気なく尋ねる。


「ああ、いつも通り、真っ直ぐ帰ってくるよ」

「そう。じゃあ、5時半ぐらいに帰ってくるね」


のんびりとした会話が、いつもの朝の風景を作り出す。窓の外では、登校を急ぐ学生たちの姿が見える。春の柔らかな日差しが、桜の木々を優しく照らしている。


「暁兄、早く食べないと遅刻しちゃうよ!」

りんの声で我に返る。時計を見ると、もう7時40分だ。

「わっ、やばい!」

慌てて残りの食パンをほおばり、カバンを手に取る。

「いってきまーす!」


玄関を飛び出し、いつもの坂道を駆け上がる。周りを見渡すと、同じように急ぐ制服姿の生徒たち。みんな俺と同じように、何の変哲もない日常を送るんだろう。


ふと空を見上げると、どこか懐かしい青さを感じた。なぜだろう、今日はいつもと少し違う気がする。まるで、俺の名前が示す「暁」のように、何か新しいことが始まりそうな予感がする。

そんな漠然とした思いとともに、俺の平凡な一日が始まろうとしていた。





なんとか始業ぎりぎりに教室にたどり着いた俺は、ホッと一息つきながら自分の席に座り込んだ。


「おっす、暁! いつもギリギリだな」

隣の席から声をかけてきたのは、親友の佐藤亮だ。こいつとは中学からの同級生だ。


「ああ、まあな。お前はいつも早いよな」


「そりゃそうさ。野球部の朝練があるからな」

亮は野球部のエースで、朝も早くから練習をしているらしい。そう考えると、部活に入ってない俺の朝の過ごし方なんて、のんびりしたものだ。


「暁、宿題やった? 数学のやつ」

後ろの席から、クラスメイトの田中美咲が声をかけてきた。


「ああ、なんとかな。お前らは?」

「うーん、最後の問題がわからなくて...ね、亮?」

美咲は隣の亮を見た。二人は付き合いはじめて半年くらいになる。


「俺も最後はパス。暁、お前なら解けたか?」

俺は自分のノートを取り出し、二人に差し出した。


「ほら、参考までに」

「わぁ、ありがとう! 助かるよ」

美咲が笑顔で言うと、亮も「サンキュー」と頷いた。


そのとき、クラスの前の方で騒がしい声が聞こえてきた。

「ねぇねぇ、聞いた? 今日、転校生が来るんだって!」

「マジで? 男子? 女子?」

「女の子らしいよ。しかも、めちゃくちゃ可愛いんだって!」


俺は思わず顔を上げたが、すぐに無関心を装って視線を戻した。転校生か。別に俺には関係ないだろう。


「暁、聞いてた? 転校生くるんだって」亮が俺に声をかけた。

「ああ、なんとなく」

「すごい美人らしいぞ。お前、興味ないのか?」


俺は肩をすくめた。

「別に。俺には関係ないだろ」

「えー、なんでそんな反応なの?」

美咲が不思議そうに聞いてきた。


「だって、どうせ俺には縁がないし。見た目がどうであれ、俺にとっちゃただのクラスメイトが一人増えるだけだろ」

「もう、暁ってば本当に無関心なんだから」


美咲は呆れたような顔をした。亮は笑いながら、「まぁ、そんなもんだろ」と言った。

教室の中は転校生の話で持ちきりだった。みんな何をそんなに騒いでいるんだろう。俺には理解できない。


時計を見ると、もうすぐチャイムが鳴る時間だ。俺はそろそろ席に着き始めている。

前の席の山下が振り返って俺に話しかけてきた。

「なぁ、暁。転校生が来るって聞いて、どう思う?」

「別に...普通じゃないか?」

「えー、つまんないなー。もっと楽しみにしろよ」

山下はがっかりしたような顔をして前を向いた。

俺は窓の外を見た。いつもと変わらない風景。でも、なぜかどこか落ち着かない気分になる。転校生か...本当に来るのだろうか。


そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。

みんながざわざわと席に着く中、教室のドアが開いた。

担任の桜井先生が入ってきた。

「おはようございます、みなさん~」

桜井葵。20代後半の美人教師で、男子生徒たちの憧れの的だ。優しい性格と面倒見の良さで、女子からの人気も高い。

「はい、朝のホームルームを始めます!」

先生の合図と共に、クラスメイトたちが自分たちの席に着席をした。

そして、桜井先生の口から、教室で噂になっていた話が語られ始めた。


「えーと、みなさん。実は今日、このクラスに転校生が来ることになりました」

桜井先生の言葉に、教室全体が一瞬にしてざわめいた。噂は本当だったのだ。期待と好奇心に満ちた視線が教室の前方に集中する。

先生はざわつく教室を落ち着かせようと、軽く咳払いをし続けた。


「静かに!では、どうぞ、入ってきてください」

教室のドアがゆっくりと開き、一人の女の子が入ってきた。

その瞬間、教室の空気が凍りついた。


まるで時が止まったかのように、全員の視線がその女の子に釘付けになった。息を呑む音さえ聞こえそうなほどの静寂が訪れる。

彼女は、まさに息を呑むほどの美しさだった。


しなやかな体つきに、すらりとした長い脚。きめ細やかな白い肌は真珠のように輝き、柔らかな光を放っているかのようだ。

顔立ちは、まるで絵に描いたように整っていた。大きくて澄んだ瞳は、深い海のように青く、長いまつげに縁取られている。その瞳に見つめられたら、誰もが魅了されてしまいそうだ。

