二五一「新たなるデュナミスト」
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(ヤベエ、ヤベエ)
ウラベはどうにかこの場から逃げ出そうとする。だが、四肢が曲がって動けない。
(どうすれば……、どうすれば……)
その時だった。
[助けてあげようか?]
声が聞こえた。
「だ」
[おっと、声には出さない方が良いよ? サクにバレるよ]
その誰かの助言に従い、とりあえず心の中で喋る。
[誰だ!]
[今はそんな事どうでもいいだろう? 助けてあげるよ]
相手の正体はわからないし、どこにいるのかすらわからない。
だが、彼は藁にすがる。
[ど、どうすればいい?]
[何、簡単な事さ。その体を貸してくれればいい]
[は?]
唖然としたウラベに声は続ける。
[気づいていないんだ。キミの奥の手だよ]
その声の説明によれば、自分の《月鏡》の最後の奥の手。
外側だけではなく、本人を呼び込んで内側も再現する。
ただし、デメリットは勿論ある。
インターバルはかなり長いうえ、それとは比にならないデメリットが出て来る。
それは――
[本人の魂魄と精神を呼び込むからね、乗っ取られる危険性があるんだよ]
[ふ、ふざけんな! じゃあ俺死ぬじゃねえか!?]
ウラベの抗議に、その声はケラケラ笑って続ける。
[大丈夫さ。ちゃんと返してあげるから。なんなら〈誓約〉? を結んでも良いよ]
〈誓約〉は特殊な術技。お互いが何かしらを誓い、それを破ればそれ相応のデメリットが降りかかる。
[で、でも……]
[ちゃんとサクにとりなしてあげるからさ]
この時点でウラベは気づいていないが、オウカをサクを呼んでいる。つまり、この声の主は、彼の親しい友である。
だが、それにウラベは反論する。
[とりなすって……あいつ等出来てねえじゃん]
カナタとベニバナがどうにかオウカを鎮めようとしているが、あまり効果がない。
[ダイジョブさ。彼は負い目があるから]
[負い目?]
[それは今はどうでもいい]
疑問に答えない。そして選択を促す。
[さあどうする?]
[……]
[座して死を持つ? それとも抗う?]
そして暫しの沈黙後、ウラベは決断する。
[わかった! ちゃんとどうにかしろよ! 後、体返せよ!]
[わかった。契約成立だ]
その言葉と同時、ウラベの意識が薄くなっていく。
彼が最後に聞こえたのはこの言葉。
[今は眠って。起きた時には終わってるさ。……多分]
凄く不安になったウラベ。
そして、意識はなくなった。
□■□■
次の瞬間。
「「!?」」
凄まじい圧がウラベの方から発せられる。
それにオウカ達はその方向を向く。
すると、そこには男ではなく、女がいた。
今まで、変身した人物は可愛い人や美しい人が多かったのだが、この女性は妖艶と言ってよい美貌を持っていた。
服装はサイズが大きいせいで、ダボっとした露出の少ない服を着ているが、不思議と動きにくくないようになっている。そして、腰には三日月刀。
因みに四肢が動かないので、座り込んだまま。
その女を、オウカは知っている。
「野郎! 懲りも懲りずに……」
拘束を引き千切りながら、迫ろうとしたオウカ。
だが、女の声に足が止まる。
「やれやれ変わっていないねサク」
その声を、オウカは知っている。
女は更に続ける。
「まあ人は変わらないけど。良くも悪くも」
やれやれと女は肩を竦める。
そして、オウカは気づく。
今までの贋物とは何かが違う。
何より――圧が違う。
「ま、まさか……」
そして、女は笑みを浮かべてこう告げる。
「座ったままで悪いけど、改めて自己紹介だ」
一拍置いて女は自身の名前を告げた。
「ソルの名前はソルドアット。短い時間だけど宜しくね」
そして、ウインクした。




