32 萌える変態
「さてそれで、ターゲットの確認をしよう」
「うむ。……なんだか、変な感じだな。こうしていると」
次の日の、アリアンナの私室でふたりきり。俺は椅子に座り、彼女はベッドに脚を下ろして座った。
「知った人間の知らぬ顔……というものかな。これはこれでよいな」
「今までの立ち振舞いの方が好みなら、そうする。俺はどちらでも構わない」
「否。そのままでよい。化けの皮が剥がれた丸裸の貴様だ。興奮しないわけがない」
「……そう。まず、料金についてだが」
「金を取るのかっ!?」
彼女は驚きのあまり、立ち上がって中腰になった。
「仕事だからな。どんな相手でも、無料でやることはない。プロの仕事を無料にしようというのは、搾取する者以外に誰も幸せにならないぞ」
「それはそうかもしれんが……」
「殺し屋になったからこそ、プライベートでは殺さん。神が自由意思を持ったらどうなると思う?」
「自分の思う善人だけ残して後は殺す……か? 神とはずいぶんと大きく出たものだが」
口では分かったように言うが、彼女の表情からは『話が違う』という雰囲気が滲んで止まらなかった。
まぁ……普通はそうか。
「もっと単純な理由がある。そもそも食っていけないからだ。実は報酬の多くは、調査や情報料、殺すための道具。何より証拠隠滅のための工夫に消えていく。手元に残る分は案外少ないから、一件こなせば安泰という訳でもないんだ」
高い金を取る割に利益になるのはごく一部で、それを資金洗浄し、公的な資産に変えた後に税金を払い……と減っていき、手取りはバイト代程度に収まる。
もっとも、殺し屋として働いている以上は贅沢な暮らしと無縁でなくてはならず、あまり困ったことはないが、仕事をし続けなければあっと言う間に食べることに困ってしまう。
なので、この世界にやって来ても大した損害はなかったのだった。貯金などありはしなかった。遅れた文化――と言うにはあまりにも不自然な歪さがあるが――のこの世界にノウハウを持ち込める点、むしろ利益とさえ言える。
「む。ならば仕方ないな。いくらだ」
「金貨五枚だ」
「うむ。分かった」
生活という身近なものに置き換わったからか、彼女は素直にうなずき、「そうか意外と貧乏なのだな」と何かを考える素振りを見せた。
「……生活に困っているような言い方をしたが、色々と依頼しようとはしないで欲しい。殺しを解決の常套手段にするべきではない」
「む、そうか。危うく早合点するところであったわ。我とて、愛する者の仕事を増やすために殺す相手を選ぶのは本意ではないからな」
「ああ、それがいい。では頭金を払ってくれ」
「今か?」
「契約完了の合図だ。いわゆる……けじめというものだな。銅貨一枚でいい」
「否」
彼女は言うなり立ち上がって、部屋の奥、ベッドの影に隠れた金庫を開けた。
そして、金貨五枚を取り出した。
「全額だ。いちいち払うのも面倒だからな」
「分かった。その方が俺もありがたい」
五枚の金貨を受けとる。一度に手にすると、やはりずっしりと来る。
「では……どう出る?」
「まずは、ターゲットのことを深く知る。弟の名前は?」
「名前は……確か、東の国へ移住してから名を変えたのよな。今は、えぇと……」
彼女は上を見上げ、あぁそうだと手を打った。
「ダンビラポイント・タナカ」
「だん……ダンビラポイント・タナカ?」
「うむ。ダンビラポイント・タナカだ」
ダンビラポイント・タナカ……。
また気の抜ける名前をしている……。失敗したな、いま聞くべきじゃなかったかもしれん。
「分かった。なら――タナカと呼ぼう」
「うむ」
「タナカは弟で、東の国で騎士になった。そうだな」
「そうだ。なんでも、騎乗戦では棍棒を得物にしていると聞く」
「棍棒か」
一般にはあまり強くないと思われがちだが、体格によっては棍棒は十分に強い武器だ。刃の角度や握り方を気にせず殴り倒せばいいので、素早くかつ咄嗟に攻撃しやすく、刃こぼれを気にしないで良いので防御面でも優れる。
鎧を着ている相手も、頭を殴って昏倒させ、剣で突き刺すという手順で簡単に倒せる。タナカほどの体格になるとヘルムを殴った衝撃が首に集中し、そのまま首を折ることになるかもしれないが。
