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貴いお方が裸同然とはどういう了見だ  作者: 能村龍之介
殺し屋、神話に巻き込まれるの章
44/118

39 発見、新種の昆虫

 ふっと目が覚め、隣にソフィアが座っているのが見えた。


 いつの間に病室に来ていたのだろうか。


「おはよーございますっ」

「おはようございます」


 ふと窓を見れば、外は暗かった。


「夜……いま何時ですか?」

「ん~~……たぶん、二時です」


「え。そんな深夜に?」

「あ、ち、違いますよ? 寂しくなっちゃってとか、そーいうんじゃなくて……」


「そういうんじゃないんですか?」

「……そーいうんです……実は。えへへ」


 彼女は顔を赤くして頬をポリポリと描いた。


「でも、アランさんの寝顔だけ見て帰ろっかなって」

「僕の寝顔なんて、見ても面白くないですよ?」


「面白くないですけど、すっごく可愛いですよ?」


 ああ言えばこう言う彼女に、思わず苦笑いしてしまった。


 そうだ。ステイシーへ報告しないとな。彼女を家に送るついでに塔へ行くとするか。


「……散歩に行きませんか?」

「え。怪我はだいじょーぶなんですか?」


「はい。走ったりなんかしなければ、意外と平気なんですよ。それに夜風に吹かれたい気分で……」

「へぇ~。じゃーいっしょに吹かれましょー」


 彼女が差し出した手を取り、その手を繋いだまま病室を出た。


 外はいつもの満月で、いつも通りの風が吹いている。


「きもちいですね~」

「ええ。いい夜風が吹いてます」


 彼女がキョロキョロと周りを見て、誰もいないのを確認して、さりげなく俺を道の真ん中に誘導した。


「どうしました?」

「せっかくだから、ふたりで真ん中歩きたいな~って。今なら迷惑じゃないですから」


 彼女は嬉しそうに腕を振って、夜の二人きりを満喫していた。


「このまま散歩するついでに、ソフィアさんを家にお送りします」

「わーい。あ、でも途中まででも全然いーですよ? 入り口のとことか」


「そうですね。では、そこまで送ります」

「ふっふっふ。ボディーガードなら任せてください」


 ソフィアは両手を構え、腕を振って闇夜と戦い始めた。


「しゅっしゅっ……ね? こんなこともあろうかと、アリアンナさんに習ってるんです、格闘術」


 その型は確かに騎士団の訓練で見るものだが、ソフィアのそれは拙く、とても相手を倒せるものではない。足止めもできないだろう。


 それでも、俺を守ってくれるらしい。


「……じゃあ、山賊が襲ってきたらお願いしますね」

「えへへ。おまかせあれーい。てやーっ」


 ソフィアが調子に乗って蹴りまで使い始めたちょうどそのとき、路地から二人の人影が出てきた。


「のわぁっ」


 彼女が驚いて直立の姿勢に戻る。だが彼らはただの通りすがりで、夜に暴れるソフィアを見てクスクスと通りすぎていった。


 直立不動のままうつ向いていたと思えば、ややぎこちなくこっちへ戻ってきた。暗くて表情は分からないが、彼女は何かを言おうとして、俺の手を取って歩き始めた。


 無言の彼女の頬に触れると、ひどく熱かった。


「……熱いですね」

「き、気のせいじゃないですか? はぁ~風がきもちいですね~」


 言葉とは裏腹に、その手はしっとりとしていた。


 しばらくの散歩のあとで外郭門に着いたが、ソフィアは立ち止まらず、人目の無い馬留めの場所まで進んだ。それから止まって振り向いた。


