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貴いお方が裸同然とはどういう了見だ  作者: 能村龍之介
殺し屋、神話に巻き込まれるの章
58/118

53 旅、ネクストステージ

 ようやく森を抜け、町にやって来ました。もう夜です。ルイマスが何回餓死したかあとで聞きましょう。


 剥いだだけの熊皮をまとい、帽子を深々と被ってまっすぐに服屋に行きます。町行く人の目線が激しく刺さっています。あの透け服で羞恥をさらすよりも、よっぽどマシではありますが。


「いらっしゃ……おぉっ!?」


 怯む店主ですが、即座に銀貨をちらつかせます。


「服を一式で頂きたいです。それも、肌をすっかり隠せるほどに大きなもの。病気で、肌の色が悪いのです」

「そ、そうですか……だからといって毛皮を……」


「道中にあった熊の死骸からいただきました」


 言いながら、部屋の奥を見ます。


「……血を流してもいいですかね。銀貨一枚でどうですか」

「か、構わないが……」


「服は扉の前に」


 店主の隣を抜けて『しゃわー』室に向かい、中で熊皮を脱いで畳んでおきます。『しゃわー』を浴び、熊汁を流し、やっと一息。ついでに銀貨も洗ってあげましょう。


 さて、服を来たら真っ直ぐにルイマスを向かえ、アランさんを助けにバルカンへ密入国。三人で脱出と行きましょう。


 高々ひとりを迎えに行くのに、大変なことになったものです。ですが朗報。


 ルイマスが生き返るのは、ひとつ山を越えたところです。はい勝ち。余裕ですわ。


 お湯を止め、備え付けの『たおる』で身体を拭き、髪をよく乾かそうとしたときです。


「…………ん」


 何か音がしますね。


 ……扉の向こうで何か、ニチニチいってます。


 …………どうしてこう、こういうのばかりなのでしょうかね、本当。アランさんは『ガチ恋ふぃーるど』のせいで発情を誘いますが、みーの場合は『すとれーと』に目をつけられます。