「それで、タナカはどう戦う?」
「分からん。ただ、あの時抜いたのは剣だった。それだけは確かだ」
「剣技で勝つ自信があったということか」
「うむ。昔は剣の扱いが下手だったが、さぞ修行を重ねたのだろうな」
相手を止めるのに便利な棍棒と、殺す性能に特化した直剣。あの恵まれた体格でそのどちらをも使えるというのだから、やはり正面切っての戦いに勝ち目はないだろう。
「戦士としての戦果は知っているか?」
「噂程度ならな。例えば……単身で小隊を皆殺しにしたとか」
「単身で……か」
「決闘を申し込まれたときは素手で受けて立ち、相手の四肢をもいだとか」
「素手で四肢を……?」
「両腕の力だけで頭を潰したとか」
「いま熊か何かの話してないか?」
「いや、タナカの話だが……まぁさすがに、どこかで尾ひれは付いただろうがな」
火の無いところに煙は立たないとも言う。どうやら俺は、モンスターか何かを相手取ったらしい。
「それで、タナカに明確な弱点はあるか」
「うむぅ……。強いて言えば、集団行動だな。あやつはどうも単身でしか動けんのだ。身の振り方を知らず、理解もできず、最後には追い出されるのだよ」
「護衛もいなかったしな」
「そうだな。裏を返せば、それくらいしか知らんのだが……。タナカの弱点、か」
「構わない。……うん」
「どうした? アラン」
話に集中しようとすると、『ダンビラポイント』か『タナカ』が邪魔をしてくる。やはり最後に聞くべきだった。タナカという姓が悪いわけではないが、あの図体の白人がタナカか。
とはいえ、ダンビラポイントもな……。
「……昔の名前で呼ばないか」
「昔の……。何故だ?」
「実は、知り合いの名前に似ていてな」
「む。そうだったか。ならばそうしよう」
咄嗟の嘘で、どうにか打開できそうだ。いちいちダンビラポイントと呼んでいては気が抜ける。
アリアンナは居直り、やや緊張した面持ちで古い弟の名を口にした。
「ダンビラポイント・バーネットだ」
「ダンビラポイント・バーネット」
「そう。我がアリアンナ・バーネットだからな」
「ダンビラポイントはどこから出てきた?」
「うむ? どこから……って、そんなことはよいではないか。あの男をどう打開するか、それに集中すべきだ」
正論に、この件に関しては閉口するしかなかった。諦めてタナカと呼ぼう。
「いや……まぁ、いい。アリアンナの名で呼ぶなら、タナカと呼ぶ方がマシだろう」
「そ、そうか。嬉しいぞ。その気遣い」
彼女は少し頬を赤らめた。
「それで、アラン――タナカをどう打破する気なのだ?」
「そもそも、あれは外傷に強い。数々の傷跡を見て分かる通り、攻撃を受けた上で生きている。あれは運が良いだけではない。傷に強い体質だ」
「そうだな。と言うことは……毒殺か?」
「ああ。俺の考える最有力候補は、毒殺に限りなく近い」
「――! 分かったぞ。ステイシー嬢の呪いを利用しようと言うのだな」
「いいや。確かにあれを使えば一瞬で終わるだろうが、それはしない」
そう言うと、アリアンナは意外そうに俺を見た。
「そうなのか。殺し屋と言うものは何でも使うものかと思ったが」
「そういうヤツもいるな。本当に何でも使うタイプで、人体を凶器にしたりする。俺は、『半分そう』だ」
「半分?」
「俺は依頼主や同業者に、直接殺させない。元依頼者や協力者に関してもそうだ。殺す段階で組み付かせたり、クロスボウで撃たせたりはしない。これは俺の主義だ」
言いながら、まさに自分がステイシーの頭部を武器にしたのを思い出した。
…………あれはノーカウントだ。ステイシーが死なないというので取った手段だしな。そう、ノーカウントだ。
「情報や買い物というところで間接的に手伝って貰うことはする。その時は頼む」
「うむ。分かったぞ。それで……、ならば毒を作るのか?」
「いいや。確実に食事をすると分かっている場所がない以上、接種させることはできない」
「むぅ。では、どうするのだ?」
「真っ先に用意したいのは……地下だ」
「あ。先生」
組織の出入口、その洞窟から少し離れた喫茶店で、ボウイが俺を見つけた。
ここは彼がソフィアの家へ向かうのに通る道だった。
「どーしたの? ゆっくりしてる?」
