81 おしくらまん
あれから一時間は経ったろうか。やや日が傾き、やっと気持ちが落ち着いて、やはりいつか女神を殺そうと決意してから、やおら起き上がった。
「落ち着いた?」
ソフィアがニコニコして俺の頭を撫でている。俺が突然目の前に現れるという物理的な異常事態と、幼児退行という精神の異常事態にも彼女は動じないどころか、「かわいい……」と俺をあやし始めた。
一方で彼女以外のメンバーは、帰ってきたとか、新天地だとかそんな感情は見せず、ただ俺の様子にドン引きしてどこかへ散って行ってしまった。ソフィアの残ったのはドゥカくらいだがスリープモードに入ってしまったし、それくらいが普通の反応だろうな。
彼女の胆力はどうなっているのだろうか。目の前で世界が滅亡しても微笑んでいそうな気さえする。
「……すみません。色々とありまして」
「いんですよ? アランさんのかわいい所、見られてだ~い満足です。えへ」
「ずっと待たせちゃいましたね」
「気にしないでください。ぜったい無事で帰ってきてくれるって思ってたんで、ぜんぜん寂しくなかったですよ? でも、帰ってきてくれたらきっと、わぁ~って嬉しくなって……変なことしちゃわないかな……かなって、おも……」
ずっとニコニコしていて、俺の顔に赤い顔を付き合わせ続けていたが、それが段々と泣き顔に変わっていって、ついには泣き出した。
「どうしたんですか」
「ごめんなさいやっぱ寂しかったぁ~……!」
俺に覆いかぶさってきて胸で泣き始める。俺も何か色々と、泣きそうだよ。
今度は彼女をあやしていると、フローレンスとビスコーサとボウイが戻ってきた。
「どしたの? ソフィちゃん」
フローレンスに聞かれても、しゃくり泣きまでしてしまってまともに答えられない。その隙に俺は思考を巡らす。久しぶりに戻ってきたので、誰にどういう接し方をしていたか整理しないとヤバイな。
まずハーレムメンバーをおさらいすると、農民のソフィア、殺し屋の卵のボウイ、騎士のアリアンナ、魔術エンジニアのビスコーサ、セクサロイドのドゥカ、元老賢者の少女ルイマス、ナースのフローレンス、忍者のお自野。ここまでが大陸へ出る前の八人。そこに、サバイバル人妻の茂美、サメ獣人のシャーリー、デスゲーム狂いのウォス、陰謀論者のヒカリ、魔王のシュビントの五人が加わって……十三人。
十三人もいるのか。だが、関係の方は楽だな。逆に俺が殺し屋だと知らないのは、ソフィアとフローレンスとシャーリー……シャーリーは言葉が分からないだけだが……とシュビントの四人だけだ。
更に、口調まで変えているのは二人だけ、この二人がいるときは他の者への口調を変え、ソフィアには敬語、フローレンスには柔らか目のタメ口。これでいい。大陸組にも共有しておかないと……。
泣くソフィアの背を撫でながら、もう少し身を起こして抱いた。
「大丈夫、嬉し泣きだよ」
「あ~ねっ! なんか凄いことになってたけどウチも嬉しいってか色々となんで?」
「いやまぁ、色々ありすぎてね。単に話しても信じられないだろうから、ちゃんと説明できるように時間が欲しいんだ」
「そっか。ぢゃあ楽しみ増えちゃったわ。ね~」
フローレンスが聞くと、ボウイは「ね~」と真似て返し、ビスコーサはソフィアの側に座って、泣く頭を撫で始めた。
「そっすね……可愛いっすねぇソフィアさん……ふひ……」
「ん……」
ソフィアのしゃくりが大人しくなり始めた。そこでふと、ビスコーサが神妙な顔になる。
「……いいっすか、アランさん」
「なんです?」
彼女は真剣な顔だ。……そういえば、出掛けるときにビスコーサだけにはキスし忘れていたんだったな。まさかそのことだろうか。
「この前、ボウイたんの前立腺をイジメてたんすけど、男の子イキしちゃったんすよね。射精」
「わぁ言うなぁ!」
ボウイが慌てる。もう先行きがダメだ。真面目に聞こうと思った俺がバカだった。
「射精禁止しただろう」
「い、いや、先生っ。えっとさ、ほら、事故ってやつ? だいじょうぶ! 女の子イキもしたから……」
