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ム限焉転  作者:
第一章 転生
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第十五話 魔獣対策

「蒼き眠りを解かれた氷の貴婦人 「スネグルカ」 絶対の零の地より来りて、其の凍氷の(かいな)に抱かれ永遠に眠れ 「ゲフリーレン(氷結の)フェルト(野原)


 クロミアが詠唱すると、広範囲に渡り氷の野原が広がり、

 周囲は瞬く間に凍りついた。

 

 その中には、猪に似た魔物「ワイルド・ボア」が三体。

 

 足元が氷付けになり、動けなくなっていた。


「アレン!」


「おうよ! 終翼閃(ついよくせん)


 クロミアがアレンに止めを刺すように呼びかけ、アレンもそれに応じた。


 そのコンビネーションは息が合っており、冒険者時代と変わらないものだった。


 アレンは閃光の速さで三体をあっという間に切り倒した。


「ふぅ…久しぶりにしては、まぁまぁね」


「…おま…相変わらずだな…見事な倒しっぷりだっただろうが! そこは、さすがアレン様って言えよ」


「何言ってるんですか。一頭倒し損なってますよ…まったく」


「為すべき道を差し示し 立ち塞がる全てを突き抜け穿て シュタイン()・ランツェ(の槍)


 ―――ドスススッ!!


 アレンが倒し損なった一頭をクロミアが石の槍を三本程だし、止めを刺した。


「腕が落ちましたね。アレン」


「…まぁ、久しぶりだったしな。次は感を取り戻しといてやるよ!」


 部下たちはそのやり取りを見て、目を丸くしていた。


「…な、なぁ、ロベルト」


「…分かってるから、言うな。リカルド」


「いやぁ~さすが隊長ですね」


「ザナー…オマエはいつも軽いな…」


「いやいや、もう笑うしかないじゃないですか」


「たしかに、そうだけど…」


「オレたちじゃ、一匹でもやれるかどうかだぜ」


「それを一瞬で三匹とか…」


「ありえないだろ~」×2


「いや、ははは」


 部下たちは、それはそれは恐縮したのだった。


「…で、クロミア。どうだ?」


「…ダメね。このあたりには、もう何もいなさそうね」


「そうか…貴族様が来る前になんとかしたいんだけどなぁ…」


「何か、あるの?」


「いや…まぁ…あんまり、デグローって貴族のいい噂を聞かなくてな…上がそんなんじゃ、下も使いもんにならないんじゃないかと不安でな」


 アレンの脳裏に嫌な予感めいたものを感じ、不安になっていた。


「なるほどね。じゃあ、とっと見つけたいところね」


「そうなんだが…こう見つからないと、ここまで大事になってるんだ、実は見間違いでした~なんてことになったら、洒落にならないぞ…」


 そんな、アレンの不安を他所にクロミアは何かを見つけた。


「…アレン、そんなことにはならないと思うわよ」

「なんで、そんなことが…ッ!」


 二人共驚き見つけたのは、

 先ほどの「ワイルド・ボア」と同じ死体が五体程転がっていた。


 それは、腹を咲かれたり、足がもげたりした食い残しだった。


「どうやら、このあたりは魔素が少ないから、魔物から取り入れてるようね」


「だな…」


 魔獣は魔素を体に取り込み肥大化していく生物だ。

 そのため、普通は魔素が多い場所に住み着く。

 だが、希に魔素の薄いところに存在する魔獣もいる。

 そんな魔獣は魔素を求めて、魔物から取り入れようとする習性があった。

 それが、今の現状だった。


「どのくらい、食い散らかせれてるかわからないけど、少なくとも見つけた時よりは厄介になってそうね」


「…これで、アルが戦って逃げたということが本当だったってことになるな」


「ちょ、ちょっと…アレン…」


「え! 隊長の息子さん、魔獣と戦ったんですか?」


「えええ…信じられないぞ」


「いや~ははは。ほんとに」


 アレンはしまったぁ~という顔をしているが、時既におすし…


「いや…その…はは…内緒な…」


 とは言っているが、心の中で「あ、もうコレ、ダメだ」と確信していた。


「…すまん、アル! 父さんが悪かった…許してくれぇぇぇ!」


「…ハァァァ。わたしはし~らない…」


 ―――


 今日もオレはセネカとアンネ叔母さんのところでお手伝いだ。


 昨日の友達宣言のおかげか、

 今日は多少はセネカを見る目が和らいでいる気がする。


 そう感じつつ、オレたちは朝から今日のために、

 前日に切り分けた野菜や肉の調理を始めた。


 昼の炊き出しが無事に終わり、午後には明日のための食材の確保や、

 野菜や肉の切り分け、保管作業などを行う。


 朝の忙しい作業が終わり、昼の休憩を終えて戻ってくると、

 何かが違っていた。周囲の人々の視線がこちらに集中しているのを感じたのだ。


 何だろう…?


