五十七之巻 見たる正体
その時、声が聞こえた。
「離れなさい」
それと同時に、先程の太刀が飛んできた。しかも炎と雷を纏っている。
「む」
一太刀で斬り捨て、粉々にする。だが、その一瞬の隙に攻撃を仕掛けた主は、目的を果たす。カナタを回収した。
「大丈夫?」
それはマユだった。斬り傷は痛々しいが特に動きに支障はなさそうだった。
「それはこちらのセリフよ。マユさん! 大丈夫なの!?」
「ええ」
生憎とその程度では死ねないと心の中で付け足すマユ。
そもそもマユの正体は<冥刀>。しかもかなり特殊なので、細切れ位ならどうにでもなる。
「チッ。邪魔が入ったな」
「外道の思い通りに行くわけないでしょう?」
そう言いながらマユは、カナタを庇うように、いつの間にか回収していたオウカの段平を構える。
「こんな事なら、木っ端微塵にしておくべきだった」
「出来ない事をほざくな。弱く見える。下衆」
「酷い言い草だな」
マユの毒舌に苦笑するコナタ。
「そもそも僕は久遠家の当主だぞ? 殺していいと思っt」
「……違うでしょう?」
「え」
マユの言葉にカナタの顔が驚きに染まる。
「あなたは誰?」
その言葉にコナタ、否、コナタの外側を被った誰かが笑い始めた。
「ハハハハハハ!」
そしてマユの方を見て訊ねる。
「なぜわかった?」
「わたしの眼は誤魔化せない。魂が乗っ取られている」
叢雅一門の刀工全員が持つ<スキル>がある。それが《魂魄操作》である。魂を視認し、特に自他の魂魄を切り分け繋げる。それが出来なければ<冥刀>は作れない。
「刀工を甘く見るな」
「「どこが!?」」
カタナとコナタのツッコミがハモった。
「……オホン。それで誰なの?」
「僕……いや、もう隠す必要はないか」
その言葉と同時、額に角が生え、耳が尖り、犬歯が鋭くなる。
「我は鬼童丸」
「え!?」
カナタの顔が驚きに染まる。知っているのかという顔をするマユにカナタは答える。
「かつて久遠家一同で倒して、<妖刀>に封印した鬼よ!」
「理解した。つまり目的は復讐?」
「そうだ。そもそも我を封印する事自体、おこがましい」
その言葉にマユは眼を細める。
「……本当に?」
「……」
その眼に見つめられた鬼童丸は笑い始める。そして、理由を話し始める。
「理由などない。そもそも鬼とはそういう生き物だ。殺したいから殺し、犯したいから犯す。それだけよ」
今回は偶然外に出れた。ならば塵殺し、強姦するだけ。
「そう」
「聞きたい事は聞けたか?」
「ええ」
「そうか。まずは貴様からだ」
達磨にすれば大人しくなるだろう。
圧を出して迫る鬼童丸だが、マユは冷静に答える。
「わたしが戦ってあげてもいいけど、あなたにはふさわしい相手がいる」
「……何?」
「後ろにいる」
その言葉に悪寒を感じた鬼童丸。その時聞こえたのは歌。
「この世に生きる喜び~」
後ろを振り向くとそこには、
「そして、悲しみの事を」
サクヅキ=オウカが立っていた。
【コソコソ話】
(・▽・)<サクは偶に歌を歌います。曲によって気分がわかります。
(・▽・)<「グリングリン」を歌った時は、相手をぶち殺すという意思表示です。