「なにが大丈夫なんだ……?」
ビスコーサがボウイが言い訳を続けようとするのを制止する。
「そのときっすね、挿入れてる指が、ドピュドピュのリズムでアナルにギュっギュって絞められたんすよ。ってことは、アランさんが挿入しているときに、バックからでもボウイたんが射精してるのが締め付けで分かるってことっすよね、めっちゃエッチじゃないっすか?」
彼女が言う横でボウイの股間が膨らみ、少女顔が顔を赤くしながらそっと勃起を隠すので、目眩がした。
「なんですかその大発見みたいな言い方……」
「大発見じゃないっすか。せ、性器の大発見……ふひ……」
「…………相変わらずでなによりです」
「あ、そういえばなんか変なことあったんすよね。なんか、国民の二十分の一くらいが行方不明だそうです」
それは、あの化け物の仕業だろう。世界中の人が怪物に変わって、それがあのバルカンに向かっていった。
大半は歩いて戻ってくるだろうが、海まで出た者はどうなるのだろうか。
「いや、なんでそっちが日常会話みたいなノリなんですか」
「いや、他の人とかどうでもいいんで……」
フローレンスの方が「あぁそういえば」と日常会話の切り口。お国の一大事だろ。お前らの日常どうなってるんだ。
「あのさ、モーニングスターって人どーなったん? さっき、さらっといたぢゃん」
「解決したよ。今はもう味方だ」
「え、まぢ? それもお楽しみ?」
「そうだね。時間が欲しい」
「え~、一年楽しいヤツ~」
盛り上がる彼女の側で、ビスコーサがチラチラと上目で俺を見ていた。
その頬をもって、キスをしてやると、いつもの青い顔に血色が戻った。
「な、なんすか?」
「忘れ物ですよ。許してくれますか」
「……ふへ……。ん……」
恥ずかしそうにうつ向いて、浅く頷いた。フローレンスが「やったぢゃん」と言いながらビスコーサを抱きしめ、ついでにチラチラと俺を見てきた。
とりあえずキスしておくと、彼女も照れて、それを発散させるようにビスコーサへ甘える。
それを見たボウイが、前傾姿勢で口を俺へ付きだして、目をチラチラと開けて様子を見ていた。
面倒だがキスしてやると、乙女みたいに口を指で大切そうに覆った。
今度は、ソフィアが腫れた目でチラチラと見てきた。
仕方ないのでキスをしてやると、また胸に顔を埋めて膝から下をパタパタ振った。
ふと入口を見ると、アリアンナが羨ましそうに覗いていた。
全員分するのかこれ。あと九回も?
「収まったか、アラン。無事に帰ってきて何よりだ」
「そうですね。とりあえず、神父とは和解しました」
「そうなのか? 殺しに来ていたはずだが……」
「悪魔だって決めつけが勘違いだと気付いてくれたみたいで。許してあげてください」
「そうか。貴様がそう言うのならばそうしよう。むふ。素晴らしいお土産……姫たちを持って帰ってきてくれたしな」
性騎士が下衆に、家の外の草原で話している大陸組を眺めた。
「ね、みんな可愛いよね」
すっかり泣き止んだソフィアが食いつく。
「じ、自分的にはウォスとシャーリーが気になるっす……」
「あ、おれも、シャーリーかわいいなって……でも、あのシュビントも好き……」
「うむうむ。分かるぞボウイ。我もシュビントだ。シンパシーを感じるし、乳首が溢れそうなのもほぼマンチラしてるのも実にたまらん」
「へぇ~。ウチ的には茂美がキテる。すっごいキレイ。憧れる~……」
「ソフィアさん的にはどっすか?」
「え~迷う……。みんな可愛いし、一緒にきもちくなりたい……」
「あ、ズルいっす。それはみんなそうっすよ。じゃあ次にエッチしたい子誰っすか?」
「うぅ~~~……。あ、ヒカリっ。さっき『ありんす』って言っててすっごい可愛かった」
「マヂわかる~~~っ!」
別々に育ったハーレムって、いがみ合いも無しでこんな簡単に合流できるんだな。勉強になったが、こんなに役に立たない知識を得たってどうしろっていうんだ。俺の『胸への異常な観察眼』と同じくらい使い道がない。
