六百三話目「コノ実習の安全対策はバッチリのはずだった」
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プレイヤー養成高校の実習は毎回違う場所が選ばれる。
昨年度の実習は、傭兵団の襲撃を受け、大惨事一歩手前となってしまった。
死者や重傷者が出なかったのは、本当に奇跡としか言いようがない。
そういう訳で前回の反省を踏まえ、策を取った。
一つ目が転移。
転移事故を防ぐためとは言え、全域に転移封鎖をするのはやり過ぎという事で、一部だけにして、更に転移が用意なポイントも作った。
これで何かあっても、生徒をすぐに逃がす事が出来る。
二つ目が引率。
今回はキョウコとイオリのツートップは別件で引率出来ない。
その代わり、腕利きを何人も雇った。特に結構高名なプレイヤーであるクロガネ=ザンカ、卒業してすぐさま頭角を出したハナヤマ=ベニバナ、アシヤ=キョウコが推薦したシスター・マリア。
この三人がトップレベル。
三つ目が事前準備。
場所は念入りに見て周り、危険そうなモンスターは間引き、罠は潰した。
これだけやれば安全だろう。
そう思っていた。
なのだが……
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実習当日の早朝。
誰も通らないような路地裏で、二人の人間が何かしらの取引をしていた。
「こ、これで借金は帳消しなんだよな……」
彼が渡したのはUSBメモリ。
それを受け取った男は、それには答えず端末にメモリを刺し、中身を見て行く。
暫くしてから口を開く。
「これだけわかれば十分だ」
「じゃ、じゃあ……」
顔が明るくなる男に、端末の男はにっこりと笑う。
「ああ。ほら」
何かを投げる。
それは……
「小銭?」
昔の小銭だった。
彼は知らなかったが、知っている人ならこう言った。
六文銭と。
「あの世に行った時に使え」
男は流れるようにナイフを出して、呆けた表情の男を始末した。
「さ、始めるか」
そうして作業を始める。
………………
…………
……
暫くして……、そこには先程死んだ男が立っていた。
足元には、服と皮を失い、筋組織むき出しの死体があった。
「さて、行きますか」
そう言ってから、燃やした紙を死体に落とす。
その火は死体に燃え移り、跡形もなく死体を燃やし、残ったのは僅かな燃えカスのみ。
それを確認すると、男はその場を何食わぬ顔で立ち去った。
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幾ら対策をしようとも、情報が漏れていたり、内部に協力者がいる場合は意味がない。
こういう時は想定外を起こさねばならない。
オウカの友人であるメイドならこう言っただろう。




