そして、いつまでも幸せに暮らしました
王女様は、部屋の隅で、気を失っていた。
「……王女様。メリダ王女様。ご無事ですか」
王女が、ハッと目を開ける。
「あなたは……? そうだ、闇の王……わたし、あの方の手下に連れてこられて、ずっと、この城に閉じ込められていたのです。手足を縛られて。あら、ロープがない、猿ぐつわも。あなたが、助けてくださったのですか?」
「そうですよ、姫。ずっと怖かったでしょう。心細かったでしょう。もう大丈夫ですよ」
本当は、じいちゃんの助太刀があってこそ、なのだけれど。細かいことはいいだろう。それくらい、じいちゃんだって目をつぶってくれるはずだ。
「う……うわ~~ん」
王女様は、俺の腕の中で、泣いた。
じいちゃんとばあちゃんも、こうだったのかな。囚われの姫と救いの英雄。おとぎ話みたいな出会いが現実になって、子どもが生まれ、孫が生まれ……そして、その孫もまた、いま、英雄となってお姫様を助けてる。最初は、俺なんかと思っていたけれど。こうなることも、初めから運命で決まっていたのかもしれない。
「さあ、帰りましょう、王女様。お父上もお母上も、城で待っていますよ」
空飛ぶユニコーンの背に乗って、帰りは後ろにお姫様を乗せて飛んでいく。じいちゃんも、例のペガサスに乗ってついてきているはずだ。それとも、もう、成仏してお空に行ったのかな?
ただいま、ばあちゃん。帰ってきたよ。
数年後――。
俺は、闇の王を倒し、お姫様を助けた英雄として、王様から『二代目勇者』の勲章を授けられた。いまは、我が家の家宝として、じいちゃんの勲章とともに地下の倉庫に眠っている。
ばあちゃんは相変わらず元気だ。野生動物とも平気で戦うし、いつも、おいしい料理を作って待っていてくれる。
けど、俺の家族は、もう、ひとりだけじゃない。
「……あなた」
家のドアを開ければ、王女様――いまは、我が妻となったメリダが、笑顔で迎えてくれる。
あの日、彼女に一目惚れした俺は、時が熟すのを待って、結婚を申し込んだ。慎重派なのは俺の悪い癖だが、結果として、メリダがOKしてくれたから良しとしよう。ああ、俺はいま、最高に幸せだ!
《可愛い奥さんじゃないかー。おまえも、隅に置けないなあ、ヘルメス》
声が聞こえた。ていうか、この喋り方、まさか……。
「じいちゃん!? なんでいるの?」
とっくに成仏したと思っていたじいちゃんが、いま、俺の目の前で、うんうんと頷いている。
《なんでっていうか、俺は、ずっとここにいたぞ。おまえが王様から勲章を授与されるところも見ていたし、王女とのことも、あれだけ長く一緒にいて、いつプロポーズするのかと、ヤキモキしていたくらいだ》
つまり、全部見られていた、と……。
「じゃあ、なんで出てきてくれなかったの? 俺、あのときのこと、ずっとお礼を言いたかったのに……」
《いやあ、なんか、小っ恥ずかしくてな。でも、見守ってはいたぞ。おまえの小さい頃と同じようにな》
それは……嬉しいけれど……だったら、じいちゃんは、いつ成仏できるんだろう? ひょっとして、一生このままとか?
《もしかしたら、まだ、この世に未練があるからなのかもしれないな》
「えっ。まだあるの?」
俺が訊くと、じいちゃんは、自信満々に言い切った。
《ああ。おまえの子どもの顔を見るまでは、まだ死ねない!!》
「いや、もう死んでるから!」
いつまで、こんなコントのような関係が続くのか……いや、案外、それも悪くないかもしれない。
俺と、じいちゃんと、ばあちゃんと、メリダ。それに、将来生まれてくるかもしれない俺たちの子どもと。
みんなで笑い合って暮らせたら、それで最高じゃないか。