五十四之巻 戦創せし刀工
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マユが相手取っていたのも二体の鬼。だが武器が違っていた。無言で攻撃を仕掛けて来る。
「……」
「……」
舞い踊るように攻撃を回避。実の所、叢雅一門自衛の手段を持っており、ほとんどが何かしらの武芸を収めている。ガンスミスが本業であった、弾指叢雅は二丁拳銃で跳弾すら使いこなすのが良い例である。
だが、今回の相手が悪かった。
「どうしよう」
一方は弓鬼。右手が弓になり、左指が矢になっており、五射ずつ射て来る。しかも連続で。
もう一方は銃鬼。右手が機関銃になっており、連射して来る。
しかも両方共、弾切れの様子がない。
「近づけない」
実の所、マユは武芸百般全体的にこなせる。というか使い手であるオウカの技能を使える。だが、現状彼女は飛び道具を持っていない。持っているのは……
「これとこれだけ」
刺身包丁とケーキナイフ。
「今度ちゃんと武器用意しょう」
この二つは、オウカの武器を作った彼女の作品を、マユが更に強化したモノ。生半可な業物以上の切れ味と強度を誇る。
「使うしかない?」
そして、マユにはこの二つを使った自衛の手段がある。だが、制限があるうえ、予想が正しければここで普通に使うのは悪手。対策されても防げないモノを使わなければならない。
だが、このまま時間稼ぎに徹すれば自分の相手を倒した二人が助けてくれるだろう。しかし、あの二人に負担をかけたくはない。
「どうしよう」
考えるマユ。その時だった。
「あ」
彼女が見つけたのは、手に握り込めるサイズの石。
「使おう」
蹴りで石を蹴り上げ、右手で掴む。そして、左指を当てる。
「〈錬師克蝕〉――【ダニルウ】」
手札を切るマユ。その言葉と同時、石が光る。その石を大きく振りかぶり、
「わたしの一撃、受け止めて」
投げた。しかも上空目がけ。
「……」
「?」
その動作に呆れ、首を捻る鬼達だったが、それはすぐさま驚愕に変わった。
「!」
「!?」
バスケットボール大の隕石が落ちて来た。しかも大量に。
「!」
「!!」
どうにか撃ち落とそうとする鬼達。だがそちらに意識を割き過ぎた。
「隙あり」
マユは地面を踏み砕き、一気に間合いを詰める。隕石は事前に軌道を決める事で全弾回避。どうにか迎撃しようとした鬼達だったが、少し遅かった。
「〈錬師克蝕〉」
彼女はこれでも刀工の端くれ。器具に性質付与ができる。とは言え普通の物では耐久値が減るので一回の使用がせいぜい。だが、この刺身包丁とケーキナイフなら、十回程度は可能。
「【ミストルティン】」
先程の石には矢を隕石にする弓のチカラを付与。
今回の刺身包丁とケーキナイフには防御を零にする剣のチカラを付与。
その結果。
「!」
「!!」
鬼二人は木っ端微塵になった。
【TIPS】
〈錬師克蝕〉
(㈩*㈩)<物品に<冥刀>の特性を付与できる。
(㈩*㈩)<わたしの自衛手段。
(㈩*㈩)<でも、普通の物品だと一回で塵。
(㈩*㈩)<業物でもあまり持たない。
(㈩*㈩)<欠点まみれ。ハア。




