六百五十七話目「金と暇を持て余したヒトビト」
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船内の二番目に広い場所。
……因みに一番目は、現在進行系で、元殺し屋達とモンスターの殺し合いがおこなわれてる場所である。
そこの広間には、性別年齢問わず――とは言え流石に、赤ん坊や子供はいない。全員成人以上――、様々な男女が居て、全員仮面を付けていた。
彼らの内ほとんどが富裕層で、残りは護衛と給仕。富裕層にはまあまあ著名な人も紛れていた。
とはいえ、こんな催しに参加してるとバレると不味い。
だからこその仮面だった。この仮面には認識阻害が付いている。
彼らは――暇と金を持て余し、デスゲームを見て楽しむ悪趣味な下衆だった。
この客船の持ち主が発起人で、クチコミでドンドン観戦者が増えて行った。
最初は高額バイトと言う触れ込みで、呼び寄せた若者達を殺し合いさせていたのだが、それではつまらなくなったので、モンスターを調達したり、腕利きを呼び寄せるようになっていた。
そんな時に、接触して来たのはとある殺し屋組織に所属する人物。
『丁度良い人達がいるのですが』
それはγと名乗る者。
聞けば、生き残った脱走者達を殺し合わせるので、丁度良い場所を探しているとの事。
これは渡りに船と喜んで、場所を提供した。
そして現在。
広間にある巨大映像には、十人の戦闘者と十体のモンスターが戦っている光景が映っていた。
十人の元殺し屋達は、己のチカラを振るっていた。
身体強化して戦う者がいれば、属性を操る者がいた。
十体の処刑獣は、本能のまま暴れていた。
高いステータスを活かし、固有能力を振るう。
中々に見ごたえはある。
「いやあ、無理して来たかいがありました」
「またやってくださいね」
「こういうのが、毎回だったら幾らでも金を出しますよ」
客達はそんな要望を伝える。
それに客船の持ち主は曖昧に笑う。
(流石にこの規模はもう無理だよ……)
そう思った。
若干やり過ぎたかも、と後悔していた。
そんな中で、ふと考える。
それはこの企画の考案者の一人。
(そう言えば、彼は誰か連れて来ると言ってましたね……)
実はこの場にγはいない。
曰く、人混みが苦手なので、別の場所で見させてもらうと言っていた。
そして、上役の人を連れて来ると言っていた。
「ここで見れば良かったのに……」
ボソリと呟いた。
それは幸い約一名以外には聞かれなかった。