 昨日、友達宣言をしてから、いつもセネカと一緒にいるから、

 その余波なのかと思っていたんだが…


 どうにも少し様子が変だ。


「なぁ、セネカ。なんか、こっち見てる人多くないか?」


「ア…アルくんが…昨日あ…あんなこと、いったからじゃないか…な?」


 さすがに昨日の今日でセネカもまだまだ、ぎこちない。


「そうだけど…なんか少し違う気がするなぁ」


 …うう~ん


「…い、あいつだろ?」


「そうそう」


 ―――ざわざわ…


「…魔獣と戦ったのって」


 んんっ!

 なんか、不穏なワードが…


「おいっ。オマエ」

「………」


 昨日のヘテロクロミアの少年がオレを指差してきた。


 え~と、オレのことですかね?


「そこの太いの!」


 うっ…

 分かってはいるが、そのいわれ様はつらい…


「オ…レのことですかね?」


「そうだ! オマエ、魔獣と戦ったからって調子に乗るなよ!」


「ッ!!」

 

 な、なぜ、そのことを…

 …知っているのは、アレンと母とクロミアさんとセネカ…

 その誰かが、しゃべったのか?


 オレはセネカを見た。


「…?」


 すると、「?」みたいな顔でオレに笑顔で手のひらを振ってきた。


 まぁ…ちがうよな。

 じゃあ、だれが…


「聴いてるのか?」


「はいはい、聞いてますよ」


「剣も魔法も使えるんだってな。オマエ」


「一応、使えますが…えっと…どちらさまでしょうか?」


「オレはセラってんだ。覚えておけ! どっちも使えるからって、いい気になるなよ。ふんっ!」


 それだけ言うとセラって少年はどこかへと去ったのだった。


 …なんだったんだ?


「………」


 ま、いいや。


「こらっ! アル坊! 何さぼってんだい! ちょっとはセネカちゃんを見習いな! こんなんじゃ、先が思いやられるよ…それ終わったら、これをあっちにもっててくれ! たくっ、もちっとシャンとしてもらはないと困るよ!」


「あ、はい…」


 ただ単に因縁つけられてただけなのに、何故かさぼってることになってて、草。

 

 そして、セネカを引き合いに出され咎められて、草越えて林。


 で、使えない奴判定されてしまって、林越えて森。


 なんか、笑えてきた…


「ア…アルくん…だいじょうぶ? て…手伝おう…か?」


「ん、大丈夫、大丈夫。ただ、ちょ~っと、腑に落ちなかっただけだから…」


 オレは何がどうなってるのか、わからないまま、

 もどかしい気持ちで手伝いに戻るのだった。


 ―――


 天幕が立ち並ぶ、広場の中央。

 

 見回りの隊員、剣や防具などの点検、

 襲撃時の対処時の訓練など、様々な人でごった返す。


 そんな中、一人の少年とその後ろに続き歩く三人の少年が、

 ここぞとばかりに剣の訓練に参加していた。


「なぁ、セラ。アイツどうだったんだ?」


「あんなヤツ、大したことないさ。ふん」


「セラは強そうなヤツを見るたびに、強がるよな」


「そ、そんなことはない! ふざけたこというな、ファビアン!」


 心を見透かされたのか、セラはさらに強がり、反論した。


「まぁ、なんだっていいさ。魔獣をたおしてくれるなら、誰でもいいよ。早くウチに帰ってゆっくりしたい…」


 ミゲルはボソッとつぶやいた。


「実は…オレもだよ。ロッシ」


「情けないぞ、ロッシにミゲル。それより、オレと一戦やろうぜ」


「…勘弁してくれよ…オマエに勝てるわけないだろう、はぁ」


「練習なんだから、勝てる勝てないじゃないだろ。いいから、誰かやろうぜ」


 セラのその提案に誰も手を上げなかったことに、苛立ちを感じた。


「んだよ…皆。ノリわりぃな」


「すまないけど、オマエ強すぎて相手にならないんだよ、オレたちじゃあ…」


 ミゲルは申し訳なさそうに言った。


「じゃあ、手加減するからさ、やろうぜ」


「…それは、それでなんか腹立つからいやだ」


「ちぇ…つっまんねぇ」


 そう言うと、セラは一人で練習を始める。


 練習を始めると、アレンがセラの後ろから声をかけてきた。


「お、頑張ってるな。どれ、一つ稽古をつけてやろうか?」


 アレンのその言葉にセラの目は輝きだしたのだった。


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