「すみません、いきなり場所が飛んだので、彼女たちも混乱してるかと思います。ちょっと、色々とみんなに説明してきますね」
「はーい、じゃーみんなで、何の体位を教えてあげるか相談しよ?」
ソフィアが不穏なことを言うのを背に、家の外へ出て、茂美、ウォス、シャーリー、ヒカリ、シュビントと、ステイシーとモーニングスターの大陸組と合流する。ガーベラはまたどこかへ出掛けたようだ。
「取り乱してすまなかった」
「構いません。話を聞くに、どうせあのバカの女神がバカやったんでしょう。ハテナ」
「察しがよくて助かる。俺の帰りの船を壊して雑に帰国させられたってところだ」
「ええ、ガーベラさんの『わーぷ』ではこの世界の住民は飛べないはずですからね。ところで、ローズマリー王国でのアランさんの状況は共有しておきましたよ、ニヤリ」
「ソフィアさんとフローレンスさんに、殺し屋ってバレないようにすればいいのよね? 口調とかが急に変わっても、察して良い感じに合わせる……でしょう? アランさん」
茂美がまとめてくれた。ステイシーと茂美が有能すぎて、やはり難なくハーレムが合流してしまった。
「え、アラン、殺し屋なのであるか」
シュビントにバレた。意外と有能でもなかったかもしれない。いや、魔王になら別に知れても良いんだが……。
「まぁ……ごめんなさい、アランさん」
「いや、別にいい。構わないな? シュビント」
「ももも、もちろんだが? 誰にも言わんぞ? だ、だから、な? な?」
かなりプルプルとし始めた。激しすぎて胸や尻の肉に波が立ち、ハーレムの間に熱気が立ち込め、ステイシーが舌打ちをした。
「魔王が殺し屋にビビってるのか」
「そ、そんなわけがあるか、たわけ! あ、たわけはその、そこまでの悪口ではなくてだな……?」
「殺さんから落ち着け。言われた通りに、ソフィアとフローレンスだけに気を付けておいてくれ」
「む、無論だ。それくらい余でもできるもん」
「そうか」
ふと、静かなルイマスを見た。あの赤ん坊を寝かせたまま、ゆっくりと揺らしてあげている。
こう見ていると、母親のようなんだがな。いっそ、ずっと世話していてもらおうか。
「どうだ、その子は」
「問題ないぞい……。ぐっすり寝おって~……」
蚊の鳴く声だ。その隣で、モーニングスターがニコニコと頷いている。
「流石ですな。その子を立派に育てられるのは、ルイマス様しかおりますまい」
「そうかぁ~……一日ばかり休んだら……ガーベラとこの子の形を相談せねばなぁ~……」
「そのお役目もまた、ルイマス様でなくてはなりませんな」
「ということでアラン……悪いが少しの間はセックスもオナニーも参加できんぞい……ソフィアたちに伝えてくれい……」
「参加義務はない。その子のことで助けが必要なら呼べ」
すると彼女が顔を上げ、微笑んだ。
「こう言っては何だが……。お前に殺されたあと、お前のオンナになってよかったぞい……」
「お前が勝手に少女に転生したんだろ。礼などいらん」
「ふふふ~……。ではまたの……」
そう言って、草原をそろりそろりと塔の方へ歩いていく。
「フン。この世界が我が主のお陰で存在するということを忘れるなよ。まったく感謝が足りん。バカバカと言いおってからに」
「そういうお前は、アイツがバカじゃないと思うのか」
「…………。またすぐ会うことになるだろう、殺し屋」
「せめて否定していけ、天使」
彼はルイマスを追い、二人で去っていった。
「主さん主さん。あの神父ってのは天使でありんすか?」
「神の直属の部下だからな。そういうことになる」
「へぇ~……。じゃあ主さん、神と悪魔と勇者と魔王に会ったってことでありんすね」
ステイシーが片足立ちで身体を横に倒して割って入り、「そして『ぞんび』にも。バーン」と顔の両隣でピースをした。
「まぁ……そうだな」
「あながち陰謀も間違いじゃ、ありんせんね」
「懲りない奴だな。陰謀論はやめておけ。また目覚めたって言いながら寝ぼける気か」
