五百二十五話目「カレが来訪した理由」
「ここに至るまで色々あったな……」
思わず呟いたミユ。
そうして色々考え思い返していると、自宅に到着。
自身の養父……という事になっている人が持っている家。そこに彼女は一人で暮らす事になっていた。
鍵を開け、扉を開け挨拶する。
同居人はいないが、いつもの事。
「ただい」
だったが、言葉が止まる。
「……」
誰かがいる。
ミユは警戒しながら奥へ向かう。
リビングの扉を開けると、そこにいたのは一人の男。
黒ずくめの恰好をして、手袋をして帽子を目深に被っているので肌が全く出ていない。
ソファに悠々と座っている。
その男はミユの姿を確認すると、手を上げて挨拶する。
「おかえりなさい。お久しぶりですね。μさん」
その呼びかけにミユは顔を顰める。
そして、眼鏡を外し、三つ編みを解き、後ろにまとめる。
その途端、雰囲気が一変する。そのまま告げる。
「その名前は捨てた。今はシワス=ミユだ。γ」
声音と口調すら変わった。
それにγと呼ばれた男は曖昧に笑った。
「そうですか」
「……で? 何の用だ?」
ミユと問いかけにγは答える。
「何、簡単な事ですよ。終わったらすぐに帰りましょう」
「もったいぶらず、サッサと言え」
「何。簡単な事です――仕事を頼みたいのです」
「帰れ」
即答だった。けんもほろろだった。
ミユは続ける。
「私は組織とは縁を切った」
一拍置いて思い返す。
「それに私以外にもメンバーはいるはずだ。後任者もいるだろう?」
かつての同僚達を脳裏に浮かべる。
「だから、消えろ」
もう自分には関係ないと話を切ろうとする。
だが、γはそれに笑みを浮かべ続ける。
「そうですか。なら残念です。貴方を――殺さなきゃなりません」
「あ?」
ミユの声音が低くなる。まさに絶対零度。
更に凄まじい圧が放たれる。
その場にこの二人以外がいたら、寒気を感じていただろう。
「何言っているんだ? 私は円満に退職するために……」
思い返すのはここに至るまでの地獄の日々。
「無茶・無理・無謀な仕事を幾つも引き受けたんだぞ?」
死に掛け、大怪我を負いながらも完遂した。
「Ϻもちゃんと認めてくれた」
その理由にγはこう言う。
「その事なんですがね……」
言いづらそうに続ける。
「実は最近内部抗争がありまして」
「!?」
「その結果、幹部の大半と、メンバーの半数が死にまして……」
「まさか……」
「はい。Ϻもお亡くなりになりました」
その言葉にミユは沈痛そうな顔をした。




