六百十九話目「求めるモノは真逆」
ザンカが先程と同じように。間合いを潰しにかかる。
それにミナミダは拳を突き出し対抗。腕の距離では届かないはずなのだが……。
(衝撃波でも飛ばすっすかね)
答えは違った。
腕が伸びた。
手首、肘、肩の関節を外して、腕のリーチを伸ばしたのだ。
「!」
想定外だが、何かしらやってくる事はわかっていた。
なので、その拳を避ける。
そこへもう片方の腕が伸びて飛んで来る。
「――ル〇ィっすか!?」
「小〇蝋斎だ」
「バ〇リスク読んでるっすか!」
言葉の応酬を繰り広げながら、技も応酬する二人。
伸縮自在に襲い掛かる手足を、ザンカは摩擦操作と自身の身体能力で防いでいく。
だが……
(近づけねーっす……)
ミナミダの伸びる手足。その速さと密度の連撃せいで、ザンカは自身の距離に持ち込めない。
(こっちの遠距離技は溜めが必要っすのに……)
ザンカは完全接近戦主体である。中距離・遠距離技もあるにはあるが、今は出せる状況ではない。
ダメージはないが、一方的に攻撃される状況。
(……このままじゃ不味いっすね……)
このままなのは性に合わない。
それに相手は一流の拳士。
摩擦防御に何かしら対策を打って来る可能性がある。
ならば……
「ゴリ押すっす」
ザンカはクロスを発動。
眼の白黒が反転し、十字の紋章が現れる。色は青紫。
自身のクロス――《ヴァイオレットクロス〔ステロイド〕》でパワーを引き上げ、片手で伸びる腕を弾き、そのまま地面を踏み砕きながら、間合いを詰める。
「!」
「っす!」
そして全力の一撃を繰り出す。
その一撃に――ナミダは大きく飛び退いた。
「……」
「……」
「「……」」
双方再び沈黙する。
今までの攻防について思考する。
(今の攻撃を飛び退いた……という事は許容限界があるっすね)
(クロスのチカラは人工物のパワー強化。ドーピング系か……。だったら長時間は持たないな)
奇しくも両者同じ事を考えている。
(つまり大技で一気に叩き潰せばいいっす)
(長期戦に持ち込めば、こちらが有利)
(アレなら運動エネルギー吸収だろうが、なんだろうが無視できるっす)
(十分溜まったから、そろそろ使うか……)
それは勝利への道筋。
なのだが、考える事は真逆。
ザンカは超短期決戦、ミナミダは長時間戦闘だった。




