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ム限焉転  作者:
第二章 可能性の世界
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第七十九話 炎と閃光

 明るい星空の下、無数の星々が静かに輝いているが、

 その美しさとは裏腹に、薄暗い林道には不穏な空気が漂っていた。


 カンテラの微弱な光と親衛隊が持つたいまつの炎が、

 木々の影を揺らめかせる。


 フィリップ邸から続くこの道は、

 まるで秘密を抱えているかのように、

 薄暗く開けた場所が広がっている。


 周囲の緊張感が高まり、

 クロード親衛隊の影が次第に迫ってくる。


「ははは…どうぞ、皆様お覚悟を。くはは、くくく、あっあはははは…」


 フォーゲルの凶悪な笑い声が静かな夜の闇に響き渡る。


「くっ…」


 …やるしか、ないか…オレは意を決し、

 相手の息の根を止める決意を決め、単純明快な

 炎と爆発の魔術を放とうとした。

 実際はあんまり、使いたくない、相手のこともあるが

 現実問題、魔力の消費が激しいからだ…

 このあとのフォーゲルとの戦いが間違いなく起こる…

 それまでは、ある程度は魔力を確保しておきたかった…


 そんなことを考えている時、

 クロミアさんがオレとセネカに

 話しかけてきた。


「わたしがこの瓶を投げますので、アルさんは瓶を割ってください。そして、セネカさんは火か雷をその割れた大体のあたりでいいので、打ってください。魔術というものがどの程度か分かりませんが、出せるのでしょう?」


「出来るか? セネカ?」


 オレはクロミアさんを信じて、セネカに出来るかどうかを尋ねてみた。


「う、うん。練習では出来てたから、大丈夫…ごめん…ほんとは自信はない…けど、やってみるっ!」


 そう言っているセネカだが、彼女の手は小刻みに震えていた。


 たぶん、こんな状況で

 魔術を使うのなんて初めてだから、

 緊張しているのだろうな…


 オレは、そんなセネカに月並みだが、


「落ち着いてやればできるさ、セネカなら」


 と、安心させてみた。


「う、うん。がんばるっ!」


 セネカは震える手を持ち、何度も小声で、

 『できる、できるんだ』と自分に言い聞かせていた。


「それでは、いきますよっ」


 と、クロミアさんが右側から迫ってくる

 クロード親衛隊の中央部分あたりに瓶をなげた。


 オレは、それを狙い、できるだけ命中率を上げるため、

 十センチ大の硬質化した球体を土魔術で生成し、瓶に向かって放った。


 そして、すこし遅れて、セネカがある程度の場所に

 炎の魔術を放った。


「よかった…ちゃんとできた…」


 と、セネカが呟くと同時に、


 ―――どかぁぁぁぁあぁぁんん!!!


 激しい閃光と爆発がその辺り一体に起こった!!


 爆発の衝撃が周囲の空気を歪ませ、

 一瞬耳が聞こえなくなるほどの轟音が辺りを覆った。

 まばゆい閃光が視界を奪い、熱波が頬を撫でる。


「おぃぃぃぃ!!!」


 オレは、あまりの爆発の激しさに、

 驚きすぎて、クロミアさんが何を投げたのかが

 分からず、気が動転して突っ込んでしまった。


 あの…なんですか? あの爆発…


 かなりすごいのですが…


 しかも、火の粉が舞っていて、その火の粉に

 触れた兵士の衣服が燃え上がっていますが!!


 しかも、落ちた火の粉に枯葉も

 一気に燃え上がってますが…それは…


 その光景に親衛隊もフォーゲルも呆気に取られ

 全員、思考がフリーズしていた。


「………」


 …あの、ほんとにこの人は何者?

 あんなもの、どこで手に入れたんだ…


 状況からすると、粉塵爆発なのだろうとは

 思うのだが…その、爆発を起こした物質が分からない…


 あんなに激しい光を伴うってことは、

 金属の粉末ではないかとは思えるのだが…


 そこまでだ…オレが予想できるのは…


「…ああ、びっくりしました」


 …それを引き起こした当の本人が何を言ってるのやら…


「あ、あの、クロミアさん?」


「はい、なんでしょうか?」


「あれは一体、なんの粉ですか?」



「あら、粉末というのはわかったのですか。さすが、アルさんですね。あれは、ちょっと面白いものでして…このベルヴィールから東方にある土地に、ある少数部族『アルミン族』が存在しまして、なんでも、大昔に「空から天が降ってきた」という伝承があり、その後に銀色と赤褐色が混ざり合った不思議な石が見つかったそうです。その銀色の部分の粉を火にくべると、激しく燃え上がるのを見て、その部族の儀式などの時に使われるものらしいです」


「………」


 …それ、アルミの粉じゃね?