「そ、それでありんしたら、不死を求めるウォーカーなる闇の組織は……」
なんでよりによって存在する組織の名前が出るんだ……。変な運を持ってるなお前……。
「それは……あったな。ステイシーと一緒に壊滅したが……」
「やはり陰謀はありんすよ!」
彼女はブツブツと空想に没頭し始めた。いきなり抜け出すのは難しいか……。まぁ、害がない内は好きにさせておくか。
ウォスが急にキョロキョロしたと思えば、手を上げた。話の順番待ちをしていたのだろうか。
「どうした」
「あ、アラン。その、例の陰キャさんって……」
「ビスコーサか? あの、青髪だ」
ウォスは家を見て、不器用に会釈とちんまりした手の挨拶を繰り返した。ビスコーサが、左手の指で作った輪っかに右手の中指と薬指を挿入してクイクイと曲げる。
やめろお前……。
「あ、アラン」
「すまん。なんというか……」
「いや、エッチしてきていいか」
「それはもう勝手にしろ」
「いや、でも、ひとりで話し掛けにいくの……なんか、わたしなんかだけが行ったらキモいかな……」
「なんなんだ……」
「あーらーんー」
後ろからシャーリーが突進してきて、腰の後ろに頬擦りする。
「わぅわぅえぅわぅ~~」
「シャーリー、座る」
「ん~~んぁっ。シャーリー、座る、ない」
「やれやれ全く。……ん?」
いつの間にか、教えてもないのに『ない』で否定だと理解していた。知らない間に会話を学んでいたのだろうか。
ということは、指差しを下ろさせての否定表現はもうしなくていいということだな。
「ねぇアランさん、いま……」
「そうだな。シャーリーは自然に言葉を覚えてきている」
「キサマらなんだ、その子の言葉が分からなくて困ってるのか」
魔王が藪から棒に会話に入ってきた。
「その口振り、なにかあるのか」
「そもそも人間の言葉を持たん魔族を統治するにあたり、魔王には言葉を介さず会話したり、それの力を与える能力がある。見ておれ」
彼女がシャーリーへ向き合うと、サメ少女の能天気だった表情が見たこともないほど強張り、俺と茂美とを見比べ、最後にはピョンピョンと焦燥に駆られて飛び始めた。
「あう……わぅ……」
「え。き、キサマ」
「うー。うぅ~」
「……わぁ……」
魔王の顔も強張って、赤くなった。
「どうした」
「よ、余の言葉じゃないからな? それを踏まえろよ?」
「ああ。それで?」
「え、えー……その、キサマと? え~一日中、……エッチ……したいそうだ」
「聞きたくなかった……」
項垂れるしかなかった。やはりこの子もハーレムに入れるしかないのだろう。
もしこのテレパシーが手に入ったら、シャーリーどころかハーレム全員の欲望を直に感じることになるのか。絶対に嫌だ。
「この能力、欲しいだろう。アラン」
「いらん」
「アランだけに?」
「ぐっっへへへへへっ」
ヒカリがツボにはいった。ウソだろ。こんなしょうもない駄洒落で笑うな。
「とりあえず、もう二度と言うな」
「ひぇ」
ともあれ、全員に殺し屋であることを隠している事実が共有された。
あとはまぁ、合流させるしかないだろう。もうどうにでもなれ。
「そろそろ行くか。家主のソフィアを……というか、まぁ、恋人たちを紹介する……」
言いながら、なんとも言えない気持ちが迫り上がってきて、もう億劫だった。なんでもいいから問題が起こらないだろうか。
問題の末、円満に解散しないだろうか。
ゾロゾロと家に戻ると、ソフィアたちが総出で迎えた。いつの間にかお自野も帰ってきていた。
「お、先生。その子たちってさ。もしかしてだよね?」
「そうだとも。よかったな」
「やっぱそうだよな~」
少女顔のイタズラな笑みが大陸組の熱気をさらに熱くする。
「あれ、ルイマスちゃんはどうしたの?」
「あの、抱いていた赤ん坊のことで、ちょっと世話をしたいと言って神父とどこかへ向かいました。もう少しの旅行みたいです」
「あ、そーなんだ。行く前に一回したかったな~」
「……」
その性欲はいったいどこから湧いてくるんだ……?
