Ⅹ「準備と相手と人格者」
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「それで、あなたはこれからどうするの?」
「どうって?」
首を捻るオウカにマユは少し呆れたような眼を向ける。
「このままでは転学か退学、そして決闘」
「……あ」
「忘れていたの?」
「色々あり過ぎたからね」
それには同意するしかないマユ。
(というか今いつだ?)
置きっぱなしの端末を付けてみると、日付は異世界に行ってから数時間と経っていない。
「……良かった」
「【オートクレール】も約束守ったのね」
ほっと一安心。だがもう一つの問題は、
「まあ大丈夫。力は手に入れたし」
実際オウカにはあの世界で手に入れたモノがある。
「だから大丈夫」
異世界に行く前より遥かに彼は強い。
だが、それにマユは待ったをかける。
「確かに。でも備えは必要」
「そうか?」
「そう。前にも言った通り、あなたは面倒事に巻き込まれるか、厄介事に首を突っ込んで行く」
「……」
何も言い返せないオウカ。
「それに相手が強者の可能性もある」
「……確かに」
相手が誰かはわからないが、あの高校には強者はいる。隠れ強者も存在する可能性がある。
「幸い時間はある。そういう訳で準備をしよう」
「準備?」
疑問符を浮かべるオウガにマユはいたずらっぽく笑った。
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そして、決闘当日。時間は放課後、場所は学内の施設。程々に広め、頑丈、結界を張れる、自己修復機能(ある程度)有なので模擬戦や実験で使用される。そこにはオウカの決闘の相手がいた。
金髪のツーブロック、大柄で筋肉質の男。彼がオウカの対戦相手であるヨシムラである。オウカの先輩である二年生である。
どんな人物かと言えば、一言で言えばろくでなし。
取り巻きが多数いるチンピラ崩れ。性格は粗暴で、人に暴力を振るい、金をたかる。何で退学にしないのかと言えば、本人が強く、勝てる人がこの高校には指の数くらいしかいないうえ、実家が名家で、権力を持っているので誰にも止められなかった。教師すら何も出来ないどころか、一部は言う事を聞く始末。そのため行動がエスカレートしていった。
そんな彼とその取り巻き+αの合計十名と審判役の教師がここにはいた。しかし、肝心のオウカがいない。
「……チッ!アイツ……逃げたか?」
イライラしているヨシムラ。貧乏ゆすりをしている。
それを取り巻き達が宥めているが、あまり効果はない。
そのため取り巻きの一人が教師に提案する。
「先生、もうアイツの不戦敗でいいんじゃないですか?」
「……それもそうだな」
意見に同意したのは、角刈りの頭、中年のがっしりとした体形のゴンダという教師。
腕時計を確認すると、開始時間までもう残り僅か。
それならもう終わりにしてもいいだろう。
それに、
(どうせ結果も見えている)
ゴンダが知る限り、サクヅキ=オウカは今年入学した新入生で、入学テストの結果を見る限り、筆記の成績は良かったようだが、実技はそこまででもなく、今年度のナノマシンの投与者の一人。《クロス》の能力によっては厄介だが、今はそれを盗られて戦力ダウン。勝てる要素はない。……何かしらの隠し玉があれば別だろうが。
(そういえば……今日はアイツ見てないな)
ゴンダがふと思う。
オウカの姿を今日は見ていなかった。一体どうしたのだろうか? 諦めたのだろうか? ……因みに彼はオウカが遅れてくる事を知らない。単なる教師同士の報連相不足である。
「(まあいいか。)試合終了。勝s」
「どうも~、心の狭い人格者です」
言葉を遮るように扉が思いっきり開かれた。