「残念ながら、お前を待っていた」
「あ、仕事か……」
嬉しそうに座ろうとした彼が、動作の途中に躊躇いを混ぜた。殺し屋仕事など、それくらいでちょうどいい。
「えと、今日はどーするの?」
「奴隷商のところへ行って、情報収集する。どういうところを聞くか意識しておけ。作戦は向かいながら話す」
席を立ち、二人でバーへ向かう。いつものように混んでいて、話をするには都合が良かった。
バーに着き、奴隷商を呼び出し、いつもの席。
素性を隠すにやけ顔が、ボウイをもの珍しそうに眺めていた。
「へぇ~。ボウイ君がねぇ」
「な、なんだよ……」
「いいや? 珍しいと思ったのさ。前に来たときは居眠りして、ボスにこってり叱られていたからね」
「あー言わないで! もう……」
こちらをチラリと見て、彼はプイと顔を背けた。何を恥ずかしがっているんだ今さら。
「ま、今回は弟子同席ということだね。早速仕事の話をしよう」
「ああ、話が早くて助かる」
「毎度毎度言っているけれど、今回の相手は止めた方がいいよ、本当に」
「まだ何も言ってないが」
「分かるとも。ダンビラポイント・タナカだろう? 東の国で大活躍中の騎士――向こうでは武将と言うらしいけど――が急に戻ってきた。宣戦布告でもなければ、騎士団に戻ることを望んでいる。あの男なら多分……騎士団長の座を狙うだろうからね」
「依頼主も分かっている訳だな」
「かなり意外だったけどね。ま、毎日セックスに勤しむほどの相手だ。仕事じゃなくて愛する者を守るため……とでも言っておこうか?」
彼女が前のめりになりながら言うと、ボウイが顔を染めてうつ向いた。むにゅりと潰れた奴隷商の胸をチラチラと見ている。
……話に集中しろ。
「言っておくが、俺がこの国に来てからまだ一度もセックスしていない」
「え。……すまん。そうとは知らずに。わたしの不注意だった」
「なんだって?」
「だがまぁ……みんなキミのペニスに惚れ込んだ訳じゃあないんだろう。落ち込まないで」
「俺は、機能不全じゃない」
そう言うと、彼女は目を丸くした。それから、何か呆れたような顔をした。
「キミ……分からないねぇ、本当」
「……ね、先生」
ボウイがピッタリと俺にくっついて見上げてくる。
「なんだ」
「今回の依頼者って誰?」
「アリアンナだ」
「あ~。そっか騎士団長って言ってた……えぇえええっ!?」
勢いよく立とうとし、テーブルに腹をぶつけ、呻きながら座り直した。
「なんだい。今の会話から分からなかったかい?」
「い、いや、ビックリして……。そっか。じゃあアリアンナも先生の正体を知っちゃったんだね……」
「まあな。今回はいち依頼主だ。……ソフィアには知らせていないから、家でうっかり漏らさないようにしろ」
「う、うん。……え? 依頼主? お金取ったの?」
「当然だ」
「え~……」
ボウイが呆れたような、冷めたような目で俺を見た。奴隷商もわずかにそういう目をした。
「おい。お前まで俺を責める気か」
「いや……うーん。それが正しいと分かってても、こうも躊躇いなくやられるとモヤっと来るねぇ。ま、いいや。それで、どういう情報が入り用かな?」
やれやれとため息をひとつ吐き、相変わらずの前傾姿勢で乳をいじる彼女に向き直した。
「物件の情報と、あの男を釣り出せそうな情報だ」
「ふむふむ。言っておくけど、爆発は駄目だよ。住んでもない家に火薬を持ち込む作業なんてしたら、一発でバレる」
「そこは安心しろ。条件は二つ。ひとつは地下室。それに“組織”の洞窟の上にあること」
「……ほー? 今回の作戦も楽しみだね。少し他の準備をしてくるといい。すぐに見つけるからね」
本当にそんな顔をした奴隷商とは対照的に、ボウイは不機嫌な顔をしていた。
「ねー先生」
「ん?」
「先生って……穴を掘るのが好きなの?」
「いいや。そういう作戦が多くなったのは偶然だ」
「ふーん。……先生に掘って欲しいな~……なんて……ほら、おれの……」
彼は顔を赤くして、俺に密着した。こういうときにそういう話題か。
「アリアンナに毒されすぎだ」
「……キミ」
「なんだ」
今度は奴隷商だ。だが明らかに様子がおかしい。
「店にもお客を選ぶ権利があるって知ってるかな?」
