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ム限焉転  作者:
第一章 転生
25/110

第二十五話 アルにとって…

 ―――ガンッ! カンッ! ガッ!!!


「くっそ、近寄れんぞ!」


「ほんとにな! この足が相変わらず鬱陶しいな!!」


 ―――ヒュン!


 グロイエルのタコの足が鋭く振り下ろされ、

 アレンとデュランは防戦一方だ。

 それでも、必死に足を掻い潜り、攻撃を叩き込もうとしていた。

 何本かの足を切り落とすことには成功したが、

 それらは再生し続けていた。


 グロイエルの一番厄介なのは、この再生能力だった。


「くっそ! 調子こいてんじゃねぇぞ! このタコ野郎!! くらえっ! 落鳳閃っ!!」


 アレンは肩口から剣を斜めに振り下ろし、

 グロイエルの本体に一撃を叩き込んだ。

 しかし、剣は肩口から刃の幅ほどしか切り込めなかった。


 その瞬間、グロイエルが体毛を射出しようとするのを察知し、

 アレンは素早く剣を引き抜き、後ろへと高くジャンプしてかわした。


 ―――ズササァァ


 そして、着地の隙をタコの足が襲ってくる。

 しかし、それをデュランが双剣で切り落とした。 


「おい、大丈夫か!? アレン!」


「うっはぁ、やっべぇ、やっべぇ…ふぅ…まぁ、大丈夫だ」


 アレンは余裕の表情を見せているが、

 だが、一歩間違えば大怪我では済まない状況だ。


「ダメだな…あれは。さすがにもう少し慣れたヤツがいないと、どうにもならないな」


「すいません…上手く援護できなくて…」


 アレンの言葉に後方の魔法士が謝ってきた。


「いや、別に責めてはいないさ。あんたらは撤退の為の氷結魔法に集中してくれ」


「はいっ!」


「ファルケン副官。そろそろ、いいか?」


「そうですね。もう皆撤退は完了してるでしょう。頃合かと」


「わかった! では、合図したら魔法士は氷結魔法を! そして、ヤツが白く光り出したら決して見るな。目を閉じるか、瞑れ! 石化光線が来るからな!」


「了解!」×8


 その時、グロイエルの体が突然白く輝き始めた。

 それを見たアレンは即座に叫んだ。


「来るぞ! 目を閉じろぉ!」


 アレンの指示を聞いた全員が、瞬時に目を閉じた。

 グロイエルの目が赤く発光し、周囲が真っ赤な光に包まれる。

 光はしばらくの間、辺りを覆い尽くし、その後徐々に薄れていく。

 グロイエルの動きが止まるのを確認すると、アレンは再び叫んだ。


「今だ! 氷結魔法をぶち込め!!」


 魔法士たちは一斉に詠唱を始め、強力な氷結魔法を発動させた。


「蒼き眠りを解かれた氷の貴婦人 「スネグルカ」 絶対の零の地より来りて、其の凍氷の(かいな)に抱かれて永遠に眠れ 「ゲフリーレン(氷結の)フェルト(野原)」×2


 グロイエルの周囲の気温が急激に下がり、

 地面が急速に凍りつき始めた。

 二人の魔法士による詠唱の効果で、

 本来は膝までしか凍らせられないはずの氷が、

 グロイエルの腰まで届いていた。


「よし、今のうちに撤退するぞ!」


 アレンの声に応じ、ファルケン副官も撤退を指示した。


 ―――ダダダッ!


「…はぁ、まったく…ほっとする」


「ほんとにな。ははは」


 アレンの言葉にデュランは相槌をする。


「ファルケンさん。ずっと、オレがしきってて悪かったな」


「いえ、さすが、元名うての冒険者と感心してましたよ。わたしは、あのような化物を見たこともなかったので、ほんと、助かりました。あんな石化の攻撃なんてのも知らなかったもので、教えてもらわなければ全滅したところです」


