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ム限焉転  作者:
第一章 転生
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第二十三話 撤退戦

「なんで、あんなのがこんなところにいるんだよっ!」


「知るかよっ! とにかく、なんとかしないとまずいぞっ!」


 アレンとデュランも一度は迷宮で戦ったことがあるため、

 この化物のやばさは理解していた。

 だからこそ、突然のクラスAAAの魔物の襲撃に焦っていた。


 「グロイエル(忌まわしきもの)


 普通であれば、もっと魔素の濃い場所か迷宮の奥でしか遭遇しない程の魔物だ。


 顔のタコの様な足が伸縮し攻撃を行う。

 その足には麻痺毒があり、

 巻きつけられると間違いなく悶絶し身体の運動能力を失い気を失う…

 気を失う程度で済めばいいが運が悪いと命すら落とす。

 

 体の猿のような体毛は硬く耐魔防御も備えている。

 生半可な魔法は弾き、魔剣クラスでないと傷一つ付けれないほどだ。

 その他に体毛を硬質化し周りにトゲのようにして発射してくる。

 

 そして、ヤギの様な足で高速の突進で全てをなぎ払う。

 その爬虫類の様な目が赤く光り出すと石化の視線を繰り出す。

 ただ、かなりの魔力を消費するため、

 一度発動すると一定時間は出せなくなるようだ。

 出す前にも溜め時間があり、

 体に魔力を流すのか白く発光しながら眼を赤くなっていく。


 そして、最後に呪歌と呼ばれる低く不協和音のような声を発する。

 それは、聞く者の精神を蝕む音波をだし、理性を失わせ、狂気に陥れる。


 そのな化物に襲われ、クラウス率いる「黎明の守護騎士団」は苦戦を強いられていた。


 クラウスが素早く指揮を執る。


「全隊、戦闘態勢を整えろ! 一番隊、前へ!」


 命令が飛ぶが、グロイエルはその巨大なタコのような顔から無数の触手を伸ばし、

 盾を構えた一番隊の騎士たちに襲いかかる。

 触手に巻きつかれた騎士は瞬く間に麻痺し、崩れ落ちた。


「後退せよ! 二番隊、援護しろ!」


 クラウスが叫ぶが、次々と触手が襲いかかり、

 麻痺毒が広がっていく。

 騎士たちは次々と戦闘不能に陥り、

 隊列は乱れ始めた。

 その中でも、攻撃が当たり負傷は負わせてはいるが、

 あまりに硬く生半可な攻撃では致命傷を負わせれない。

 それだけではなく、多少のキズは自動で修復している。


「くそっ、三番隊は右側から攻撃しろ!」


 クラウスは戦況を立て直そうとするが、

 その時、グロイエルの猿のような体毛が硬質化し

 、鋭いトゲが一斉に放たれた。

 その鋭い体毛が鎧のつなぎ目、

 薄い場所を貫き、何人かの騎士が叫び声を上げながら倒れた。


「なんなんだ、こいつはっ!」


 初めて対峙するこの化物の強さ、硬さ、そして狂気に混乱し、

 クラウスは指揮に迷いが生じ始めていた。


「四番隊…」


「おいおい、あのぼっちゃん、まだやる気のようだぞ」


「何考えてやがる! 兵士を殺す気か!?」


 周りを見渡せば、既に十数人程の負傷が出ていた。

 中には腕が欠損したり、

 腕や足があらぬ方向に曲がっている者も出ている。

 …そして、まったく動かなくなった者も。


 それを見かねたアレンはクラウスに元に撤退を勧めに走り寄った。


「おい、撤退を命令しろっ! このままじゃ、全滅するぞ!」


「警備隊風情がなにをいう! 我が「黎明の守護騎士団」に撤退など…」


 クラウスが最後まで言い切るまでに、

 クラウスの襟を掴みアレンが怒鳴る!


「いい加減にしろよ、おまえ! 周りを見てみろ! 皆、おまえを信じ付き従った者たちの姿を!」


「わかっている! だからこそ、ここでヤツを…」


 未だ、戦況を覆そうとするクラウスにアレンは、

 さらに強く襟を掴み、彼の瞳をまっすぐに見つめた。


「オマエの指揮官としての有能さは、さっきの戦いで認めてやるよ。それに、オマエの部下も優秀だ。皆、おまえを認め、信じ、おまえの為に命を張って、今のこの状況ですら逃げ出すものがいない。それは絶えず、おまえが部下を気遣って接していたのがよく分かる。だけど、そんな部下が半壊し、既に何人か死者もでている…おまえはこのまま、最後の一人まで殺すつもりかっ!?」


