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ム限焉転  作者:
第二章 可能性の世界
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第七十七話 共闘

 フィリップ邸宅の玄関前、夜風が冷たく、

 木々がざわめく音が微かに響いていた。

 月明かりが薄雲に隠れ、

 不安定な光が石畳を淡く照らしている。

 遠くで馬の蹄の音がかすかに聞こえ、

 緊張感が漂う空気を一層引き締めていた。


 そんな夜の薄闇の中、邸宅内から玄関に

 黒い服をきた給仕の影が一つ現れる。


 その給仕はアルには親の顔より、よく見た顔ではないかと

 思えるクロミアさんの姿だった。


「………」


 …なんで、普通に玄関から出てきてるんだよ、あの人…


 おかしいだろ…


 たしかに、別の国で給仕をしていたのだろうけど…

 なんで、ほかの人にばれずに仕事できるんだ…

 

 オレと違って、肝が据わっているというかなんというか…

 ある意味、尊敬できるよ…

 まぁ、すでに尊敬してるんだけどね…


 それでも、凄すぎるだろ…ほんと…


 なんて、思っているとオレが隠れている場所の

 分かっているため、なんの迷いもなくこちらに近づいてくる。


「………」


 おいおいおい…

 まずいって…バレるから…

 それ以上こっちにくると、オレたちがバレるって…

 向こうに行ってくれよぉ…


 セネカと二人してドキドキしていると

 クロミアさんが、オレたちに話しかけてきた。


「…アルさん」


 …な、なんだろうか?

 クロミアさんがすっごい不自然なところにいて、

 逆に目立つのですが…それは…


 そんなことを思ってることも、

 露知らず、クロミアさんが話を続ける。


「セラさんがさらわれました…」


 …は?


「フォーゲルにさらわれて、フィリップさまにお力をお貸しいただけませんか?」


 オレの頭の中に「?」マークが飛び交う…

 意味がわからないのですが…


 なんで、フォーゲル?

 それに、フィリップがさらったんじゃなくて、

 力を貸して欲しい?


 オレは混乱しているがクロミアさんに尋ねてみた。


「…あの…クロミアさん、何を言ってるのか。さっぱりわからないのですが?」


「…そうですか。では、今一度お伝えしますね。セラさんがフォーゲルにさらわれて、フィリップ様がお力を貸して欲しいそうです」


「………」


 …やっぱり、意味が分からない…


 混乱しぱなっしのオレにクロミアさんが続ける。


「こんなところで詳しい話もできません。フィリップ様が待つ休憩室にご案内いたします。ついてきてください」


 そして、オレとセネカはクロミアさんについていくのだった。


 ―――


 アルとセネカは、

 クロミアさんの後に静かに玄関を通り抜けた。

 内心、ドキドキしているオレたちとは違い、

 クロミアさんは堂々としたものだった。


 それにしても…誰かとすれ違うたびに、場違いな服装を

 しているオレたちがいるにも関わらず、

 クロミアさんがいるせいなのか、一度立ち止まり、

 こちらに誰も彼もがお辞儀をしてくる。


 ほんと…なにものなんだ…この人…

 たしかに、この堂々と凛とした姿に高位の

 給仕みたいな雰囲気が滲み出ているのがわかるけども…


 それでも、今日初めての場所なんだぞ…

 それを、何故こうまで長年勤めてきかの様な雰囲気を

 出せるんだ…この人…


 などと、オレが考えているうちにも、

 どんどんと中へと進んでいく。


 そんな、フィリップ邸の中は、

 荘厳な雰囲気を醸し出していた。


 夜の冷気がまだわずかに感じられる玄関ホールには、

 大理石の床が光を反射し、

 足音が不規則に響いている。


 廊下に入ると、両側の壁に並ぶ燭台が

 揺れる炎を灯し、長く続く影が床に伸びていた。

 柔らかなカーペットが次第に足音を吸収し、

 歩くたびに空気が重くなっていくように感じられる。


 装飾の施された柱や彫刻が、

 廊下を厳かで圧迫感のある空間に変えていた。

 前方を進むクロミアの背中が揺れる炎に照らされ、

 まるで幻のように見えた。

 

「わぁ、外から見てもすごかったけど、内装は凄くすてきだなぁ。ねぇ、アル。今度、頼んで泊めてもらおうよ」


 などど、セネカはブルジュワな雰囲気に飲まれ、

 能天気なことを言い出した。


「いや、今はそれどころじゃないだろ…」


 と、オレは一言…


「そ、そうだね…ごめん…」


 ほんとにしょんぼりしたセネカがそこにいた…


 しかし…ほんとに豪華だな…

 

「………」


 …なんか腹立つ! 


