表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ム限焉転  作者:
第一章 転生
10/110

第十話 紅い髪のエルフ

 あれから一年たって、オレは七才になった。


 あのクロミアさんの魔法本に書いてあった一文は調べようもないため、

 頭の片隅に置いてある。

 

 ジャスティ・ラフォンテーヌ

 この名前は覚えておこう…


「深遠の水底で蒼く眠る水よ 命の火を灯し目覚めて放てヴァッサ()クーゲル(の球)


 ―――バシュン


「ど、どうですか!?」


「二〇点!」


「き、きびしい…」


「ルーザより遥かに伸びしろありそうなのに…何故か、伸びないわね」


「ご、ごめんなさい…」


「いえ、攻めてるわけではないのですよ。ただ、才能がありそうなのに不思議なんですよね」


「オレ、才能あるんですか?」


「なければ、もう中断してますよ。前に両手を握りあったじゃないですか?」

「あ~ありましたね」


「その時に、わたしがアルさんの体に魔力を流して流れ方を見ていたんですよ。すると、かなりスムーズに流れていたので、きっとコツさえ掴めば大丈夫だと感じたんですけどね…ただ…」


 クロミアさんは不可解な顔をして頭を傾げた。


「ただ…なんです?」


「どういえばいいんでしょうか?  大きな川の本流があるとしましょう。そこに岩があって、その岩が流れを二つに分けています。大きな流れと小さな流れに分かれていて、私が流している魔力はその小さな流れにしか届いていない感じです。だから、アルさんも同じように、小さな流れにしか魔力を流せていないのかもしれません。それが伸び悩みの原因かもしれませんね。私も人に教えるのはルーザ以外には経験がなくて、確信はないんです。なので、感覚に頼っている部分が多くて…こんなことしか申し上げられなくて、すみません。」


 クロミアさんが申し訳なさそうに話す。


「いえいえ、そんな…クロミアさんが謝ることじゃないですよ。説明してくれてありがとうございます。」


 本当に申し訳なさそうな顔をしているクロミアさんに、

 俺は感謝を述べた。

 自分のことなのに全く気づかない俺に比べれば、

 クロミアさんはずっと頼りになる。

 

「ちなみに具体的には、どうやればいいのか分かりませんか?」


「…申し訳ないですが、それに関してはわたしではお力になれそうにありません」


 クロミアさんが申し訳なさそうに答える。


「いえいえ、とんでもない。理由がわかっただけでも十分ですよ。気になさらないでください。はは」


 しまった…

 余計な事を聞いて気を使わせてしまった。

 これ以上、困らせるのは本意じゃない。

 だから、これについては自分でどうやればいいか探っていくしかないな。


「ありがとうございます、クロミアさん。助かりました」


 俺は感謝の気持ちを込めてもう一度お礼を言った。

 クロミアさんが頷いてくれたのを見て、少しほっとした。


 アルの練習を見ていたクロミアだったが、

 昼食の準備のため家の中へと入った。


 ―――


 その家の中では――


「ハァァァ…」


「どうしたの、クロミア? そんな深い溜息をついて」


「ルーザ…私、先生に向いてないのかも…ハァ」


「そんなことないと思うけど、何があったの?」


「いやね、さっき…」


 クロミアは先ほどのアルとのやり取りをルーザに聞かせた。


「…だから、解決策も助言も与えてやれなかったのよ…こんなんじゃ、先生失格ね」


「そんなことないと思うわ。だって、問題は分かったじゃない?」


「分かるだけじゃ、ダメなのよ。そこから導いてあげないと…」


「それでも問題は分かったじゃない。アル一人じゃ問題すら分からなかったんじゃない? クロミアがいるからこそ、一歩前進できたのよ」


 クロミアは少し考え込んだ。


「そうかもしれないけど…でも、もっと具体的なアドバイスができたら良かったのに」


「そもそも、クロミアは先生じゃないんだから、そこまで悩まなくてもいいと思うけれど」


「そう言われても、どうしても自分が役立てないと感じると、もどかしいというか…もやもやするのよ。もしかしたら、どこかの学校で魔法について、一から学び直すべきかと考えてしまうわ」


 ルーザは優しく微笑んで肩に手を置いた。


「誰だって完璧なんかじゃない。重要なのは、あなたがアルのために真剣に考えているってこと。それが一番大切なことよ。わたしの時もそうだったじゃない?」


 クロミアはルーザの言葉に少しだけ安堵し、微笑んだ。


「ありがとう、ルーザ。もう少し頑張ってみるわ」


 ―――


 昼になり、今日は珍しくアレンがいる。

 そこで、いっちょ揉んでやることにした!