「……アラン殿」
「……なんです、お自野さん」
「どうやらヨタカの者も引き入れたご様子。特にその和装の娘、気になってるでござるよ~」
「ヒカリですよ。まぁ、順番に紹介を――――」
「「死ねやッ!」」
まばたきする間もないほどの一瞬で、お自野の小刀とヒカリの棍棒が金属音を響かせた。
「なにっ」
「ひ、ヒカリちゃん!」
アリアンナがお自野を、茂美がヒカリを、それぞれ怪力で羽交い締めにして止める。
「なにしてるの!?」
「しーちゃん! そいつは国の裏切り者でありんす!」
「裏切ってませぇーん! あーほ!」
まさか本当に問題が起こるとは思わなかった。よし。そのままいがみ合え。
「アラン殿! 名前で気付かなかったでござるか! そこな僧侶が生臭であることぐらい!」
「名前? 明るさの光じゃないのか」
「火を狩ると書いての火狩! 僧侶の中でも、炎術使いを始末する専門家でござる!」
つまりは殺し屋。俺と同業者だったのか。いつもならすぐ見抜けるのだが、勇者の相棒で怪力持ちなせいか、胸の観察しかしてなかった。
そうか。ヨタカは炎術でスチームパンク的に技術が発達したと言う。なら、力ある存在が逃げたときにそれを始末する役割があるのも道理。ということはまさか――――。
「ヒカリ。もしかして、国を出てきたのは……」
「そこの抜け忍を始末するために決まってるでありんしょう!」
「ああ、そうなんだ……」
これは良い感じに厄介なことになったな。分裂の気配だ。
睨み合う二人の間に、ソフィアが入った。
「ふたりとも、ダメだよ! みんな仲良くしなきゃ」
「む……ソフィア殿がそう言うのなら……」
「え、抜け忍のクセ物分かりがようござりんすな」
「まぁ、ソフィア殿であるなら仕方ない……」
おい。なに納得してるんだ。
「で、でもわっちは……」
その口を、ソフィアがキスでふさいで、かなりディープに絡ませあって、お互いの唇に糸を引かせた。
「……なかよく……しよ?」
「はひ……」
懐柔された。衝突はもう終わりか。結局は十三人になってしまうのか。
「はい。じゃあふたりとも、ちゅーして? ちゅー……」
「……ん」
ソフィアが言うと、ヒカリは拘束されながらも無愛想に口を突き出した。
「しょーがないでござるなぁ~。これだから僧侶は」
お自野が余計な一言を言いながら口を突き出す。
そしてキスの瞬間――忍の唇が食われそうになり、すんでのところで僧侶の牙がガチンと音を響かせた。
「コイツ噛もうとしもうしたが!?」
「なーにーがーこれだからでありんすか! このバカ忍!」
「も~。……あ」
ソフィアが何かを思い付いた。きっとロクなことじゃない。
「そっか。下のお口には、歯がないね」
ほら来た。
「おぉっ。天才かソフィア姫。口でキスできぬなら下の口でキスすればよいではないか」
コイツらは何を言ってるんだ?
そう思えば今度はビスコーサが声を挙げる。
「あ、あっ! だったらこれがあるっす!」
部屋の片隅に置いてある荷物から取り出したのは、双頭ディルドだった。
おい。
「すっげー。それってさ。その、一緒にナカでできるってこと?」
「……使えそうだな……。二人で一つの器具を……デスゲでなんか……」
ボウイもウォスも別ベクトルでワクワクしながらディルドを撫でた。
その手つきを止めろ。
「そうっす。なんなら二組になって、真ん中に誰かいてもらって、同時に上下でズプズプしたら、四人一気に手コキでイケるって思って」
「そ、そうか。二人で同じ器具を使って、勝負みたいにしたら面白そうだな……」
「あらあら。入れた物を押し合うの? 故郷の遊びを思い出すわねぇ。おしくらまんじゅう、っていってね」
するとアリアンナが手を叩いた。
「おしくらまんまんだ!」
なに傑作を生みだしたみたいな声出してるんだ? 駄作だ。捨て置け。
「おー。いいじゃんおしくらまんまん」
「ドゥカさんドゥカさん、起動してください。新しい言葉ですよ? おしくらまんまんっ」
「……起動。おしくらまんまんデスね、ソフィア様。ラーニングいたしマシタ」
そんな単語を連呼するな。人間としての尊厳をどこに捨ててきた。
顔を真っ赤にして押し黙っているフローレンスの背後から、ビスコーサがぬっと首を伸ばして背後から抱き付いた。
「どうしたんすかぁ? ドスケベナースさぁん……。恥ずかしがっちゃって……」
「び、ビスっち……」
「フローレンスさんも言ってくださいよ。ほら。おしくらまんまん」
「もぅ。ヘンタイ……」