 あまりの豪華さに内心少しだけ嫉妬した。


 そうこうしていると、フィリップの待つ休憩室に到着した。


 ―――コンッコンッ


 クロミアさんが粛々とドアの扉をノックした。


 相変わらず、こなれているなぁ…


 オレは、細やかなところまで流れるような所作に感心するのだった。


「フィリップ様、お連れいたしました。入ってもよろしいでしょうか?」


 そう言うと、中からフィリップの声が聞こえ、中に入るよう促した。


 中には、椅子に腰掛けていたフィリップが、

 重々しく立ち上がる。

 彼の顔には深い疲れと緊張が滲み、

 眉間には深いしわが刻まれていた。


「…アルレフレクス…貴公には、まず詫びねばならぬな…今回の貴公への無礼な態度、お詫び致す。申し訳なかった」


 フィリップの声には、

 何かを抱え込んでいるような苦悩が含まれていた。


 そして、そのままフィリップは頭を下げ、謝罪した。

 それを見たアルは戸惑い、どう反応すべきか迷った。


「や、やめろ…フィリップ…貴族のお前が謝るな」


「しかし…それでは私の気がすまぬ…悪かった」


 再びフィリップが深く頭を下げる。


「…そ、それより、セラだ。何がどうなっている? どこに連れ去られたんだ?」


 アルはその姿に背中がかゆくなるのを感じ、

 いたたまれなくなり、話題を変えた。

 

「そうだな、そなたの申すとおりだ。まずはセラの救出を考えねばならぬな」


「とにかく、何がどうなっているのかを話してくれ、話はそこからだ…」


 そう言うと、フィリップはバツが悪そうにポツポツと話し出すのだった。


 ―――


 柔らかな光が燭台から漏れ、

 重厚なカーペットが敷かれた温かみのある空間で、

 床やテーブルに散らばっていたお菓子は綺麗に片付けられ、

 セラがさらわれた休憩室には静かな緊張感が漂っていた。


 そんな中、フィリップは淡々と事の経緯を話していた…


 アルの表情は次第に怒りを増し、

 手がかすかに震えているのが見えた。

 クロミアはいつもどおり平静な態度を保ち、

 セネカは少し嫌悪感を浮かべながらフィリップの話を聞いていた。


「…全ては、我の不徳の致すところだ…我が身の愚かさが嫌になる! 恥を忍んで、アルレフレクス殿のお力を借りたい…セラを助けたくとも、我には力がなく…歯がゆい思いだ…だから、どうか力を…」


 ここまで話すフィリップを制し、オレは言葉を放つ。


「…言われなくても、セラを助けるためにオレたちはここにいる。お前に言われなくても助けるつもりだ…けど、フィリップ…オレは、お前を許せないっ! なぜかは分かるよな!?」


 フィリップは顔を背け、

 過去の行いを悔いるように俯いた。


「…わかっている。オレの愚かな行いが端を発している…それを許してくれなどとは言わぬ。ただ、詫びるだけだ…」


「それで許せると思っているのかっ! オレはっ! オレはっ…」


 オレが激昂する様子を冷静な瞳で見ていた

 クロミアさんが、静かに口を開いた。


「…セラ様は許されましたよ」


「…えっ?」


 オレは素っ頓狂な顔をして驚く。


 そう言いながら、クロミアさんはティーカップを傾け、

 飲み終えると両手で持ち直して淡々と話し始めた。


「アルさんの怒るお気持ちもよくわかります。誰だって、許すことなど出来ないでしょう…普通ならば」


「………」


 ひと呼吸置いて、さらにクロミアさんが続ける。


「…ですが、セラ様はフィリップ様の立場と他貴族様方との完璧な振る舞いを見て、どれだけの重責が伸し掛かっているのかを理解され、ご自身をクロード様から守る姿を見て、フィリップ様の素直な謝罪を受け入れました…その姿を見て、わたくしは立派だと感じましたよ」


―――ズズズッ


 言い終えた後、

 またクロミアさんはティーカップを傾けた。


「くっ…しかし…」

 

 クロミアさんの言動も理解できないわけではない。

 この家がどれだけの重責を背負っているかは容易に想像できる。


 しかし、それでも…


 そう考えていると、セネカが話に加わってきた。


「アル…今はそれどころじゃないんじゃないの? まず、セラくんを助けることが先決じゃない? でしょ?」


 確かに、そうだ…

 

 こんなところで、うだうだしている場合じゃない。


「…わかった。オレも手を貸すよ。フィリップ」


「かたじけない…」


 アルに頭を下げ、助力を請うているフィリップの目に涙が浮かんでいた。


「…だけど、勘違いするな。セラを助けるのは初めから決まっていたことだ。おまえに言われたからじゃないっ!」


「わかっている。セラが助かるなら、なんだっていい」


 アルはフィリップを許せないでいるが、フィリップも許されるとは思ってはいない。


 だが、オレたちは、とにかくセラを助けるために動き出したのだった。

 

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