 美少女ぞんび、迫害されるか性的消費されるかの二択説。どっちもしなかったアランさんがどれだけ主人公か。


 本人のいないところで、あの女はべらせ上から目線太郎の株がグングン上がるのなんでですかね。


 まぁともあれ、扉の向こうのクソキモゲロ排泄物ヘンタイクズ野郎に分からせ(・・・・)てやりましょう。


 いち、指をちぎって扉の前に投げます。


 に、『ばすたぶ』に身体を沈めて扉の方のフチをしっかり持ちます。


 さん、再生して身体を飛ばします。


 グンと力がかかって『ばすたぶ』を押し、湯船ごと凄まじい勢いで飛翔しました。


「くらえー」


 木の壁と扉を破砕し、轟音と共に部屋を飛び出しました。


 その奥の壁に着弾し、外に出る惨事は回避です。


「ふーやれやれ。これで懲りたでしょう」


 湯船から出て、ヘンタイを確認します。


「……し、死んでます……」


 ぶっちゃけ殺す気でやりました。反省は無いです。


 上半身と下半身の間に湯船がありますが、上と下の間があり得ないほど開いてます。


 しかも下は、大きいままです。見たくも無いもの見せられました。


 殺しておいてなんですが、もうちょっと、こう、もうちょっと上品に死んでくれませんかね。


「せめて隠して死んでください。オエ」


 扉があった場所の横に置いてある服を拾い、手早く着ました。


 それにしても、臭くなってきましたね。やはり殺しすぎると命臭くなります。そろそろ殺すのは避けたいですね。


 さて騒ぎになる前に逃走です。やはり『ぞんび』には逃走生活がよく似合う。参りましょうと裏口へ回り、外へ出ます。


 目の前に神父がいました。


「……ようやく来たか、悪魔め」

「がっでむ。先回りですか。どうやら『りすぽん』地点を選べるようですね。ナエナエー」


「また意味の分からん言葉か。騙されんぞ」

「おーう。かもーん。まかおー」


「…………」

「…………」


「…………何を……」

「…………」


「……何を言っている?」

「騙されるかどうかはどうでもいいです。ズバリ」


「ならばそう言え。異世界の言葉を持ち込むな」


 神父の手が得物に伸びる気配。


「ぺっ」


 唾を吐いて当て即座に逃走。禁忌とか言っている場合じゃないです。『クソガキむーぶ』でルイマスの元へ向かいます。


「あばよーです。ゲスゲスゲース」

「まったく。ん……? ぐ……ぁああっ!?」


 腐る神父を背に、全力疾走です。もはやなりふり構いません。神父に構っていたら次の異世界転移まで『くえすと』が終わらないのです。


 騒ぎも何をも抜け、いくつもの家、いくつもの店、そして最後に教会の前を通ります。


 あれ、教会。


 ……うーん、がっでむ。


「ぷげっ」


 目の前に何かが飛び出し、景色が一回転しました。星の無い満月の夜空。見下ろしてくるのは神父でした。


「手を焼かせる」

「こっちの台詞です。ピキピキ」


「これ以上お前の好きにはさせん。私と共に行動して貰うからな」


 無理やり起こされます。


 捕まってしまいました。これから支配され、何でも言うことを聞かされる展開が待っています。映画とかで『早く逃げろー』ってなるところです。


 どっこい、みーの名はステイシー・ミューイー。ぶっちゃけそういう展開は見飽きてるんで破壊する系ぞんび。


「ぺっ」


 神父に着弾させました。彼が怯み、手を離します。


「……お前……」

「これ以上『さぶくえ』はごめんでゲス。ゲースゲスゲス」


 神父を背に走り出します。なーにが天使ですか。これ以上展開を遅延させんですからな。


 感情表現力が死んでいるみーなりに高らかなゲス笑いをしながら、夜風になりました。




 夜風を受け、船は順調に進んでいた。


 トミーの亡骸を埋葬し、泣き疲れたシャーリーが眠ったので、木材を組んで皮を被せただけの帆を抱え、船を出した。


 シャーリーは茂美に抱かれ、ぐっすりと眠っていた。


「アランさん、あれは……違うかしら」


 茂美が指差す。チラチラとした光。空にはない星のような輝きは、どこもかしこも同じように光っていた。


「違いますね。あれは月明かりを反射した波です」

「そう……。どういう光だったかしら、町って」


 二人で町の光を探しながら船を進めていたが、少し問題があった。


 茂美が文明から離れすぎていて、人工的な光を忘れたらしい。焚き火程度のものだと近場で見るため、遠くから見たときの具合が分からないというのだ。


「海の(きら)めきとは、明らかに違うものですよ」

「そ、それは分かるわ。でも……うーん……?」


 ……先行きが不安だ。


「野生に染まりすぎですよ。まさか、通行人を襲ったりなんかしませんよね」


 冗談めかして言うと、彼女は苦笑いした。


「もうアランさん。そんなに狂暴じゃないわ。私の所に入ってこなければね?」

「あなたの……所?」


「ええ。何て言うんだっけ。あ、そうそう縄張り。入ってきたら取りあえず殴りあってどっちが上か分からせてあげないと。でしょう?」


