110話:無・貌・遁・走
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オウカと無貌の戦いは激しさを増していた。刃と刃がぶつかり、金属音が幾度も響く。まさに鋼の豪雨。
「オオオオオオ!」
「アアアアアア!」
オウカは右手に段平、左手に長ドスを持った二刀流。鉄壁の防御で無貌の攻撃を寄せ付けない。しかし、リーチの問題で近づけず、ダメージが当てられない。
無貌は鎖を伸縮させ間合いを操作。中距離で攻めたて、オウカを近づかせない。しかも鎌は二つあるので手数がある。だが、オウカの防御が巧みでこちらも攻撃が届かない。
互いにどうするかを思考。
(このままだと埒が明かない)
(防御を突破できん)
((どうする?))
この状況を突破するには手札を切るしかない。
(どれを使う?)
(使うか?)
オウカの場合、【ギルタブリル】の損傷のせいで、手札が限られる。それでも使えるモノはある。
無貌の場合、最後の奥の手がある。ただし諸刃の剣であるので、できるなら使いたくない。
両者、思考していた時だった。
「サクヅキ!」
ランコの声が響く。それと同時に投槍が飛び込んで来た。それは鎌に激突し、鎖鎌の攻撃ペースを乱す。その隙をオウカは見逃さない。
「ッ!」
「来たぁー!」
【イーコール】を使い、機動力を強化。一気に間合いに入り込む。そして、膂力強化を使い二刀による斬撃を放つ。
「死ね」
それを無貌はどうにか受け止める。受けが難しい鎖鎌でようやる。
「ぐぅおお!(何と言うパワー)」
拮抗は数秒。吹っ飛んだのは無貌。そのまま瓦礫に突っ込んで派手に粉塵が起こる。
オウカは二刀を振り下ろした状態で残心。だが、武器は仕舞わず警戒態勢のまま。そんな彼にランコが声を掛ける。因みにリアの傍にいるが、いつでも槍を投げオウカに加勢できるようにしている。
「無事か?」
「おかげさまで。助かった。そっちは?」
「どうにか倒せた」
その言葉に反応する者があった。
「なるほど。奴は倒されたか」
「「!」」
瓦礫の中から現れたのは無貌。忍者装束は多少汚れているが、目立った外傷はない。
「手応えがおかしかったが、自分で飛びやがったか……」
「あんな攻撃を直撃で貰ってたまるか」
そう言った無貌は手に持っていた鎖鎌を鎖に戻し、抜錨を解除。その行動に疑問を持つ三人。
その答えを無貌は言う。
「ここまでだ。我らはこの仕事から手を引く」
「何だと?」
「え……」
驚く女の子二人に対し、オウカは別の事を訊ねる。
「こういう仕事って信用が大事だけど、大丈夫なの?」
それに無貌はオウカの事を見る。そして、
「フフフ、ハハハハハハ!」
大笑いする。そして、オウカの問いに答える。
「こんな時に相手の心配か。……大丈夫ではない。だが、事前に聞いていない事ばかりなうえに、こちらの犠牲が大きすぎる。ここまでの相手だったらもっと戦力を用意した」
オウカの瞳を見つめて続ける。
「お前、この黒幕を絶対に許さないだろう?」
「当然」
オウカは断言する。
「生まれて来た事を後悔させて、死を懇願する程の苦しみを与え、跡形もなく消す」
「よし。ならばソイツの始末を頼む」
「任された」
オウカの返事に、無貌は何かをオウカに放り投げる。受け取るオウカ。そこには連絡先が書いてある名刺だった。
「お前には伝手を作って置くのも悪く無さそうだ。何かあったら連絡しろ」
その言葉と同時、無貌は霞のように消えた。
追いかけようとしたランコ、それを止めるリア。
「ま、待て!」
「追うな。もう大丈夫」
そして、言葉を発する。
「なあ、リア」
「何でしょう?」
「サクライ」
「何だ?」
「後始末……どうする?」
「「……」」
ボロボロかつ、穴が空いた屋内。外もボコボコなうえ、大陥没が起こっている。人も沢山死んだ。これから事情聴取など色々あるだろう。
因みに、オウカ的には、後始末は、戦闘よりも大変だった。