「着きました。お見送りありがとーございますねっ」

「いえ。気をつけて帰ってくださいね」


「はーい」


 手早く手綱をほどいて引き、馬を歩かせた。


 かと思えば彼女は俺に正面からぴったりとくっついて、見上げてきた。なんだろうかと思ったときに、しびれを切らせたように背伸びをしてキスをしてきた。


「……しちゃいました。えへへ。アランさんもお気をつけて~」


 そのまま馬を引き、外で乗って、そのまま走り去っていった。


 さて、ステイシーのところへ行くか。


 外囲いを伝って街の裏手へ行き、神の塔まで歩いて行った。そうして階段を登り、ドゥカがいた部屋よりさらに下の階に彼女らを見つけた。


 申し訳程度の明かりに蝋燭が付いている。あれは研究物資のついでに持っていかれなかったものだろう。


 病は石の床に丸まって眠っていたが、それに添い寝するステイシーは俺を見つけるなり起き上がって俺の元へ来た。


「起きてたか」

「はい。病さんは眠るようですが、みーは眠りません。ゴニョゴニョ」


 お互いに小声で話し合う。病はぐっすりと眠っているようで、呼吸に肩を揺らすだけ身じろぎもしなかった。


「途中経過を報告しようと思ってな。この国にエクソシストが来ていて、お前を悪魔だと思って探し回っている」

「ほう、そんな予感はしていました。この国に戻る途中の目撃者を、ゼロにはできませんからね。病さんの犯行もですか。ハテナ」


「全てお前のせいにされているだろうな。交渉して、その悪魔を見つけ出す代わりに神に会う方法を探ってほしいと言ってきた」

「ほほう、好都合ですね。みーの存在がアリバイになるなら、病さんを隠すのにちょうどいい。……ですが、その『えくそしすと』に神と会う方法を見つけられますか。そんな方法を知っていれば、とっくに会っていると思いますがね。ムムム」


「ああ。編み出されていれば当然、聖職者連中は使うだろう。だがな、俺にもアイデアぐらいはある」

「お聞かせ願いましょうか。ワクワク」


 彼女は低く腕を組んで、俺の顔を上目遣いで見上げた。もしかしたらぶりっこなのかもしれないが、暗い上に無表情すぎてむしろ不気味だった。


「この世界に似つかわしくない本があるらしいな」

「ルイマスが言っていた、星の理論の本でしょうか」


「それだ。俺はそれを、神が置いたものだと思ってる。ルイマスは他の世界の人間と言っていたが、賢者が認めるだけの理論がこの世界に革命を起こしたわけでも、異端だと排除されることもなく、どうして残り続けているのか。それは人が発表のために書いたからではなく、神が何かのヒントに仕込んだものだからじゃないか」


 彼女はうんうんと頷き、考え、「続けてください」と先を促した。


「星を消すだけならまだしも、病を俺たちの元へけしかけたり、自分の偶像を作らせたり、ほとんど直接人類に干渉している。ならあの本をさりげなく置いておくことも簡単なはずだ」

「偶像。そんな物を作らせるとは、神のクセに自己顕示欲に溺れていますね。どっかのポンコツ女神みたいです。ヤレヤレ」


「色々と考えたんだが、それだけやっているのに直接姿を現さないのはそれができないから(・・・・・・・・・)じゃないか。理由までは分からないが、できるならとっくに人類を支配して世界中を偶像まみれにするだろう」

「ふむ。確かにそうですね」


「だが、運命だか導きだかの形でヒントを出すことならできる。ならきっと、自分に会う方法をヒントにして残すだろう。もしそうなら、俺たちがこの世界にいるこのタイミングで、それが見つかるようになっているはずだ」