 ……置いてきた方が良かったかな……。


 やや後悔していると、遠くに影が見えた。


「アランさん。あれって、陸じゃないかしら」


 目を凝らして見ると、確かに暖色の火が見えた。しかし茂美は唸って首を振った。


「……いえ、違ったわね。動いてるわ、あれ」

「そのようですね。見張りの船です。一旦帆を下ろしましょう」


 明るい海よりマシとはいえ、夜の海でも漂流物は意外と目立つ。不自然に光を吸っている場所ができるのだ。


 見つからないようにするには、見かけの面積をなるべく小さくする必要があった。


 幸いにも遠くを横切る形になっているので、そこまでしなくともまず見つかることはないが、念には念を入れなければ。


 熊の帆を被り、三人で川の字のように詰めて寝転んだ。


「……んふ……アラン……」


 シャーリーが寝ぼけて笑いながら、俺の手を握った。


「茂美ぃ……」


 茂美の手も握る。そしてまた寝息を立てた。


「あらあら……うふふ。本当に私たちの子どもみたい……」

「そうですね」


「ひょっとしたら、私たちから産まれてきたんじゃないかしら」


 ちょっと風向きが怪しくなってきたな。ハーレムに異常者が多すぎて、茂美もそうなんじゃないかと疑ってしまう。


「……そういう風に、育てることはできます」

「そうね。みんなで育てましょう。……そういえば、どんな子たちなの? 8人って」


「ひとりは農民の子です。僕は記憶を無くしてローズマリー王国にたどり着いたんですけど、保護してくれたんです」

「記憶が? またまた気になる話。アランさんって、謎が多い人なのね」


「ですかね」

「ねえ、他の子はどうかしら? いちばん年下の子の話を聞きたいわ」


「…………」


 とっさに嘘が出そうになった。だが合流するなら嘘だとバレるだろう。


 沈黙していたせいか、茂美が笑った。


「うふふ。分かっちゃった? 恥ずかしい……。でも、きっとまだオバサンって言うには早いわよね? 三十代の前半って」

「……かもしれませんね……」


「でも、どうしても気になっちゃって。それで、どんな子? ……何歳くらい?」


 一番下は間違いなくアイツ(ボウイ)アイツ(ルイマス)だ。


 ……言うしか……ないのか……。


「……実はかなり若め……といいますか……」

「そうなの。二十前半くらいかしら」


「……」

「え。十代なの? まぁ……。19?」


「…………」

「……18」


「………………」

「え? 17……16?」


「……………………」

「……ぜ、前半?」


「……見た目……だけなら。確認はしてないのでまぁなんとも……でしょう?」


 茂美は絶句していた。


 それから言葉を探すようにキョロキョロと目を泳がせたと思えば、どちらかといえば哀れむ目で見てきた。


「……アランさん」

「……はい」


「その……やって良いことと悪いことがあると思うの」

「…………はい」


 今さらその台詞が出てくるとは思わなかった。どうしてこの野生児がハーレムの中でいちばん理性があるのだろう。


「だって、シャーリーちゃんと同い年くらいってことでしょう? 娘に手を出すのと一緒じゃない」

「………………はい」


「……シャーリーちゃんには手を出さないでね?」

「……他の人にも釘を刺しておきます」


「あら? アランさんがナンパとかして集めたんじゃないの?」

「いえ、それは断じて違います。惚れられてしまって……」


「……ああ。断れないのね。そう」


 茂美の口許が綻び、俺の頬をそっと撫でた。


「やさしいのね。アランさん……」


 ……今の流れで株が上がるとは思わなかった。なんでも都合よく解釈してくるな。映画のヒロインみたいだ。


「……そのせいで、私も受け入れたのかしら」

「それは違いますよ。め……優しさのせいじゃない」


 目の前で熊を始末されて下手に逆らえなかったからに決まってるだろ。と言いかけた口をぐっと堪えた。


「……アランさん」


 茂美がとろんとした目で、そっと口を前に出してきた。


 仕方ないので口付けをした。


 ……逆に考えよう。茂美は理性的だ。あのハーレムを落ち着かせる拘束具的な役割になるかもしれない。


 シャーリーは娘ということにするというのもいい。10人の大台を回避できるからな。


 よし、それでいい。それでいいじゃないか。


 そっと熊皮から外を覗く。船は遠くへと通りすぎていっていた。


「もう大丈夫そうですよ」

「そう。でも、もう少しこうしていたいわ」


「…………」


 なにかと追い詰められていく……。


 9人ともこの調子だとすれば、まるで自分の時間が取れないぞ。


 ……殺し屋引退が見えてきた…………。




 ロリジジイの『りすぽん地点』が見えてきました。山を越え、下り途中の山肌。


 アランさんに会いに行く途中、一度ルイマスが死んだので迎えに来た場所。勝ったな。


「逃れられると思うな、悪魔ァ!」


 神父がめちゃくちゃ追ってきます。体力無限のみーに追い付くって『ふぃじかる』おばけ過ぎませんか。


