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ム限焉転  作者:
第一章 転生
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第二話 出:現代

 オレ、小鳥遊悠は二〇才の頃に突然倒れ三年間寝たきりになっていた。


 何故、そうなったのかは分からない。

 だが、とにかく三年間は意識が戻らず院していた。


 流石に三年間寝たきりだと歩く事も困難だった。

 

 その為、歩く為のリハビリに一年かかった。

 社会に復帰した時は二四才になっていた。


 元々進学はせず、一九の時に雇ってくれていた街の小さい会社にオレの席はなかった。


 また一から就活しないといけない…


 流石に億劫になる…

 

 それに問題はそれだけではない。


 三年間の寝たきり入院と一年のリハビリの入院費に治療請求も頭を悩ませる。


 二十世紀初頭では医療保険の制度もその後のリハビリの支援も整っておらず、

 国や県や市の補助はあるとは言え、今のオレに取っては結構な額だ…


 両親は一七の時に事故に合い、父、母共に仲良く亡くなってしまった…

 その時の保険金もほとんだ、治療に使い果たすことになった…

 兄弟も近しい親戚もおらず、オレはほぼ天涯孤独になっている。


 そこに来て、就活に医療費の請求だ…


 これは、ほんとにまいった。

 それでも、一五社程就活ムーブメントをかました。

 なんとか就職が決まった。


 だが……なんだろ、ブラックなんだがブラックじゃない感覚…

 ほんのりブラック? 

 グレーって言えばいいのか?


 それに加えて、オレは口下手で人との会話が苦手な上に優柔不断だ。

 だから、頼まれると嫌とは言えないために、やらなくてもいい仕事もやらされてしまう。


 一度そうなってしまえば、「アイツは断らないから」と次々押し付けられる。

 が、小さな町の小さな会社の仕事量なんか高々しれている。

 オレは多少時間はかかるが、それほど苦にはならなかった。

 それはそれでいいのだが、別の問題があった。


 その問題は、小さな会社だとそれ相応に給料が安い…

 家賃に生活費光熱費など払い、そこに加えて医療費だ…


 そうなるともう、カツカツだ…


 そんなオレがやることなんて言えば、

 ゲームやアニメに映画の鑑賞くらいだ。


 最近はパソや携帯等で解説動画等を見ることくらい。

 オカルト、科学、宇宙、歴史等々、浅く広い。


 知らないことを知ることが楽しいと感じてしまった。

 とにかく、安上がりで楽しめる事しかしない。


 こんな状態だと彼女なんて作る余裕などない。

 だから、もうこんな年まで独り身だ。

 このままならきっとこの先も、このままなんだろうと思う。


 もう、生きるために生きているような感覚で、気づけば早二〇年は経っていた…


 そんなオレだが、たまに変な夢? 

 というか記憶がある。


 それは三年間、赤い髪のエルフと暮らしていたという記憶だ。

 そんな事はないはずなのだが、妙にリアルな記憶だ。


 初め見たときは、どこのコスプレイヤーだと思ってしまった。

 だが、その全てが本物だと分かったときは、唯々驚いた。

 

 初めは、言葉も分からず警戒された。

 しかし、そのエルフが何かに気づいてからは

 次第にオレに心を開くようになった。


 言葉を少しずつ覚え、

 たどたどしく話す彼女の姿は愛らしく、

 会話が通じるようになった頃には

 二人で過ごす時間が何よりの楽しみになっていた。


 一年も過ぎようとする頃には段々と日本語も覚え始める。

 オレもその娘のいたと思われる国の言語を教えてもらった。


 


 たどたどしいが意思も通じてくると、

 オレはその子と話しているだけで楽しかった。


 そして、その子との距離が縮まった頃、


 色んなものに興味を持ち「これは何に使うの?」とか「どうやればいいの?」等。


 普通に暮らしていると知らないはずはないだろうって、思える物に興味津々で尋ねてくる。

 

 それをオレは懇切丁寧に説明すると「おー」とか「うぁ~」とか言いながら、目をキラキラさせながら、説明を聞いていた。


 それがオレには微笑ましく可愛いと感じていた。

 

 コロコロ変わる表情、何かに失敗して困った表情。

 恐る恐るスイッチを押す困惑している表情。

 それがうまくいった時の嬉しそうな表情。


 その全てが愛おしいとさえ思えた。


 時には、その娘に耳を隠せるほど深めの帽子を被ってもらい外で外食した。

 それから、映画やテーマパーク等も遊びに行ったりしていた。


 田舎なので、移動はオレの愛車と呼ぶにはみすぼらしい軽で当然ガソリン車だ。


 それでも、その娘は自動で走れる乗り物に興味を示し、乗っている間も楽しそうにしていた。


 そんなある日、その子がいつも身に着けていた古臭い懐中時計? のような物を見る機会があった。


 今頃、懐中時計自体が珍しい。


 それ以上にその子が持っていたものはさらに変わっていた。

 文字盤の数字が見たこともない文字で書かれていた。

 その文字盤自体が何かの模様…


 そう、まるで魔法陣ようだった。


 そして、その魔法陣が描かれた文字盤がスケルトンになっていて中身が見えている。


 それから、その懐中時計の色も不思議だった。


 一見、金属的な光沢のある銀色だが、時折、青や紫の色を放っている。

 しかも、時折星のような輝きを見せていた。

 

 それを不思議に思い、まじまじと見ていると、

 その事に気づいたその子はサッとポケットにしまうのだった。


 そんなに見られると困るものだろうかと思っていた。

 しかし、それ以来見ることもなくなり、オレは忘れてしまった。


 その後、ここの生活も慣れた頃。

 その子が失敗しながらでも手料理を作ってくれた事があった。

 試行錯誤しながら作ったのか所々で焦げすぎたり、

 生ぽい部分もあったがオレには何より、

 その心遣いに感動さえ覚えた。


 少し、気恥ずかしそうな表情を浮かべオレに「どうぞ…」と言って食を促される。

 早速食べ始めるとオレは泣いてしまった…

 

 突然、泣き出したオレを見てその子は焦ったようだ。

 自分の料理が不味かったのかと心配してオロオロしていた。

 その子に「おいしいよ」と言うと、にこやかに微笑んで、オレは全部泣きながら食べきった。


 何故泣いてしまったのかは分からない。


 今まで感じたことのない感覚に感動したのか?