奴隷商から、確かな殺意を感じた。間違いなく俺向きだ。
「待て。俺は誰ともしてない……」
「そーなの。先生さ、なんでエッチして欲しいって言ってもしてくれないの? 誰とも……」
「ボウイ。ちょっと黙れ」
「あーっ。彼女にそんなこと言って良いの?」
「少なくとも彼女ではないだろ」
「……女の子だもん……」
急に雰囲気まで少女にしてきた少年が、俺の腕にそっと抱きついた。
止めろ。その動作は俺が死ぬ。
「……アランくぅん?」
「待て。話せば分かる」
「……問答無用。どうせ使わないモノなんだろう。引き裂いてあげようね」
彼女がナイフを取り出した。いかん。
「ってか、何勘違いしてんだよあんた」
ボウイが急に少年に戻り、テーブルをバンと叩いて立ち上がった。
「勘違いじゃあない。キミは騙されているよ」
「これは、おれの意思ってヤツ。好きな人とだったら……その……エッチなこと……したいじゃん!」
「股間に従うもんじゃあないよ?」
「ボスとエッチしまくってるヤツに言われたくねーし」
ボウイの言葉に、奴隷商が珍しく顔を真っ赤にして、「んむぅ」と妙な声を出して黙ってしまった。
ジェーンと奴隷商はそういう関係だったのか……。
「そ、それは。……分かった分かった。わたしの負けでいいよ、全く。色々な人に愛されて羨ましいものだね、アラン君」
「どうも。できればもう、人数を増やしたくないところなんだがな」
「その口振り。また増えたのかい?」
「ドゥカというロボット――機械人形と、ルイマスという少女に生まれ変わった老賢者」
「ひょっとして、からかってる?」
「からかってない。俺だって、何かの悪い冗談なんじゃないかと思っているくらいだ」
「ま。でも事実なんだろうね。ルイマスを名乗る少女が騒ぎを起こしたって聞いたし」
「なんだと? いつだ」
「さっき。ま、生まれ変われるなら死んでも大丈夫だろうけれどね」
そういう……問題か。死んだら終わりじゃないというのも、恐ろしいものだな。
「前置きが長くなったね。物件は探しておくとして、あれを釣るエサなんだけど……。まぁ、キミが思い付くものがうってつけだよ」
「そうだろうな。情報収集できるというのなら、情報を流せるか」
「いいよ。金貨一枚」
情報料込みで、金貨三枚を差し出す。彼女は「うんうん」と受け取った。
「滞納しようとしない辺り、いいビジネスパートナーだよ。で、どんな情報を流す?」
「件の物件の地下で密会するらしい、とでも言ってくれ」
「隠れてセックスだね。分かった」
「物件は任せた。俺はビスコーサに会ってくる」
「戻ってくる頃には見つけておくよ。行ってらっしゃい」
席を立ち――。
「あ。一個だけ質問いいかな」
「どうした」
「なんでも最近、南西の方に大量の腐乱死体が出たらしくて、その死体の道がこの国に繋がるらしい。この国になにか、得体の知れないものがやって来たかもしれないんだが……なにか知らないかい?」
ステイシーだな。その死体は彼女の不死に魅入れられ、付け狙った結果、彼女の唾ミサイルの餌食になったという者たちだろう。
……そういえば唾ミサイルが相手を腐らせるのは菌の作用なんだよな……。
「知らないが……まさかそこから病が?」
「いや。そういう話は聞かない。明らかに悪魔のものとしか思えない病で死んでいるのに、誰も呪われていないんだ。妙な話じゃあないか」
ならきっと、死体から感染はしないのだろう。それもそうか。もし感染するなら、あの時居合わせた俺か動物辺りから広まるはずだ。
多分だが……菌が強力すぎて、むしろ自滅してしまうんだろう。適度に宿主を生かさないと感染症は広まれないと聞いたことがある。
「そう怖がらなくていい。むしろ、この国から出ていったのかもしれないしね」
「そうだな。だが一応気を付けておく。じゃあな」
ボウイと一緒にビスコーサの家に向かう。
ちょうどマジカルテックカンパニーの昼休みの時間帯で、家も近いビスコーサはいつも、一旦家に戻って昼食を取る。
家に入ると、やはり彼女は食事中だった。サンドイッチ盛り合わせと、デザートのバナナを食べている。
「いらっしゃいっす。その二人でここに来るってことは……」