小さくて高い鼻、ふっくらとした唇。どれをとっても、完璧としか言いようがない。


特筆すべきは、その栗毛色の髪だ。腰まで届く長さで、シルクのように艶やかに揺れている。日本人離れした髪の色が、彼女の美しさをより一層際立たせている。

制服姿なのに、まるでランウェイを歩くモデルのような雰囲気を醸し出していた。その佇まいは、まるで別世界の住人のようだ。


クラスの男子たちは息を飲み、女子たちは驚きの声を上げた。誰もが、この突然現れた美の権化に圧倒されていた。


「こ、こんなの反則だろ...」

後ろの席で亮が小声で呟いた。美咲は亮の腕をつねりながら、自分も目を離せないでいた。その仕草には、羨望と警戒が入り混じっているようだった。


俺は、自分の目を疑った。これまで見てきた同年代の女の子たちとは、まるで次元が違う。人間離れした美しさに、現実感さえ失いそうになる。


転校生は、ゆっくりと教壇に立った。そして、クラス全員に向けて、微笑んだ。

その笑顔があまりにも眩しくて、俺は思わず目を細めてしまった。まるで太陽を直視するかのようだ。


「はい、では自己紹介をお願いします」


桜井先生の声が、どこか遠くから聞こえてくるように感じた。まるで夢の中にいるような感覚だ。

転校生は、澄んだ声で話し始めた。その声は、清らかな小川のせせらぎのようだった。


「はじめまして、みなさん。私の名前は...」

その瞬間、俺の頭に激しい痛みが走った。なぜだろう。見覚えのない顔のはずなのに、どこか懐かしい。そして、俺は、自分の心臓が激しく鼓動しているのを感じた。これは一体、どういうことなんだ...?


鼓動は次第に大きくなり、耳の中で轟いている。周りの景色が少しずつ歪んでいく。そして――


「はじめまして。私の名前は月城美月です」

その瞬間、教室中が息を呑んだ。その名前は、まるで魔法の呪文のように響き、歪んでいた景色が一気に現実に引き戻される。

俺の頭の中で、激しい痛みと共に、様々なイメージが走馬灯のように駆け巡る。見知らぬ風景、聞いたことのない言葉、そして...月城美月の顔。だが、どれも断片的で、つかみどころがない。まるで霧の中を手探りしているような感覚だ。


「あの...岩瀬くん、大丈夫?」

桜井先生の心配そうな声で我に返ると、俺は立ち上がっていた。クラス中の視線が、美月から俺に移っている。首をかしげる者、驚いた表情の者、心配そうに見つめる者。様々な反応が一斉に俺に向けられた。


「す、すみません...」

俺は慌てて座り直した。頬が熱くなるのを感じる。まるで火照ったかのような感覚だ。

月城さんは、深い青の瞳で俺を見つめていたが、俺が着席したことで、ゆっくりとクラス全体に視線を向けた。その仕草は、まるでスローモーションのように優雅だった。


「東京から転校してきました。よろしくお願いします」

彼女の声は、さざ波のように穏やかで心地よい。まるで上品な鈴の音のようだ。クラスの男子たちは、まるで催眠術にかかったかのように、うっとりと聞き入っている。女子たちの中にも、思わず見とれている者がいた。


「はい、ありがとう月城さん。では、席は岩瀬くんの隣が空いているので、そこに座ってください」

偶然か、運命か。空いてる席は俺の隣だった。しかも、教室の一番後ろの角。これ以上ないほどの近さだ。


美月が俺の方へ歩いてくる。その一歩一歩が、まるで永遠のように感じられた。彼女が近づくにつれ、かすかな花の香り―桜だろうか、それとも梅?―が漂ってきた。その瞬間、また頭に鋭い痛みが走る。

美月は俺の隣の席にゆっくりと腰を下ろした。そして、俺の方に顔を向け、微笑んだ。


「よろしくね、岩瀬くん」

その声は、ささやくように小さかったが、俺の耳にははっきりと届いた。

「あ、ああ...よろしく」

俺は何とか返事をしたが、自分の声が遠くから聞こえてくるように感じた。

「ちょっと、暁」

前の席の山下が小声で呼びかけてきた。

「お前、どうしたんだよ。顔色悪いぞ」

「あ、ああ...大丈夫だ」


俺は答えたものの、自分でも自信がなかった。何かがおかしい。この転校生、月城美月。彼女は一体何者なんだ?

授業が始まったが、俺の頭の中は混乱したままだった。真横にいる美月の存在が、異常なまでに気になる。彼女の髪の毛が風に揺れる度に、栗毛色の髪が陽の光を受けて輝き、俺の目を引きつけた。

そして、ちらりと俺の方を見た美月と目が合った瞬間、彼女はかすかに...だが、確かに微笑んだ。それは、何かを知っているような、意味ありげな笑みだった。


その笑顔に、俺の心臓は再び激しく鼓動し始めた。まるで胸の中で小さな爆発が起こったかのようだ。

しかし、これは、俺の平凡な日常が崩れ始める瞬間だった。そして俺は、それを何となく予感していた。この角の席で、隣に座る謎の美少女と共に、俺の新しい物語が始まろうとしている―。





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