「その儀式と伝承を聞いて、わたしも気になり、その部族に会いに行った時に、パクッ…失礼、お借りして試したところ、激しく燃え上がって爆発したんですよね。それで、何か使えないかと持ち歩いてました」


「………」

 

 そんな危険なモノを持ち歩くとか…この人は…


 色々、突っ込みたいところ満載だけど…

 まずは…パクったと言いそうになっただろ! 絶対…


 ほんっとに、この人は…

 でも…あれのお陰で助かったのも事実…


 この人がいて、良かった…? のか?


「さぁ、まだ後三つほどはストックがあります! いつでも言ってくださいっ!」


 …やる気まんまんやん、この人…


「び、びっくりしたあ…何、今の…?」


 セネカはかなり驚いた様子で未だに、

 おろおろしていた。


 そら、そうなるよな…


「な、なにがおきた? あの激しい光はなんだ? それにあの爆発もっ!」


 フィリップも状況が理解できず、慌てていた。

 それは、フィリップだけではなかった。

 フォーゲルも同じように、

 あまりの突然の出来事で呆然としている。

 

 他の親衛隊も訓練されているとは言え、

 あんな爆発は想定外なのだろう、

 あれだけ、整然として隊形をを組んでた

 兵士も今や、見る影もない。


 火に怯えて叫び声を上げ、

 指揮が崩れたかのように

 各々がばらばらに動き始めていた。


 その間にも爆発のあった兵士たちは

 火が燃え移った者、負傷者を

 救助しようと動いていた。


 衣服に火が燃え移り、地面を転がり回っている

 兵士を見て、セネカが見かねて水の魔術を

 使い、消化していた。


「セネカ…」


「…ごめん、アルくん…さすがに寝覚めが悪いよ…」


「うん…それでいい」


 と、オレはセネカを肯定した。


 オレだって、寝覚めが悪い…

 助けれるのなら助けたい。


 そんな中、その様子を見て呆然としていた、

 フォーゲルが、苦にがしい顔で怒気を孕んだ声で

 歯ぎしりをしながら叫ぶっ。


 ―ぎりっ!


「やはり、頭のおかしい薬学者がっ! よくも、やってくれましたねっ!」


 フォーゲルは怒りでこめかみを押さえ、

 顔を真っ赤にして息を荒げていた。

 目は血走り、今にも爆発しそうな勢いだ。


「この狂った薬学者め、何をしやがった!」


「あら、お気に召しませんでしたか? ですが、本性がお出になってますよ。執事ともあろう者が、それではみっともないですね」


 クロミアは冷ややかな笑みを浮かべ、

 わざとらしく肩をすくめてみせ、軽く言い放った。


 その一言がフォーゲルの怒りにさらに火を注ぐ。


 …煽ってる、完全に煽ってる…

 この人、容赦ないな…


 フォーゲルの顔はさらに赤くなり、

 拳を握りしめた。


「くそがぁぁぁ! この汚らしいゴミ虫どもがあぁ!!! ゴミ虫はゴミ虫らしく底辺を這いずり回り! 高貴であるわたしどものいいなりになっていればいいものをっ!! それを! それを!! 許さない! 許されるわけがないぅあわぁぁ!! 下賎な生まれの下民風情が図に乗るよっ!! 今から口に憚るのも忌々しいくらいに、犯し回し、ぶち殺して、体を切り刻んでブタの餌にでもしてやるわぁぁ!」


 フォーゲルはさらに口汚く罵り続けた。

 オレたちも親衛隊たちも困惑した表情で彼を見つめ、

 誰も口を開けずにいる。


 息を荒くしながら、フォーゲルは、拳を強く握り締め、

 肩を上下させながら深呼吸をし、

 冷静さを取り戻した。


 「ふぅ…」


 数秒、言葉を探すように空を見上げ、

 ようやく彼は静かに息を吐き、

 気持ちを落ち着かせた。


「すぅぅぅ…はぁぁぁ…先ほどの言はご無礼致しました。わたしとしたことが、感情に流されてしまいましたね。どうぞ、ご容赦を」


 一瞬前の狂気じみた態度が嘘のように、

 フォーゲルは額に手を当てて冷静さを装い始めた。

 

 彼は、まるで先ほどの暴言がなかったかのように、

 ゆっくりと顔を上げ、周囲を見渡した。


 怒りで赤く染まった顔には、

 まだ微かな苛立ちの残り香が漂っていたが、

 その目は冷静さを取り戻しつつあった。

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