「仕事の協力をしてほしい。できるか」
「もちっすよ。あ、座ってくださいっす」
ちょうど空きの席がふたつあるので、ボウイと座る。
「ごはん食べながらで申し訳ないっすけど……たぶん、技術的な問題っすよね?」
「そうだ。モーターがあるだろう」
「あるっすね。バイブに入ってるっす」
「それを駆動するための魔術。それが欲しい。あるいは、直接電源でもいいんだが……」
「ん~……。用途によると思うっすけど、魔術でならモーター駆動を経由した方が電気は出ると思うっすよ。電気なんてモーター回す以外に何に使うのか想像できないっすけど……。あ、遠隔っすか?」
モーターを回す以外の使い方が分からない……か。それは電気を利用していった先にある技術のはずなんだが。
やはり、この世界の技術発展は奇妙だな。
「いいや。手動で十分だ」
「手動で。なら、簡単にできるっすよ。モーターと、『魔術基板』さえ用意してもらえれば」
魔術基板は魔術を記録し、再生するための脆い石の記録触媒なのだという。書き換え可能な電子基板のようなもので、それよりも経年劣化や環境による破壊を受けやすい性質があるらしい。
もっとも、自然に壊れやすいのは魔術であって、事故でもなければ魔術基板は使えるらしいが。
基板によって使える魔術の種類と出力は、規格として厳密に決められている。それに詳しいのは――もちろん彼女だ。
ビスコーサへ、金貨を一枚差し出した。
「これで見繕ってくれ。足りるか?」
「十分っす。お釣りは次会った時に」
「いや、仕事料として受け取ってくれ。足りなければ追加で払う」
「え? 悪いっすよ。アランさんからお金を受け取るなんて……」
ビスコーサがそう言うと、ボウイがニヤニヤとした。
「ボウイ。依頼主のことを話すな」
「え? でも……」
「例え誰だろうと、だ。秘密は常に、依頼主と殺し屋の間だけに存在する。相手方の許可なしに話そうとするな」
「ちぇっ。はーい」
ボウイはすねて、また黙ってしまった。それを見たビスコーサ、バナナを取ってテーブルの下に隠した。
「……今日も可愛いっすね、ボウイたん……」
「……えへへ。ビスコーサもかわいいよ」
「その感じがたま……ジュル……たまんねぇっす……」
彼女はテーブルの下に隠していたバナナを取り出す。なぜか剥かれている。
「これ……あげるっす」
「わーい」
ボウイは嬉々として受け取って、あれと声を出した。
「なんかヌメヌメしてる」
「シロップかけたんす」
「おー。いただきまーす」
パクリと一口。それからハッとした顔になり、顔を染めて、股間を押さえた。
「どっすか……?」
「……ビスコーサの味がする……」
「グンフ……ふひひひひ……」
なにを食ってたらそんなこと思い付くんだ……。
吐きそう……。
「ごめんなさいアランさん」
「どれについてだその謝罪」
「自分。我慢できねえっす」
「は?」
おもむろに立ち上がったと思ったら、彼女は下半身を全裸にした。
「ボウイたん……お姉さんの穴におちんぽ入れてくれるかなぁ……」
「そ……それは……」
ボウイも立ち上がる。
「ごめんっ。そっちの初めては先生とじゃなきゃヤダ!」
「エッッッロ……。エッチじゃん……」
キッッッモ……。
アリアンナのキモさは変態のものだなと納得できるが、ビスコーサのそれは底知れない闇のキモさだった。
お前……。まさか自慰の回数を減らしたせいで闇が……。
ビスコーサはボウイからバナナを奪い、おもむろに挿入した。ボウイのかじっていた方を外に向け、テーブルの上で開脚する。
「じゃあ、お姉さんのおちんぽパクパクして欲しいっす。ボウイたん、チュパチュパできるっすかぁ?」
「……ん。いただきまーす……」
「んほぉ……」
ボウイもボウイで、手を使わずに口で食べた。
二口食べたところでバナナが、ニュルリと奥まで入った。
「あ」
「ん?」
「中に入っちゃったよ……?」
「え」
彼女は起き上がり、自分で確認する。そして涙目で俺たちを見た。
「い、異物混入ぅううう! ヤバイっす!」
「だ、出せないの?」
「だ、ひぃっ、でな……出なくなっ……ちゃっ……たぁ……! あぁあぁ……」
結局、彼女は午後休を取ることとなった。