「ほらほら、足に力を入れて、しっかり踏み込むんだ」


―――カンッ カンッ カッ


「今度は腰の動きが弱いぞ。体全体を使って踏み込むんだ!」


「こ、こうですか?」


「そうじゃなくて、もっとこうだ!」


―――ガッ!


「いったぁ…」


「よし、これくらいにしておくか。どうだアル、少しはコツが掴めたか?」


 アルは痛みをこらえながらも、

 少しの達成感を浮かべてうなずいた。


「なんとか…わかってきた気がします。」


「いい感じだ。次回はもっと意識してやってみろ」


 と、優しく声をかける。


 全然ダメだ。

 まったく、アレンに及ばない…


 ま、そらまだ一年しかやってないから仕方ないっちゃ仕方ないけど…

 

 アレン程じゃなくてもいいから、

 普通に戦えるレベルってどのくらいなんだろうな?


 いや、そもそも強さに基準なんてあるのだろうか?

 鍛錬すればするほど強くなるっていうなら、

 誰でも鍛錬するだろうがそういう訳でもない。


 それに相手がいないと、相対的に自分がどの程度かすらわからない。

 そして、相手に負けたからといって、弱いわけでもない。

 そうなると、基準なんてものはない気がするな…


 …ま、とにかく、頑張るしかないってことか。


「そういえば、アレンさ…もとい、父さんはなぜ冒険者になったんですか?」


「なんだ、唐突だな、アル。」


 一年経っても、アレンさんと呼びそうになる自分がいる。

 これは直さなければならないな。


「そうだな。父さんが冒険者になったのは、昔、オレの村に来ていたイダルゴって剣士に憧れていたからだ。彼の剣技を見て、自分もそうなりたいと思ったからだ」


「そのイダルゴさんって、強かったのですか?」


「ああ。彼は本当に強かった。ある時、村が10匹ほどの熊のような魔物に襲われたことがあってな。イダルゴさんはそのほとんどを一人で倒してしまったんだ。彼の戦い方は、まさに見事だった」


「すごいですね…」


「ああ、ほんとに凄かった。オレも彼のような剣士になろうと思って、剣士を目指した。冒険者になったのは、その延長線上で、もっと多くの経験を積みたかったからだ」


 「アルはどうだ?  何かになりたいとかあるのか?  オレとしては立派な剣士を目指して欲しいってのが本音だが、アルがしたいことがあるなら無理にとは言わないぞ。オレも親の引き止めを振り切って、剣士を目指したからな。はっはっはっ」


「と、とくにはないので、剣士を目指してみます。あはは…」


「お、そうか! なら、頑張らないとな! アル!」


「は、はい…がんばります…」


 と、その場の勢いでつい言ってみたものの…


 皆、それぞれ目的や目標があるんだな。

 …そりゃ、当然か。生きていく上での原動力だもんな。


 …オレは、この世界で何がしたいんだろう?

 なにを目指したらいいのだろうか?


 たしかに、剣も魔法もだんだんと楽しくなってきた。

 ここ最近、特にそう思える。


 正直、始めは辛いだけだと思えた剣術だったけど、

 何ヶ月かしてある程度、

 思うように動けるようになってからは世界が変わった。


 アレンが言っていたことも分かってきた。

 そうなってくると、楽しいとさえ思えだした。


 最初の頃、毎日の訓練は身体的にも精神的にも厳しかった。

 剣を握る手は豆だらけで、腕は重く、足はガクガクしていた。


 それでも、少しずつ剣が自分の意志に応じて動くようになると、

 まるで新しい世界が開けたような感覚になった。


 魔法もそうだ。

 魔法は元々、習いたくて習っていた。


 今もちょっと伸び悩んでいる。

 だけど、それは別として、

 とにかく初めて呪文を成功させたときの喜びは今も忘れられない。


 放てるようになってからは、さらに楽しい。


 だけど、それで何かをしたいかという、

 はっきりとした目標がない。


 剣術や魔法を使って何を成し遂げたいのか、

 自分でも分からない。


 ………


 …今は悩んでも答えが出そうもない。


 このまま、やっていればいつか答えが出るのかもしれない。

 なら、今まで通り、手を抜かずにやっていくしかない!


 それじゃあ、まず素振りからはじめるか。


 ―――


「ふぅ…」


 いい汗かけたな。

 

 オレは井戸から汲んだ水で汗を流してた。

 その後、近場の座れそうな場所で腰を落とし休憩を始める。

 

 …この疲れも、なんだかんだで心地良く感じられるようになった。


 オレは、体を動かすのが割と好きなのかもしれないな。

 


 ―――タッタッタッ ズベシッ!