「ゲロ面倒臭いですね。くたばりやがれください。プン」

「殺せぬなら(はりつけ)にしてやるまでだ。止まれ!」


「止まるわけねーです。ゲズゲス」


 森を駆け抜ける競争。


 あ。やべ。たどり着いてからのこと考えてなかった。


 考えてなかったのにたどり着きました。あーやべぇ。


 少し開けた場所。その真ん中で泣く少女がひとり。みーの顔を見るなり立ち上がります。


「うぇええええん! やっど来"だぁ"あ"あああっ!!」

「っべー。マジっべー、です。アセア……ん」


 立ち止まった瞬間に、その場の異変に気付きました。


 ルイマスは一回くらい餓死しているだろうとは思っていました。ですが――。


 ――ここにあるのは、何十体。下手すれば100の死体です。明らかに異常が起きてます。


「やっと止まったと思えば……」


 神父が追ってきます。


「無垢な少女を人質に取る気か……悪魔め……!」

「よく周りを見てくだ」


「びぇえええええっ!」

「……よくま」


「うぉおおえええええっ!」

「ピキィッ。かき消すな」


 泣くルイマスの膝裏に『ろーきっく』をねじ込みました。彼女はゆっくりと倒れ込みます。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!! や"ざじぐじでぇ"え"え"ええッ!!!」

「よし。コラ神父。周りをよく見ろください」


 神父は死体の山を見て絶句しました。


 そしてひとつの顔を見るなり、ばっとルイマスを見ます。


「……お前は……」

「ぁああああああ! お前ぇええええ! お前のせいでぇええええ! うぇええええんっ!」


「ま、待て、私は……お前はなぜ生き返るのだ。どうして、この世界の人間であるお前が……」


 ズン。ズン。ズン。


 低い地鳴りがしました。嫌な予感がします。死体の山があるなら、それを作った主がいる、ということですから。


 この『ぱたーん』は、熊ですね。メガネキラーン。


 木を掻き分け――ではなく、折り(・・)分けて出てきました。


「え」


 人の身長くらいある頭が出てきました。顔は熊です。顔は。


 それが立ちます。問題は、その高さ。


 三階建てより、余裕でデカイです。


「でっ………………っか……」


 え。これ熊ですか。怪獣ではなく。


「――少女を守れ!」


 神父がみーの隣に立ち、武器を抜きました。


 共闘ぱたーん。まさか――マジの和解の予感。


「やりますよ、神父。ニコ」

「よし、唾を吐け」


「あれはやりません」

「今やらないでどうする!」


「いっかい、みーと同じ『ぞんび』を産み出してしまったんです。あの化け物熊がそうなったらヤベえです。やるなら他の手段です」


 指を千切って構えます。


「ろけっとぱーんち」


 熊の脚目掛けて発射しました。


 脚がふわっと避けました。


「あれえ」


 凄まじい勢いで地面に衝突し、刺さりました。


 みーの『ろけっとぱんち』を見てから避けましたアイツ。『格ゲー』勢に違いありません。なかなかやりますね。


 それはそれとして、みーの役割終了したんですが。埋まったら指を千切ったりできません。『すたっく』はすなわち死。


 ……頑張ったからよしってことにしてくれませんかね。


「役に立たん奴め。――逃げなさい!」


 くぐもった声が聞こえます。やはり神父はこっち側になりましたね。


「やだああああ! 責任とれぇえええ!」

「そ、それは……」


「責任とってぇええええ! チンポだせぇえええええ!」

「いや……意味が……意味が分からん……!」


 ズン。ズン。足音が響きます。


「くっ――ぉおっ!」


 凄まじい音と共に、肉を殴打する音が響きました。それから声がしないので遠くへ吹っ飛ばされたのでしょう。神父は脱落ですか。


「あああああああ! もうやだぁああああ! おぐ……う……へ……ぁ」


 ゴリゴリという音と、ミチミチという音が響きます。


 死に方エッグいですね……。


 またズンズンと鳴ります。今度はみーに近付いて来ました。


 あぁ……服を脱げばよかったですね。


 脚に圧がかかったと思った瞬間。ゴリッと振動が全身に響きました。食いちぎられたようです。


 ふー。やっとです。では死んでもらいましょう。


 新必殺技。ろけっときーっく。


 再生の瞬間、凄まじい加速でズボッと土から抜け飛翔します。


 そして、飛び蹴りが巨大熊の顔面に直撃しました。凄まじい衝突でもなお止まらず、みーの全身が破砕。


 飛び散った瞬間、再び再生。


 周辺の二区と骨が熊の頭蓋をあらゆる角度から貫き、即座に頭を破裂させました。


 ドーモ、熊サン。スゴイ頭骨粉砕ぞんび、デス。


 まるでニンジャのように華麗に着地しました。


 キマりました……。流石はみー……。


 立ち上がりました。ふと下を見ます。


 全裸でした。


「…………どうして……。プルプル……」

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