 そう言われて、クラウスは唇を噛み、

 拳を握り締め、苦い表情を作る。


「…わかっている。だからこそ…」


「ヤツを倒して弔うとか言ってくれるなよ」


「くっ…じゃあ、どうしろというんだ!」


「一旦引いて、戦力を立て直せ。今はそれが最良の策だ」


「それでは、散った者たちの…」


「今ここで全滅したら、おまえは敵の戦力を計れない無能の指揮官として汚名を着るぞ」


「っ…!?」


「何を気にしてるかしらないが、準備も何も出来ていない所にあんなのが現れたんだ、ここで引いたところで誰もおまえを責めはしないよ。だからな、準備を整えて、改めて再戦しないか?」


 クラウスは再び周囲を見渡し、苦悩の表情を浮かべる。

 彼は自身の信念と部下たちの命の間で揺れ動いていた。

 しかし、アレンの言葉がその決断を後押しする。


「わかった…だが! オマエに言われたからじゃない! 部下をこれ以上死なせたくないからだ!」


「はいはい、それで構わないよっ」


 クラウスは自分を鼓舞するかのようにアレンに悪態をつき、

 撤退の指揮を始めた。


 まだ五体満足な盾兵を集め、前方の防御を強化させ、

 動ける者で負傷者を回収。


 負傷者は盾兵の後方にいる治癒師のもとで回復を受け、

 それでも動けない者は他の者が抱えて後退させていた。


 その動きには一切の無駄がなく、

 兵たちの連携と練度の高さがうかがえた。


「ファルケン副官はいるか!?」


「ここに」


「今から、おまえは負傷兵を率いて撤退せよ。我は残り、殿の指揮を執る!」


「!!」


 全員がその言葉に唖然とした。

 それは、アレンやデュランですら呆気にとられるほどだった。


「おいおいおい。あの坊ちゃん、また凄いこと、いいだしたぞ」


「…いいねぇ、ああいうバカは嫌いじゃない、はは。だが、今は状況を考えろよな。どこの世界に指揮官自ら、殿をするバカがいるんだよ。ははは」


 アレンはクラウスの大胆さに、

 呆れながらも称賛の念を抱かずにはいられなかった。


「けど…まぁ、ちょっと生意気な指揮官殿のために、ここはオレたちも支えてやろうじゃないか」


「しゃーねぇな、やるかっ!」


 デュランがそう言って肩をすくめると、

 二人は副官に加勢するべく、クラウスに歩み寄った。



「お待ちください。殿はわたしが努めますので、閣下は負傷兵と共に撤退してください!」


「何を言うか! ファルケン! ここでおめおめと我が引いたら「黎明の守護騎士団」の沽券に関わる!」


「まぁまぁ、クラウス。おまえがここに残ったら、次の戦いに備える者がいなくなる。それこそ無駄死にだ」


 アレンは息巻くクラウスの肩を軽く叩きながら、静かに諭した。


「そうだよ、指揮官殿。俺たちが殿を引き受けるから、おまえは部下たちを安全な場所へ導いてくれ」


 デュランもアレンに続き、

 落ち着いた声で言い放つ。


「卿ら…何故だ? 我は卿らを見下していたんだぞ…」


「…そうだな。少なくとも、おまえさんの指揮官としての手腕を認めたから…かもな」


「オレも同感だ」


「卿ら…」


 クラウスは二人の説得に耳を傾け、

 数秒間迷った後、ようやく決断を下した。


「わかった…だが、撤退が完了するまでおまえたちも死ぬなよ!」


 そう言うと、クラウスは負傷兵と指揮し、

 撤退を始めたのだった。


「ふぅ、やっと行ったか。ところで、ファルケンさんだっけ? 融通が効かない指揮官で苦労するな」


「そうですね…ですが、少々曲がっていますが、あの真っ直ぐな愚直さと頑固さが我々には、心地いいのですよ。まだまだ、共に戦っていきたいですね」


 ファルケン副官は感慨深く呟いた。


「…それじゃあ、是が非でも生き残らないとな。それと、魔法士と治癒師もとんだ貧乏くじだな」


「いいんですよ。我々も撤退の完了まで補助致しますよ」


「そうか…じゃあ! 気合いれて始めていくかっ!」


「おぅ!!」×8


 殿での戦いにアドレナリンが全開状態の兵たちとは違い、

 デュランは冷静にアレンに突っ込みを入れそうになっていた。


「おいおい…ま、いっか。そんじゃ始めますか」


 そして、撤退戦が開始されるのであった。

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