 それとも、オレの為に何かしてくれる人が居ることが嬉しくなったのか?


 それとも…


 とにかく、ずっと一人だったオレにこんな日が来るなんて想像すらしてなかった。


 この時、オレはこれが幸せなんだと感じ、この時間が永遠に続けばいいと思っていた…


 だが…


 時間の流れと言うものは残酷だった…

 突然あの子はいなくなってしまった…


 丁度、クリスマス・イブの日にオレは前に

 おいしそうにイチゴのショートケーキを食べていたのを思い出し、

 帰りにその時に食べたのと同じ店のチョコとイチゴのショートケーキを

 二個づつ買って一緒に食べようと購入し、

 喜ぶ姿を想像しながら家路へと急いだ。


 家に着くとオレはどんな顔をするのかと胸が躍っていた。


 だがしかし…

 あの子は居なかった…

 

 どこかに買い物にでも出たのかと思い、オレは待った…


 しかし、何時間しても帰ってこない…


 オレは待った、次の日も、そのまた次の日も、また次の…


 ずっと…待っていた…


 家の中で唯一人、何もせずに…

 会社も行かずに…


 ずっと、待ち続けた…


 時折電話が鳴るが出る気力もない。

 たぶん、会社からなんじゃなかろうかと思えるが、放っておいた。

 ドアはあの子がいつでも帰ってきてもいいように鍵は掛けていない。


 そうして、ドアの受け取り口にずっと

 溜まっていた広告やら郵便物に異変を感じたアパートの隣人が 

 オレを倒れているのをみつけたらしく病院へ連絡し救急車で運ばれたらしい。

 

 あの時から、何日経ったのか分からないがオレは入院していた…



―――


 そこで、オレの記憶が終わる。

 毎回、それの繰り返しだ。

 そして、それを見るたびにオレは止めどなく涙が溢れてくる。


 そんな時思うのが、なんでこんなものを見せる!


 悲しくて、切なくて、愛おしくて、

 心の奥が締め付けられる感覚がたまらない!


 こんな気持ちになるなら、初めから見せるな!

 と思って仕方ない!

 それよりなにより、なんなんだこの記憶は!

 記憶はあるが実感がない、訳がわからない。

 だが、この記憶にいるオレは生きている! 

 そう思えた。


 あの記憶の三年に比べたら、

 今まで生きているかどうかも定かでもないオレの人生はクソだ!


 ただ、生きる為に生きている事に比べれば、

 あの三年間の記憶のなんと素晴らしい事か…


 だけど、そんな物がないのも分かっている、分かってはいるんだ…


 分かって…いるんだ…

 

 ………


 オレには退院したあの日から、

 毎年決まってクリスマスの日に訪れる場所がある。

 何故、そこに行くのかは分からない。

 が、その場所に行く度に決まってあの記憶が蘇る。

 そして、毎回見終わった後には必ず泣いている。

 オレとすれ違う通行人は何事かと思うだろうが知ったことか。


 こんなやるせない気持ちが悲しくない訳が無い…


 そして、四十五才のオレも例に漏れず泣きながら、

 その場所に向かっていた。


 大概は何もなく終わるが今回は違っていた。


 異変があった。


 その異変の中心に視線を合わせてみると、

 色んな物をなぎ倒し、車のドアを壁に擦ったりしながら車が暴走していた。

 幸い往来の人も少なく車も少ない。

 が、そんな中運の悪いバットガールが暴走車のどストライクゾーンに立ち尽くしていた


 危ない!!


 そう思った瞬間勝手に体が動いた!

 何故、動いたのかは分からないが助けなければいけないとオレの心の中の何かが言っていた!!


 間に合うのか?

 いや、間に合わせる!!


 もう少し、もう少し、もうちょいぃぃぃ!


 ここまで必死になったのは今までどんな時もなかったかも知れない。

 そうこうしてる間にもドンドン暴走車が迫る!


 とどけ!とどけ!とどけぇぇぇ!


 ――届いた!


 その瞬間、オレがみたものは見た覚えのある懐中時計をイジっていた、

 あの赤い髪のエルフの子だった…


 そして、助けるためにその子を突き飛ばそうとした時、

 バチッと音がして弾かれた気がした。

 だが、その子の危険は去ったと思う。

 その代わりにオレの危険が確定された…


 「!!」


 弾かれた時に思い出した。

 あの子とはここで出会ったのだと。

 そして、思い出した。


 その時も、古臭い懐中時計で何かしていたことを…

 

 そして、その後は普通にオタオタしていた、

 あの子が何故か気になり声を掛けただけだ。


 なのに、今回は…


 などと考えている永遠とも刹那とも言えない中、

 時間が動き出しオレは鉄の塊に挟まれていた…


 壁と車に挟まったオレにまだ意識はあった。


 あの子は助かったのかな…


 助かったのならいいな…


 未だ、白煙が上がる中徐々に失くなっていく意識の中、そんな事を思っていた。





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