 そんな事を考えながら休憩をしていると、

 ほっかぶりを被った子が家の門前の道で派手にすっ転んだ。



「ケホッケホッ…」


 おいおい。

 これまた、派手に転んだなぁ~

 流石に何もしないってものもなぁ~


「おい、大丈夫か?」


 そういいながら、オレは転んだ子に走って近づき、手を差し伸べた。


 ―――パシッ!


 オレが差し伸べた手を転んだ子は跳ね除けた。


 そして、ほっかぶりの中からオレに向けられた瞳は、

 怒りとも憎しみとも取れそうな眼の中に、

 どこか怯えと寂しさも含んだ瞳でオレを睨んできた。 


 その後、自分自身の力で立ち上がり、

 服の汚れを手で払い、そのまま走り去ったのだった。


「な、なんだ…?」

「どうしたの? 何かあった?」


 手伝いが終わったのか、いつの間にかクロミアさんがオレの隣に来ていた。


「い、いえ…さっき…いや、なんでもないです」


「そう? それじゃあ、また魔法の練習でもする?」


「あ、おねがいします」


 そう返事しながらでも、あの子の態度が気になりオレは払いのけられた手を眺めた。

 

 そして、あの子の寂しさとも怯えとも取れる何かを含んだ憎しみにも似た瞳を忘れれずにいた…


 ―――次の日

 

 オレは母ルーザの許可を得て、

 少し遠出して川原の土手を歩いていた。


 今日は休息日にしているため、一切の運動をしていない。

 その代わりに、今は田舎探索紀行中だ。

 

 ゆっくりと周りの景色を眺めながら、

 ちい散歩をしている。


 川原には、ゆったりと流れる清らかな川がある。

 その川沿いには背の高い草や小さな野花が揺れていいた。

 川の水は透明で、石や砂がはっきりと見えるほど澄んでいる。

 小魚が群れを成して泳ぎ、川辺には柳の木が垂れ下がり、

 その枝が川面に優しく触れるたびに、小さな波紋が広がる。


 川原では村人たちが水を汲んだいる。

 子供たちは川辺で遊び、小さな舟を作って流れに乗せたり、

 カエルや小魚を捕まえたりして楽しんでいた。


 川の向こうには広大な草原が広がり

 、草原の奥には、時折、森が見え隠れし、

 そこからは鳥のさえずりや風に揺れる木々の音が聞こえていた。


 …歩いてみて良くわかったが、ほんと、ど田舎だわ、ここ。


 そんな事を思いながら、

 オレは道端に咲いている小さな花を一つを手に取り、

 自然に囲まれ静寂に包まれた田舎道をゆっくりと歩いていた。


 歩いていると、遠くから子供が何か喋っている声が耳に入ってきた。

 オレは気になり、その声の方へ向かって歩を進める。


「…メだよ。コラッ。もう…あはは」


 次第に声がはっきりと聞こえ始め、

 子供の姿も視界に入ってきた。

 それは、昨日のほっかぶりを被った子が

 猫と思しき小動物と楽しそうな声で戯れていた。


 その楽しそうに笑いながら戯れる姿に昨日、

 オレに鋭い視線を向けた子と同じだとは思えない程だった。


 感覚のズレと猫らしき動物と戯れている姿の微笑ましさに、

 オレはその場に佇んだ。

 

 しばらく、その様子を眺めていると

 猫がその子に向かって抱きついた時にほっかぶりが取れる。


 そして、ほっかぶりから顔を覗かせたその子の容姿に、

 オレは息を飲んだ


 その子の髪は紅く、毛先の方が炎が燃え尽きるような

 白いグラデーションがかかっていた。

 

 その容姿はかなり整っており、

 短く切り揃えられた髪がさらに顔立ちを際立たせている。


 そして、その瞳はどこまでも蒼く深い。

 これもグラン・ブルーと呼んでもいいのだろうか? 

 そう思えるほど蒼く澄んでいた。


 そして、長い耳が少し後ろに反り、

 鋭敏な感覚を示している。


 その子の姿は、一瞬にして周囲の風景から

 浮き立つような存在感を放っていた…


 時が止まったかと思えるくらいの感覚の中、

 その子はオレに気づき、一瞬オレを睨むとほっかぶりを深くかぶり、

 走り去ったのだった…


 おれは、未だ、放心していた。


 そして、ゆっくりと流れる時間の中、エルフという存在を始めて見た感動と、

 オレの前の世界の記憶に出てくる、あのエルフの娘の面影が重なり、

 不思議な感覚に陥ったのだった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