「……なるほど。かなり強引にも聞こえますが、そもそも病をみーたちの元へ寄越す神です。それくらいの無茶苦茶はやるでしょうね」


「理由あって俺たちをこの世界に連れて来たのなら、『どう動いてほしいか』を言いたいはずだ。俺たちから干渉する方法があるなら、それに導くだろう」

「ゆーの考えは分りました。それを本当だと仮定して……次はどう動きますか」

「……悪いんだが、悪魔として差し出させてくれ。どっち道、あのエクソシストを満足させて帰さないと増援が来ることになる」


 ステイシーは両腕を両肩ごと上げ、斜め上を見上げた。


「はーやれやれ、仕方ないですね。そう来ましたか。なら嫌でも応えるしかないですねー。チラチラ」

「要求は」


「…………」

「そこで黙るな。要求はなんだ」


「………………抱き締めてください」

「……」


「黙らないでください。恥を忍んで言ったんですがね、こっちは。プンプン」

「いや……意外だったからな」


「以前も漏らしましたが、ゆーのムラムラ空間のせいで、ちょっとだけゆーが好きです。『ちょっと』の所重要ですよ。ツン」

「分かった分かった」


 まだ何かを言おうとした彼女を抱き締めた。ステイシーは身体を強張らせたが、すぐ力を抜いて抱き返してきた。


 これでいいのなら安いものだな。そう思ったが、そもそもセックスもキスもできない彼女にとっては最大のスキンシップということになるのだろうか。


 安くても、彼女には大切なものなのだろうか。


「あっ。あらあらっ」


 急にソフィアの声がした。


 その意味が分からず、一瞬の間だけ動けなかった。それから階段下を見る。


 暗い闇の中に、ニヤニヤとした彼女が居た。


「ぜんぜん違う方向に歩いてるな~って思ったら……ふーん? アランさん。どーしてコソコソ会ってるんですか?」

「そ、ソフィアさん。これは」


「えへへへ……見つけちゃいましたよ? ステイシーちゃんもやっぱり、アランさんのこと好きなんですね~」


 誤魔化す時間すらくれず彼女は駆け上がって来て、抱き合う俺とステイシーをまとめて抱き締めた。


「でも、秘密はナシですよ? だって、みんなと別の恋人なんて……浮気、ですよ。……ね?」


 殺意によく似た、冷たい感情が見えた気がした。いかん。


「う、浮気はしませんよ」

「ですよね~っ。だいじょーぶですよ。アランさんはそんな人じゃないですもん。ね~っ」


 色々と不味いことになっている。ソフィアに振られるのはまだしも――ここにはもう一人いる。見つかるわけにはいかない、もう一人が――。


「あの……」


 病の声。いつの間にか起きて、半身を起こして俺たちを見ていた。


 ……終わった…………。


「あれ? アランさん。あの娘もそーなんですか?」

「いや、あの方だけは別です。えーっと……」


 どうにか誤魔化せないか。どうにかならないのか。


「ホントですか?」


 様子を見るような病の目にも遠慮なく、彼女はツカツカと部屋に入ろうとした。ソフィアの腕をステイシーが掴んで止めた。


「ひゃっ!?」

「みーから離れないでください」


「ど、どーしたんですか?」

「……さみしいので」


「……! か……かわいい……!」


 ソフィアが身体をくねらせて悶えたと思えば、ステイシーをぎゅっと抱き締めた。


「ほら……ママがさみしくさせないからねー……」


 すかさず俺も、ステイシーを挟んでソフィアに抱き着いた。


 ステイシーから二メートル。これが命の保証される距離。ひとりで困惑した顔をしている病はその外にいて、菌を噴出している状態だ。


 即ち、俺もソフィアもステイシーから離れたら死ぬ。


「あの、それであの子は……」

「ソフィアさん」


 ステイシーの頭上で彼女に無理やりキスをした。病の悲痛の顔。それを見られた瞬間に全てが終わる。


 もしかしたら、俺がこの手で魅了されたソフィアを始末することになるのだ。


 キスを止めると、ソフィアは「えへへ」と照れた。


「そーいう乱暴なの……けっこう好きかもです……」

「でもセックスは、優しいですよ」


「ホントですか? でも、乱暴にしちゃっても、アランさんになら……」

「……試しますか?」


 ステイシー越しに抱きついて、ソフィアの尻を撫でた。


 労働がどうとか言っている場合ではない。やるなら今だ。今やって状況を打開しなければならない。


 まさかセックスで世界を救うハメになるとは思わなかった。なんなんだ本当に。


「……ま、まだダメです」

「どうしてですか?」


「抜け駆けはダメって……」

「そうですか……。ソフィアさんの中を、いっぱい掻き回したいと思ったんですけど」


「……だ……ダメ……です……」


 確実にムラムラしている。こうなればどうにかセックスに持ち込むぞ。


 ふとステイシーの様子を見る。よし、だいじょう……。