「他人をヘンタイ呼ばわりっすか? こんな、ドスケベボディでぇ!」
胸を鷲掴みにして揉みしだき、フローレンスは「きゃ~犯される~っ」なんて言いながら楽しんでいた。知らない間にビスコーサは随分と、フローレンスと仲良くなったようだ。
「よーしじゃあ自分、フローレンスさんと接続……」
「あ……」
ウォスの弱々しく、ほぼ聞こえない声を敏感に感じ取ったのか、ビスコーサは言葉を切って暗い少女を見た。
「……あ、いやその……わたしなんかじゃない方が……」
「ぉぽ……おほぉおぉ……」
ビスコーサからとても嫌な声が出た。
「すみませんフローレンスさん……」
「い~ょっ。可愛かったからしょ~がないねぇ~」
「どうもっす。……ねぇロリたん。合体してから自己紹介しよっかぁ……」
「そ、そっか。わたしでもいいのか……くっくっく……」
ビスコーサはディルドをウォスへ預け、荷物から同じ双頭を大量に出す。
おい。
「あ、お自野さんとヒカリさんはおしくらまんまんの試合を机でやってもらって……。観戦しながらみんなも気持ちよくなりましょう。ささ、あと四本あるので、皆さんもどうぞっす」
どうぞじゃないが? と思った瞬間。
全員が俺を見た。
少し間があり、ダメそうだと分かった瞬間にワイワイと決め始める。
……怖かった……いまの……本当に……。
「ではワタクシは、真ん中の手コキ役をいたしマショウ」
「おぉ、素晴らしい。我もおしくらまんまんをしたい。もう一人の手コキ役は誰かに任せたぞ」
「じゃあ、私がやるわ。力は強いけれど、ちゃんと優しくお世話してあげるから安心して?」
「うむ。では――」
アリアンナが怒濤の展開にフリーズしていた魔王の腰を抱き、お互いの股間と胸を擦り付け合わせた。
「やろうか。麗しい姫よ」
「ぶ、無礼者。余は魔王なるぞ」
「魔王だろうが魔神だろうが、オンナの身体ならば関係がないだろう」
尻を撫で上げ、シュビントが身体をビクつかせて身体中の肉を震わせ、場の熱気をさらに熱くした。
「ふふ。鎧の股間がもうぬらぬらではないか。ヌプヌプして姫の顔にしてやろう」
「ひぃ……」
魔王が『話が違う』という目でこっちを見てきたが、俺は目をそらすことしかできなかった。
「お、おれ、シャーリーとしたい……」
ボウイが言うと、呼ばれたと思ったのかシャーリーが寄って、無邪気に抱き付いた。するとボウイが耐えきれず抱き返してキスをし、色々と絡ませあった。
「わ~。ちびっこちゅっちゅだ。可愛ぃ~」
「うふふ。お世話したくなっちゃうわ。そうだ。二人の手コキは任せて」
「では、残りの組はワタクシが担当しまショウ」
算数の組み合わせの問題みたいになってきたな。俺はなんでここにいるんだろう。
「ね~。ぢゃ、残ったウチたちでシよっか」
「一緒にきもちくなろーね。フローレンスちゃん」
これで全員か。すごいな。ルイマス抜いた十二人で、五人五人二人と余りが出ず、ぴったり三組に別れた。
それで、俺は、なんでここで見てるんだろう。別のことやってちゃ駄目か。
「アランさん。ジトリ」
「ん?」
「みーはここにいなきゃダメなんですかね。ケッ」
「いや……」
「ですよね。では散歩してきます。ソソクサー」
ステイシー行くな。ズルいぞお前だけ……。
「勝負というなら仕方あるまい。生臭のヒカリ、お覚悟を」
「負けてワンワン泣くのをはよ見とうござりんす」
コイツらはコイツらでなんで乗り気なんだ。
「二十本勝負にござる。多く達した方の負けにござるぞ」
「というわけで主さん主さん。数え役をお願いしんす」
「え」
拒否しようとしたのに、また全員が俺を見た。
拒絶したら殺されるんじゃないか……?
「…………はい」
「よしきた! 机に乗れい!」
お自野とヒカリが自分から下着を脱ぎ、机に乗って股間を突き合わせた。
一分前に殺し合おうとした相手とセックスしようとしているのに気付いてないのか?
そんなことないよな。
でもコイツらだしな……。
「わ~。アランさんのすぐ側でするの緊張する~」
ソフィアの言葉に全員が同意していた。どうして何もしていない俺を認識しているんだろう。
スポーツの監督みたいな立ち位置なのか、俺は。
「まぁ、別にいないと思ってもらえれば……」
「思えません~。ふたりの試合もですけど、私たちのも見ててくださいね。じゃ~挿れ合いましょ~っ」
そして、性向の試合と観客の乱交の前で、黙々と数えていた。
結果――――十対十。引き分け。
せめて、決着しろよ。




