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第七話 メイドたちの休息、再び

「修復作業に三日もかかるそうだ。大変なことをしてくれたもんだよ」


「星喰らいサマ、どうしちゃったのかしラ……」


「いいようにやられてイライラしてたんでしょ、理屈じゃないのよそういうのは」


 魔王城にある無数の階段、そのどこかの踊り場で、三人のメイドが休憩をとっていた。

 単眼のメイドが、これみよがしにため息をつく。


「次期魔王は決まったらしいけど、まーだ喧々諤々やるそうじゃないか。ボクらはいつまでお偉いさんのご機嫌取りをすればいいんだい」


「大広間ならたくさんあるんだから、適当に部屋を選んでさっさと終わらせてくれないかしら」


 オークのメイドは、キャンディーを口に咥えながら壁にもたれかかっている。


「執政役様が頼んだらしいワ。資料準備に時間がかかるかラ、会議場の修復ついでに待ってほしいっテ」


 メイドたちは、一様に難しい顔をしていた。


「聞いたよ、会議の延長はキミのお父さんが口添えしたんだって? 全くゴブリンの親方も何を考えてるんだか」


 ゴブリンは気まずそうに頭をポリポリと掻いた。

 見かねたオークが、小さなメイドの頭に優しく手を置く。


「……すまない。どうにも周りの空気にあてられてピリピリしてるみたいだ」


 単眼のメイドが腕を組むと、オークがキャンディーを差し出してきた。

 見ると、ゴブリンもぺろぺろと舐めている。


「ゴブリンロード様にもらった人間のお菓子よ。あんたも食べて落ち着きなさい」


 単眼メイドは、「申し訳ないから遠慮するよ」と言いつつ、速攻キャンディーを受け取っていた。


「羨ましい限りだな。こっちの担当はあの大オーク様だぜ、どうにも気難しくっていけない」


 キャンディーを持ちつつ、メイドは矢継ぎ早に日々の愚痴を言葉にしてみせた。

 ひとしきり聞き流した後、言葉の合間を狙って、オークのメイドが口をはさむ。


「ねえ、大オーク様はなんて言ってた?その……」


 普段の性格を考えれば、珍しいほど言い淀んでいる。

 ゴブリンも単眼のメイドも、彼女が何を聞きたいのかを察していた。


「人間の処遇、かい」


 ここ数日、メイドたちの間で何度も話題に挙がっている。

 大オークは新しい魔王が即位した後、魔王国領内に残っている人間を一人残らず捕まえ、処刑するつもりではないかという話であった。


「大旦那、無口な人だけど、ずっとオカンムリみたいでね。もし同じ空間に人間がいたら、一も二もなく首を跳ねそうな勢いだよ」


「前も真面目過ぎるくらいの人だったけド、そこまでじゃなかったワ……」


 メイドが思いをはせたところで、どうにもならない話である。

 彼女たちも、普段からこうした会話ばかりしているわけではなかった。

 オークはキャンディーをかみ砕くと、勢いのままかけらを飲み込む。


「ロード様は……今、隠し子の件をこっそり部下に調査させてるみたい」


 二人のメイドは、同時にオークを見た。

 各領主たちの部屋を世話しているメイドは、一人だけではない。

 この話は、すでに城中に広まっていてもおかしくなかった。

 彼らは権力者である。本当に隠すつもりなら、メイドに悟らせないよう行動するのは容易いはずだ。

 話がもれるのには、必ず裏がある。


「面白いな、ゴブリンの親方は新しい魔王の正当性を疑ってて、議場の修復までに真相を暴いてやるぞってメイドたちに宣伝させたわけかい」


 単眼メイドは、なにやら楽しそうに笑みをこぼした。


「ここで大旦那やリッチの腹黒じじぃが変な動きを見せればクロ確定ってわけか」


「お父様ハ、大オーク様たちが強引な行動に出ないようけん制したのネ……」


 オークのメイドは口にくわえていたキャンディーの棒を落としそうになった。

 目の前の二人が、普段の呑気な振る舞いからは考え難い一面を見せたからだ。


「陰謀ごっこはどうでもいいわ。あたしが言いたいのは、あの子のことよ」


 言いかけている途中で、階下からメイド長の大声が聞こえた。

 声はオークのメイドを呼んでおり、いつの間にか彼女たちの休憩時間は終わりを告げようとしている。

 オークは、短く断りを入れると階段を下りていった。


「……ままならんが、あの子のことはどうしようもない」


 呟きながら、単眼のメイドは手を付けていないキャンディーを、ゴブリンの口に押し込んだ。


「やっぱり遠慮しておくよ。人間の菓子は美味しいけど、砂糖は毒だ」


 すまないね。と、サイクロプスの子孫はゴブリンロードの末娘に笑いかける。

 メイドが何かを言う前に、単眼の娘は階段を駆け上がっていった。

 踊り場に、キャンディーをコリコリと噛む音だけが響いている。


「……使い方次第デ、毒は薬になるのヨ」


 ゴブリンは何かを決めたように小さく頷き、束の間の休息に別れを告げた。

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