 ……いやソフィアの死角で滅茶苦茶に握りこぶしを作っている。


 耐えろ。耐えてくれステイシー。ここは耐えるんだ。


「……下品なんですけどね、ソフィアさん。今すごくムラムラしているんですよ。今ソフィアさんとしたら、何回でもイける気がします」

「だ、ダメですアランさん……そんなえっちなこと言ったら……ムラムラしちゃいます……」


「ボウイの精子の味を知ってるんでしたっけ。僕の精子はどんな味がするんでしょうかね」

「はぁ……はぁ……!」


 いやお前は耐えるな。


 今ならいい。いいから。耐えるなソフィア。どうしてそこで耐えるんだ。こっちだって恥を忍んでこんなに気持ち悪いこと言ってんだぞ。


「す……ステイシーちゃんは……えっちできないんだっけ……」

「みーは無理です。死にますよ。ヒヤヒヤ」


「あ。あそこに可愛い子が……」


 ソフィアが病をロックオンした。


 止めろバカ。


「ソフィアさん。待って」

「で、でもぉ……」


「あの人は本当に違うんですよ」

「違うのは分かってます。私が、えと、またナンパなんてしちゃおっかなーって……。あの、フローレンスちゃんみたいに」


「いえ、彼女は……恋愛嫌いというか、そういうことに嫌悪感を持っている人なんです」

「そーなんですか?」


「確認済みです」

「……ってアランさんもナンパしようとしたんじゃないですかっ」


 彼女が俺をニヤニヤと見つめた。クソ。どんどんと彼女の中の俺が性欲モンスターになっていく感じがする。


「あの……ナンパって……」

「ハックシュン!」


 病が危うく嘘に致命傷を負わせようとしたのを、くしゃみで止める。もはや形振(なりふ)りなど気にしていられるか。


「わ。アランさん、風邪ですか?」

「いえ、たまたまです」


「そーなんですか。……ところでそこのお方~~~」


 ソフィアが病の方へ向かう。そこにステイシーと俺がくっついて三人の塊で歩く。なんだこの状況。


「はじめましてっ、ソフィアっていいます」

「あの……わたしは……」


「彼女はヤーマさんです」


 病が名刺を取り出そうとしたので、すかさず言葉を差し込む。これ以上の厄介はごめんだぞ。


「そーなんですか。よろしくお願いしますねっ、ヤーマさん」

「え……あの……」


「旅をしていて、ここにはたまたま来ていたそうです」

「ここで寝てたんですか? 宿がなかったら、うちに……」


「ヤーマさんは硬いところが大好きなんです。ねッ!」


 病に圧をかけて返事を求める。彼女は困惑したように頷き、少しずつ怯えたような顔に……まずい。


「ところでソフィアさん」


 両手でソフィアの頬を掴んでこっちへ向けさせた。


「ふもっ。……な……なんふぇすか……」


 彼女は病の方を向こうとし続けて、頬をむぎゅっと潰している。まさかあんな少しの表情で魅了の効果が出たのか。


「……ふぐぐ……」

「ソフィアさん何でそっちを見ようとするんですか」


「ヤーマさんが、ちょっと困ったような顔をしていたんれ……」

「こんな深夜に人が大勢来ちゃったからでしょう。とりあえずここ出ませんか」


「れも……ヤーマさん、こんなところれ寂しくないんれすか」

「寂しくないそうですよ。ですから」


「……もうっ、アランさんばっかり答えないでください!」


 ソフィアが珍しく怒った顔を俺に向けた。カップルの喧嘩など初めてだが、隣に世界の命運がいるので気が気じゃない。


「ご……ごめんなさい……わたしの……せいで……ぐすっ……」


 その命運が今度は心臓をむき出しにし始めた。止めろ、お前の泣き顔は本当にヤバい。


「あ、ヤーマさん。だいじょふぎゅっ」

「ソフィアさん」


「いーかげんにしてくださいアランさんっ! 私だっておこる時はおこっちゃいますよっ?」


 ソフィアの優しい性格と病の泣き虫が絶望的な噛み合い方をしている。いま見たら世界が終わるぞ。


 世界を救うなら――最もしたくないことであろうが、するべきなのか。


「ごめんなさい。でも言いたいことがあるんです」

「む~……なんですか?」


「あなたと買い物に行きたいんです。婚約指輪を」

「ふぇっ!?」


 彼女は目を見開いて俺を見つめた。畜生。なんだってこんなことになるんだ。


「ソフィアさん。結婚してください」

「あ……えっと……って今ですか!? あの、他人(ひと)もいるし……ステイシーちゃん挟んだままですよ……?」


 ステイシーは俺とソフィアの間でサンドイッチのチーズのように挟まれ、無言を貫いていた。


 余計なことを言わないよう配慮してくれているようだが、その代わりに俺の太ももをつねりまくっていた。さっきから脚がやたらと痛い。


「愛はいつ伝えても愛です。愛してます」

「それは……私もですけどぉ……。アランさんのお嫁さんか……えへへぇ……」


「僕は一刻でも早く帰って、あなたと抱き合って寝たいんです。セックスはできませんが、夫婦みたいに寝てもいいですか」

