二一〇「紅花のエボリューション」
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その日の空き教室では、二人の人物がティータイムを楽しんでいた。
「はい。どうぞ」
「どうもですわ」
相も変わらずメイド姿のオウカが紅茶を淹れ、それを飲むベニバナ。
「お菓子もどうぞ」
「ありがとうですわ」
彼女は差し出されたチョコチップクッキーを齧る。
暫くそうしてお茶を楽しんでいたが。
「って違いますわー!?」
ベニバナが噴火する。
そんな彼女にオウカは冷静に発言する。
「ビークール、ビークール」
「落ち着いていられますか!?」
「どうどうどうどう」
「私は馬ではないですわ!? ドラゴンですわ!」
怒り出すベニバナ。だが、オウカの指摘ももっともだと思ったのか、深呼吸を繰り返して何とか落ち付く。
「どうしてお茶をしているんですの!」
実はベニバナはオウカに助言と修行を頼んでいた。自分一人では強化の道筋が見えなかったからである。
そんな彼女にオウカは告げる。
「今はこれが必要だから」
「え」
「焦るな。心にゆとりが大事なんだ」
その言葉を理解はするが、納得できないベニバナ。
「ですが時間は有限ですわ。それにこのままだと……」
そんな彼女にオウカは息を吐いてから続けた。
「じゃあやりましょう」
「え」
そう言って真っ直ぐにベニバナを見据えるオウカ。そして、彼女に告げる。
「今からやるのはちょっと荒技です」
「な、何をしますの?」
「言うなれば――補助輪を付けます」
「?」
首を捻るベニバナに、オウカは人差し指から赤い糸を出して続ける。
「この糸は<冥刀>である【クリドゥノ・アイディン】です」
正確には親友が使っていたモノの、残影であるが、今は関係ないので省く。
「この糸には情報が詰まってます。数多の<冥刀>について」
<冥刀>を解析し再現する。それがこの赤い糸のチカラ。それは能力だけでなく、使い手の経験や技量まで再現可能。
「それに何の関係g……まさか」
ベニバナは馬鹿でない。だからこそ気づいた。それは――
「ええその通り。〈心牙〉に至った人の記憶があります」
<冥刀>は一つとして同じ能力はない。……似たようなのはあるが、全く同一は存在しない。その中にオーラを操作するモノも存在する。
そして、その使い手の中には〈心牙〉に至った人がいる。
「本来は俺が使うのですけど、他の人に使わせる事も出来る」
「で、では……」
「この糸を補助輪にして、ベニバナに〈心牙〉を使わせる」
「!」
これは補助輪付きで自転車に走らせるようなモノ。だが、〈心牙〉は深奥。自転車程度の負担ではない。
「でも、かなり反動が来ます。死にはしないと思いますけど。多分」
自信なさそうなオウカ。それでも問いかける。
「どうs」
「やりますわ。やってください」
即答だった。
それにオウカは笑う。
「わかりました。では」
「はい」
そして、赤い糸がベニバナに巻き付いた。
すると、彼女の意志とは裏腹に、オーラが立ち昇る。有色透明のオーラの色が濃くなって、ベニバナを覆い隠す。それと同時。
「ぐうぅ」
ベニバナの口から押し殺したような悲鳴が上がる。そのまま椅子から転がり落ちて悶え苦しむ。それは暫く続いた。
そして、暫く後。
「はあ、はあ」
ベニバナは床に倒れ込んで荒い息を吐いていた。ペン一本持てない程の疲労をしてる。
そんな彼女をオウカはお姫様抱っこで持ち上げる。
「保健室に連れてきます」
「……ありがとうですわ」
そうしてオウカはベニバナを保健室に送った。
【コソコソ話】
(#ー#)<因みにベニバナはメイド服について指摘しなかった。
(#ー#)<校則ぶっちぎって着物と袴履いているしな。