 副官がそういうと、他の兵士もうんうんと頷いていた。


「そうか? ま、それよりも今はとっとと村に戻って立てなそうか!」


「だな」


「ですね」


 ほかの兵士もアランに同意し、脇目も振らず村へと撤退するのだった。


 ―――


 正午が過ぎ、オレとセネカとセラたちと共に昼食をとった後、

 クラウス率いる騎士団が村に戻ってきた。


 村の人々は騎士団の様子を見てどよめき、

 ざわついていた。

 オレは、人だかりの隙間からその様子を覗いた。


 しかし、それは凱旋などとは程遠い光景だった。

 騎士たちの表情は暗く、負傷兵が多く見受けられた。

 彼らの姿はまるで、死地から辛うじて生還した者たちのようだった。


 負傷した兵士たちは次々と村の広場に担ぎ込まれ、

 クラウスの指示のもと、重傷者は集会所へと運ばれた。

 集会所は、即座に簡易の病棟へと変わり、

 治癒師や看護にあたる村の者たちが懸命に働いていた。


「死者二名、欠損者二名、重軽負傷者七名…」


 部下からの報告を聞くクラウスの表情は、

 痛々しいまでに沈んでいた。

 自身の不甲斐なさと経験の浅さを痛感し、

 これほどの死傷者を出してしまったことへの悔恨が彼の心を蝕んでいた。


 その周りには村長や有力者たち、

 そしてクラウスの父であるテオドル子爵が集まり、

 状況の説明を求めていた。


 しかし、オレの頭の中は別のことでいっぱいだった。


 父、アレンの姿が見当たらない。


 集会所、広場、その周辺、トイレや簡易の食事場…

 オレはあらゆる場所を探し回った。


 だが、何度探しても、アレンの姿は見当たらなかった。

 デュランさんも一緒にいない…。


 不安が胸の奥からじわじわと沸き上がり、

 オレはその感覚に押しつぶされそうだった。


「待て…ちょっと待て…」


 自分に言い聞かせるように、声を出した。


「なんで、アレンが…父さんがいないんだ…どういうことなんだ…」


 頭を振って、嫌な予感を振り払おうとする。

 いや、そんなはずはない。

 だって、アレンなんだぜ…

 そんなこと、あるはずがないって…はは…


 ―――ドンッ!


 気づけば、オレは横にある壁に拳を勢いよく叩きつけていた。


 …たしかに、アレンとはまだ一年くらいしか付き合いがない。

 でも、オレは子供としての役割を果たそうと努めてきた…


 けど、やっぱり…


 アレンはどちらかというと…

 友達みたいにしか思えなかった。

 ちゃんとした親子になんて…

 前の記憶があるオレには無理だった。


 言葉にしながら、胸の奥にずっと隠していた感情が溢れ出す。

 アレンを友達のように思ってしまう自分を責める気持ち、

 そしてそんな自分がアレンを父親として認められないことへの後悔が入り混じる。


 だけど…


 アレンはただの友達なんかじゃない。

 たった一年の付き合いでも、

 オレにとってどれだけ大切な存在になったか、

 そんなことは自分が一番わかってるはずだ。


 彼はオレを守り、導き、まるで、自分の本当の父親のように振舞っていた。

 オレはいつの間にか、その温かさに甘えていたんだ。


「だから…アレンがこんなことで…」


 また頭を振った。認めるわけにはいかない。

 そんなこと、絶対にあり得ない。


 オレの中で、アレンを失うかもしれないという恐怖と、

 それを絶対に認めたくないという感情が交錯していた。

 全身が震え、冷や汗が背中を伝う。


―――タタタッ


「アルッ!」


 オレの名を力強く呼ぶ声が聞こえた。

 振り向くと、ルーザが不安な表情を浮かべ、

 目に涙を溜めて駆け寄ってきた。

 その瞬間、彼女はオレに強く抱きついてきた。


「母さん…」


 オレを抱きしめるルーザの腕が、微かに震えているのが伝わった。

 彼女の不安が、オレの心に痛いほど響いた。


 …母さんも不安なんだ。

 オレと同じように、心が押しつぶされそうになっている…。


 一瞬、二人の間に静寂が訪れる。


 ………


 でも、このままじゃいけない。

 オレがこれ以上不安がっていたら、

 母さんがますます悲しむ。

 息子として、オレが支えにならなきゃ…。


「大丈夫だよ、母さん。父さんはアレンなんだから、きっと…」


 すこし、唇が震えている声で母さんに言葉をかけた。

 そして、ルーザの背中に手を回し、

 少しでも彼女を安心させようと努めた。

 

 そんなオレの心情を察したのか、ルーザも強くあろうと涙を拭いて微笑もうとした。


 しばらく、母さんの気持ちが落ち着くのを待っていると、

 セネカとセラたちがオレを心配そうな表情で近づいてきた。


「アルくん…」


「アル…」


 二人共、オレの父さんがいないことを知り、

 不安と焦りで、オレとどう接していいか悩んでいるようだった。

 

 そんな二人に「オレと母さんは大丈夫だから…」と、

 何とか笑顔を作った。


 けど、それがどれほどぎこちないものだったかは、

 自分でもわかっていた。

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