「も~しょうがないですね~」


 ステイシーを挟んだまま、さりげなく入り口の方へ歩き出す。六本の足がお互いに蹴らないように気を遣う様はまさに、新種の昆虫だった。


「っていつまでこうしてるんですか~」

「ソフィアさんの身体が暖かいので。ですよね、ステイシー」


「ですね。みーはヤーマさんともう少しお話ししようと思ってるので、塔の外でお見送りするまでお願いします。ポカポカ」

「もぉ~しょうがないですねぇ~。でへへ……」


 昆虫のまま塔を降り、入り口でやっと三人に戻った。折れた肋骨が痛む。今ので酷くなってなければいいのだが……。


「では僕たちは帰りましょう。馬で?」

「馬でーす。早く帰りましょっ。近くに留めてるので連れてきますね~」


 ソフィアは「そいねっ、そいねっ」と嬉々として少し遠くの森の木へ走っていく。たかが数日でそんなに俺と寝るのが恋しくなっていたのか。


 ソフィアが十分に離れたとき、ステイシーが俺の手を取り、薬指をつねり始めた。


「とんだ誤魔化し方ですね、キモ太郎。お陰さまで望んでもいない恋人関係になりましたが、どう落とし前をつけてくれるんですか。ピキピキ」

「俺だって、望んでもいない結婚をするハメになった。それで痛み分けにしてくれ。……だから指をつねるな」


「結婚なんざ勝手にしやがれでげす。みーを挟んでお幸せ『もーど』になりやがって。そのまま電撃離婚して、大勢の花嫁にリンチされやがれください。ゲスゲス」


 ステイシーはどうやら、やさぐれてゲスになったらしい。世界のために動かないと、世界の中にいる俺が死ぬんだ。恨むな。


「とにかく、病の居場所は変える必要があります。オススメの場所はありますか。ハテナ」

「人が全くいない場所となると……俺からは行けないが、ウォーカーのアジトはどうだ」


「分かりました。定期的に山を降りて、ソフィアさんの……家に行ったらイチャイチャさせられて戻れなくなりそうですね。なので、この塔に待機します」

「分かった。病は頼んだぞ。それと、エクソシストに差し出す作戦は、追って知らせる」


 ソフィアが馬を走らせてやって来た。


「お待たせしました~! 乗ってくださいっ」


 差し出された彼女の手を取って、馬に乗る。


「では、おやすみなさい。みーはあの方と……旅の話をしてます。ニコ」

「おやすみなさーい。ステイシーちゃんも、タイミングが合ったら添い寝しましょーっ。はいよーっ」


 馬が走り出す。


 ……どうにか助かった。


「はぁーあ」

「どうしたんですか。ため息なんて珍しいですね」


「アランさんとの結婚は嬉しいんですけどぉ、それはそれとして……ヤーマさんとえっちしたかったなーって」


 なんだこの性欲モンスター……。


「も~。アランさんがムラムラさせてくるからいけないんですよ?」

「ごめんなさい。僕もあのとき何故かムラムラしていて」


「……ねえ、アランさん」


 ソフィアが上体を起こし、俺にピッタリと寄り添った。


「セックスはダメですけど……」

「ええ」


「……ひょっとして、一緒にオナニーはセーフじゃないですか?」

「……アウトぉ……だと思いますね」


「そっかぁ……」


 露骨にガッカリした彼女とは無関係に、馬は走り続けた。


 そして沈みゆく満月の、夕陽のような影を見ながら、よく冷えた夜の風を浴びていた。




「ほう。有力な手がかり……ですか」


 モーニングスター神父がやや驚いたように、背筋を伸ばした。


 一晩たっても彼は大教会から動かないでいた。どうやら彼は、俺を待っているらしかった。


「ええ。もしかしたら見つかるかもしれません。嘘の情報じゃないかもう少し探りを入れるつもりですが……。そちらはどうでしょうか?」

「見つかりましたよ」


 彼はあまりに、あっけらかんと言った。仮にも神に会う方法なのだが、その事の重大さが分かっているのだろうか。


「神に会う方法がそんなに簡単に?」

「ええ、解は簡単なものです。もちろん、伝えるのは私が悪魔を狩ってからになりますが……。そこで方法だけ教えるのでは気が気でありますまい?」


「あなたが逃げるなんて思えませんが、確かに嘘を教えられる可能性もありますね」

「ええ、ええ。そうと思えば不安でしょう。ですから、その儀式は私が執り行います。そうしてあなたが主に謁見してから、私はこの地を離れる。それでよろしいですか?」


「もちろん。ありがとうございます」

「よかった。では、悪魔の情報を楽しみにお待ちしています。ごきげんよう」


「それでは」


 モーニングスター神父を背に、大教会を出る。


 悪魔狩りが近いと意気込んでいたせいだろうか。


 去り際に彼は、同業者(・・・)の目をしていた。

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